投稿 No. 2 (小金沢 智)


ご意見・情報の投稿

本展が、「「日本画」と「洋画」のはざまに」とあるように、それら二つの「揺らぎ」から出発していることについて、私の意見を述べたいと思います。今回の古田氏の文章には、以下のようにありました。

「こうした問題意識に基づいてこの展覧会の作品選定を行うことは、実に研究的な仕事であったと今にして感じるところですが、繰り返しますが、展覧会とはその答えを示す「場」ではなく、疑問を疑問のまま投げかけ、出来るだけ多くの答えを引き出す「場」であるべきであるというのが基本的な考え方です。」

ここで古田氏は「こうした問題意識に基づいての展覧会の作品選定」とおっしゃっていますが、これは今回の作品選定が、「なぜ日本画と洋画の区別があるのだろうか」という最も素朴な疑問から出発しているということでよろしいでしょうか。それはつまり、作品が「日本画」か「洋画」かだけではなく、画家が、「日本画家」か「洋画家」かという点も同様に考慮されているはずです。そしてそれら画家としての区別もまた、明治時代になり「洋画」の対立概念として「日本画」が生まれ浸透していった過程で誕生していることも意味します。そこで疑問が生まれます。
  確かに、展覧会に出品している作品は全て明治時代以降に制作されたものです。しかし、フォーカスしている狩野芳崖や高橋由一はもちろんのこと、出品画家の全てが、明治時代以降に生を受けたわけではありません。彼らは「日本画家」でしょうか?「洋画家」でしょうか?芳崖と由一が江戸時代に生まれながらも明治以降に活躍を始めたことを考えれば、そう言うことは可能かもしれません。では、例えば河鍋暁斎(1831–1889)はいかがででしょうか?
  1867年の明治維新を境にすれば、暁斎は江戸で36年、明治で22年を過ごし没しています。暁斎ははじめ歌川国芳に学び、後に狩野派に学んだ画家ですが、彼の画風は浮世絵諸派や狩野派だけに飽き足らず、その他円山四条派や琳派、土佐派といった様々な流派、及び画家から学び自らの筆に取り入れて活躍したことで知られています。画材は油絵具ではなく、墨や岩絵具といった「日本画」的画材を用いました。「日本画」という名称がない江戸時代以前の絵画は、例え墨や岩絵具といった「日本画」的画材を使用していても、厳密には「日本画」ではないという考え方をするのが研究者の間では一般的となっていますが、ここで暁斎のようなモデルを持ち出すと、その困難さが見えてくるのではないでしょうか?
  つまり暁斎のような、江戸と明治の「はざま」を生きてしまった画家を、その作品を、言葉で意義付けることの難しさです。暁斎の作品は、江戸時代のものは「日本画」ではなく、明治以降は「日本画」なのでしょうか?暁斎自身は、江戸時代は「日本画家」ではなく、明治以降は「日本画家」なのでしょうか?付け加えますが、暁斎の画力は時代が経つにつれ技術の向上こそ見られますが、芳崖のような明らかな「洋画」的変化は生涯見られませんでした。彼は一体何者でしょうか?
  私がここで主張したいのは、「日本画」「洋画」という問題は確かに日本近代美術史上の大きな謎としてありますが、それを「近代」(明治以降)だけの問題として考えるのではなく、江戸から明治といった連続の運動体として捉えない限り、数あるだろう答えは極めて少なくなってしまうのではないかという事です。
  暁斎の他に、今回の展覧会には選ばれませんでしたが、柴田是真を例えにあげれば問題はより明確になるかもしれません。是真は蒔絵師としてその名を知られていますが、蒔絵だけではなく本画も描いた画家でありました。しかし、暁斎と同様江戸から明治にかけて生きた彼は、私たちが今している「近世」「近代」という便宜上の枠組みによって、極めて低い評価しか受けていません。これは「蒔絵」と「日本画」(的絵画)、「江戸」と「明治」という「はざま」に落とされてしまった人物の不幸な例でしょう。
  確かに、近代以後の、「日本画」「洋画」論争は私たちの関心を強くひきつけます。山野氏が言うように、「日本画と洋画のはざま」「洋画と写真のはざま」「日本画と工芸のはざま」「具象と抽象のはざま」「古典と現代のはざま」「工芸と彫刻のはざま」といった問題提起は可能でしょう。しかし、それを近代だけの問題として扱うのでは、答えは見えづらいのではないでしょうか?今回も由一の作品に江戸浮世絵の影響が見られることが指摘されているように、決して「近代」は「近代」だけで成り立つのではありません。「揺らぐ近代」は、「近代」だけが揺らいでいるのではなく、同じく揺らぎを見せる「近世」(特に幕末と明治初期の関係)との相乗効果によって、より日本美術史における不安定な位置を保っているように私には思えます。これらの点に関して、企画者の方々のご意見を聞きたく思います。

小金沢 智 (24歳)
明治学院大学文学研究科芸術学専攻美術史コース
博士前期課程一年目
東京都


(2007/02/08 小金沢 智)


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