コレクションにみる<生存のエシックス>

期間
2010年7月2日(金)〜8月22日(日)
展示作品
コレクションにみる<生存のエシックス>展示目録

 今期コレクション・ギャラリー会期中に3F企画展会場で開催されている、「京都市立芸術大学130周年記念事業協賛<生存のエシックス:Trouble in Paradise>」展に関連し、「コレクションにみる<生存のエシックス>」と題して、環境と人の在り方にヒントを与えてくれるような作品をコレクションから選んで展示します。
 会場でひときわ目を引く大きく重々しい《黒い上衣》とその左にならぶ2点のタペストリー《地球の心電図》と《地の襞》は、マグダレーナ・アバカノヴィッチと礒邉晴美という二人の女性作家の手になるものです。二人は一貫して、地球(社会や環境)と人間の関わりをテーマに作品を制作してきました。人間が生存していく上で不可欠な衣服を構成する繊維(ファイバー)、ここでは麻やウールを用いて作られたこれらの作品には、この地上で彼女たちが生きてきた時間と生きる意志とが織り上げられています。
 正面に展示された、瀧が流れる谷川岳の景観を描いた森田曠平の作品《谷川岳・春 / 秋》と、決して0になることなく9から1までの数字がランダムに現れる宮島達男の発光ダイオードによる作品は、水のたゆたうことなき流れから、輪廻する生命の連続性をも想起させます。しかしそれらに続いて野島康三による浅間山の写真と岡鹿之助の水力発電所を描いた作品《山麓》を見たとき脳裏に浮かぶのは、「八ッ場(やんば)ダム」建設問題に代表される、開発と環境保全つまり都市に代表される近代的な人間の生活環境と自然環境との共存問題にほかなりません。
 19世紀の産業革命以降、人間生活・社会生活においては利便性が追求され、それが生きていく上での幸福の指標でもありました。しかしその幸福は、自然環境の劣悪化や過酷な労働に支えられているものであることを、牛島憲之が描いた静謐な《街》の情景や、アメリカの工業都市ピッツバーグを撮影したユージン・W・スミスの写真、そして社会の暗部をテーマに制作し続けた秦テルヲの作品は示しています。このような矛盾は、今でも常に私たちが生きていく上での根本的な問題であり続けています。そしてその問題と真摯に取り組まなかった結果がどのようなものであるかを、1986年に旧ソ連(現ベラルーシ)のチェルノブイリで起こった史上最悪の原発事故をテーマにした鯉江良二の作品は、静かに語りかけてくれるのです。


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