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展覧会投稿 No. 4  麻田浩の絵の魅力と「世界の3層構造」

投稿 No. 4  麻田浩の絵の魅力と「世界の3層構造」


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立命館大学法学部教員・村上 弘(53歳)

  私は、以前から麻田浩さんの絵には惹きつけられるものを感じてきました。
  まったく勝手な解釈かもしれませんが、「世界の3層構造」を描いておられるように思うのです。
  これまでは、「2層構造」だと思っていました。荒れ果てた地表の上に、人間の生活や文化の跡をとどめる物体が散乱しているのです。物体は、あるものは形をとどめ、あるものは壊れていて、「諸行無常」をあらわしているようです。珍しく壊れていない卵やガラス管があると、救いのようです。それに水滴や、鳥の羽などが加わります。これらも救済かもしれません。
  しかし、今回の展覧会で初期の作品を見ると、整った石床の一部が破れて、その下からグロテスクな人体の一部のようなものが覗いたりはみ出したりしている絵がいくつかありました。これは、3層目の下部構造のようです。1970年ごろの作品で、そういえば、日本は経済成長で繁栄しているが、その背後に、公害やベトナム戦争があり、学生として心の痛みを感じていた時期の気分に、非常に符合しています。その3層目のグロテスクな下部構造は、後の絵では姿を消し、代わりに整った石床が荒れた地表に変わっていくのです。この石床や地表は、社会の構造、つまり文化や政府や経済を意味しているかのようです。
  そして、地面の上の物体や水滴や羽が、多様化していきます。しかし時々地下から噴出するガスのようなものが見られるのは、3層目の名残かもしれません。
  私は政治学を教えているためか、この「世界の3層構造」は大いに実感できるところがあります。先進国の人々の諸行無常だが豊かな生活があり、先進国の一応安定した社会構造があり、その下に別の混沌が潜んでいるというわけです。もっとも、1970年代より世界がもう少しましになった(?)今日では、2層構造の絵の方が楽しめます。
  また、この2層または3層構造の枠組みは、意外と応用範囲が広くて、「地表」や「物体」をいろいろ取り替えると、さまざまな魅力的な作品が出来上がります。オランダの昔の静物画のようです。
  このように、深い意味世界あるいはさまざまな物体の組み合わせ様式を、ていねいな筆致で描かれたという点で、世界のシュールレアリストのなかでも最高レベルの画家ではないかと思うのです。

  さて、私の質問は、「麻田さんの絵(の一部)についての上に書いたような解釈が根拠付けられるものでしょうか」ということです。(麻田さんがそうした意図がなかったとしたら、失礼な解釈だとは承知しています。)

  それから、この機会についでのお願いですが、近代美術館はすばらしい絵画を多く所蔵しておられるので、もっと常設展示場を広げて下さったらと思います。麻田さんの絵も、なかなか登場しないので、残念です。

(2007/08/18 立命館大学法学部教員・村上 弘)

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