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教育普及・授業サポート 京都府立福知山高校(美術部)との連携

日時:2021年10月30日(土)10時~12時
会場:京都国立近代美術館 1階講堂
参加人数:生徒15名+引率1名


実施報告

 福知山高校美術部のみなさんが、当館のそばにある日図デザイン博物館(京都市勧業館みやこめっせ地下1階)で開催される「高等学校総合文化祭」への参加にあわせて、当館にも足を運んでくれました。これまで年1回の頻度で展示室の中で対話による鑑賞活動を行っており、今回はコロナの影響等で約2年ぶりの活動となりました。
 当日はコレクション展で自由鑑賞をした後に講堂へ移動し、展示作品のうち3点(幸野楳嶺《春秋蛙合戦図》印藤真楯《夜桜》粥川伸二《紅毛散策図(西婦倭装図)》)について、当館スタッフと共に対話鑑賞しました。

2021年10月実施 幸野楳嶺《春秋蛙合戦図》1894年頃 2021年10月実施 印藤真楯《夜桜》1897年 2021年10月実施 粥川伸二《紅毛散策図(西婦倭装図)》1919年頃

 なかでも京都の円山公園での夜桜見物を描いた印藤真楯《夜桜》は、作品をスクリーンに大きく投影することで、展示室では見えづらかった細部の描写まで確認しながら作品の印象を交流させていくことができました。
 一般的に美術館の展示室では作品保護のために照明が暗めに設定されていたり、混雑する会場では作品の前で長時間立ち止まることが難しかったりと、隅々まで鑑賞することが難しいケースもあります。特にこの作品を描いた印藤真楯は工部美術学校で画家フォンタネージに絵を学んだ影響で、バルビゾン派風の褐色がかった深みのある色調を特徴としています。今回見た《夜桜》では、松明に照らされた桜にまず視線が向かいますが、たとえば画面の前景にはさまざまな格好をした見物客が大勢いることが分かります。時間をかけてひとつひとつのモチーフを見ていくことで初めて“見えてくる”作品といえるでしょう。
 参加した生徒たちからも、
 「松明を持っている人がいる」
 「お酒を飲みながら花見をしている人もいた」
のように、人々の服装や動作についての意見が次々と出てきました。また遠方に見える家の明かりに着目して、
 「家の中からも桜を見ていた人がいるかもしれない」
と更に想像を膨らませた人もいました。それぞれが気になるモチーフを見つけ、そこから絵の世界に入り込んだようなつもりで鑑賞してみるという経験ができたのではないでしょうか。

2021年10月実施

 本物の作品を前にした場合、大きさや素材・筆致などの質感を感じ取ったり、周りに展示された作品との関係性を考えながら鑑賞することができます。他方で今回のように講堂でスクリーンに投影するやり方は、作品を隅々まで見ながらゆっくり対話を深めていくのに有効だということを、生徒の皆さんの反応から実感することができました。何を鑑賞するかということに加えて、どんな方法で鑑賞するかも柔軟に検討していくことで、より発見や気づきの多い鑑賞活動を目指していきたいと思います。

(当館特定研究員 松山沙樹)

<生徒の感想(一部)>

・これまでの鑑賞することの私のイメージは、その絵の中に込められた思いを「自分一人で」発見していくことだったけれど、対話型鑑賞では様々な視点から絵を見ることが出き、ひとりでは気づけなかっただろう作者の細部の工夫を発見することができました。

・2つ目の桜の絵では、私は寂しいような雰囲気を感じていて、桜とお別れするような絵だと思っていたけど、対話型鑑賞をして、人の服装やお酒があることに気付いて楽しくにぎわっている絵でも捉えることができ、ちがう見方もでき興味深く感じました。

・日本の風景画が描かれた風景画を見ていると、額縁が窓枠に、絵画が現実の景色に思えて、まるで自分がそこにいるかのように感じた。また、他の人が風景画に見入っているのを見て、うまく言えないけど見ている人と風景が一体化して一つの作品として完成しているように見えてきてた。自分が絵画に引き込まれる時に伴った感情は、作品の一部になったことで発生したのだと思い、なんだかうれしくなった。

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