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教育普及・授業サポート 令和元年度 図画工作科・美術科夏季連携講座 実施報告

日時:2019年8月5日(月)午後1時30分~5時
会場:京都国立近代美術館1階ロビー、4階コレクション・ギャラリー
参加人数:参加者49名、スタッフ16名
共催:京都市教育委員会、京都市図画工作教育研究会、京都市立中学校教育研究会美術部会
スケジュール:
13:30 挨拶、オリエンテーション「美術館を活用した授業について」
14:00 研修の方向づけ
14:10 展示室にて鑑賞ワークショップ
15:00 指導案作成ワークショップ・発表
17:00 終了


実施報告

 当館では毎年、京都市の学校教員の方を対象とした「鑑賞」をテーマにした研修会を開催しています。今年度は京都市教育委員会、京都市図画工作教育研究会、京都市立中学校教育研究会美術部会との共催で、休館日の美術館にて、小中学校および支援学校の先生方を対象とした研修を行いました。定員を上回る応募があり、鑑賞教育の充実を目指したワークショップやディスカッションを通して館内は熱気にあふれました。

オリエンテーション

 まずは当館の教育普及担当研究員が、美術館と学校の連携事例を挙げながら美術館活用のポイントについてレクチャー。本物の作品や美術館の建築空間、研究員といった美術館に特有の資源を活用しながら、子どもの視野が広がり、充実した学びにつながるような授業づくりを目指してほしいと話しました。

「美術館活用のすすめ」(当日配布したものから一部改編しています)[PDF:579KB]

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鑑賞ワークショップ

 その後はグループごとに展示室へ移動し、研究会所属の教員がリードしながら「テーマ別鑑賞」と「対話による鑑賞」をおこないました。子どもたちが鑑賞する場面を想像しながら、「色はどうですか」「どんな形があるでしょう」など造形的な見方がはたらく問いを投げかけることや、事実と印象を分けながら対話を進めていく方が良いことなど、授業を進める上での教員の具体的な役割について話し合うグループも見られました。

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指導案作成ワークショップ

 ここからは、グループ別に作品と対象学年を決めて指導案を作っていきます。
 さきほどの自身の鑑賞体験を振り返りながら、「子どもたちは作品のどの部分に注目するか」「絵の中で気づきにくいところはどこか」「中心発問はどうするか」など、子どもの視点を意識しながら授業の流れを検討。普段は一人で授業案を考えることが多く相談できる相手がいないという悩みを抱える先生もおられましたが、この日はグループの仲間と意見を出し合いながらの活動ということで、日ごろの実践の中での成功体験や失敗談なども積極的に共有されている様子が印象的でした。

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 小学校中学年を対象学年としたグループでは、「小人になって鑑賞!」という題材を作成。15点のガラス作品が展示された「世界のガラス工芸」のコーナーで、「自分が小人になったとして中に入って遊んでみたい作品」を探し、他者とも意見交流を深めるというものでした。
 別のグループは、同じく小学生対象に立体作品を用いた活動でしたが、「とっておきのプレゼント」という題材で、1点を選びそれをどんなふうに「包みたいか」を考えるというものでした。どのような素材や大きさのもので包むのか、作品の色や形の特徴が生きる包み方はどんなものかを考える活動を通して、造形的な見方や考え方を育みたいというねらいがあるとのこと。
 中学3年生を対象学年としたグループは、中央がニードルワークで周囲が着色された、ウォーレン・ヴァリナ《丈高く青い夏草の中にむらさきのジキタリスの花が育つ》を課題作品として選定。学校での事前学習として作品の中央部分だけを鑑賞した後、美術館で本物の作品を鑑賞。そのうえで、なぜ周りの部分は描かれているのか、額縁の中にさらに額縁があるような表現にしたのはなぜか等々、作者の意図や表現の工夫に迫りながら議論を深めるというものでした。

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 今年は3年ぶりに、半日という比較的長い時間を使った研修でした。展示室でいくつかの鑑賞方法を体験することに加えて授業案作成というアウトプットの活動も取り入れたことで、現場で生かせる視点や工夫を得られる機会になったと思います。
 新学習指導要領にも示されているように、これからを生きる子どもたちは、想像力や思考力、新しいもの・ことを自ら創り出していく力を身につけることが一層重要になります。図工や美術の「鑑賞」は作品と向き合って自分なりの価値を見出すという創造的な活動で、こうした力の育成には欠かせない活動といえるでしょう。美術館としても、こうした研修会の開催や学校と連携した取り組みを継続しながら、先生方と共にこれまでの方法だけに捉われない美術館活用の可能性を拡げていきたいと考えています。

(当館特定研究員 松山沙樹)

講座を振り返って

 13:30~17:00と例年の秋に行う研修の倍の時間を使って、しっかりと作品と向き合う鑑賞ができました。鑑賞で実際に得た気づきや学びをそのまますぐに授業案としてアウトプットすることで、より授業での実践の具体が見えてきたと思います。また、小学校での発達段階に応じた言葉がけや授業の進め方など丁寧な授業計画が中学校の先生にとって学びとなりました。9年間の学びを見通した、図画工作と美術の小中連携がより具体化していくことで子どもたちの学びがより深まること、またその必要性を強く感じました。

(京都市総合教育センター指導主事 桝本徳裕)

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