没後30年 W・ユージン・スミスの写真


没後30年 W・ユージン・スミスの写真
W・ユージン・スミス 《仕事中のチャップリン:無題》 1952年
京都国立近代美術館蔵
 グラフ雑誌『ライフ』などに数多くの優れたフォト・エッセイを発表、また水俣に居住しながら有機水銀による公害の実情を世界に伝えるなど、フォト・ジャーナリズムの歴史に偉大な足跡を残したアメリカ人写真家、ウィリアム・ユージン・スミス(1918–1978)がアリゾナ州ツーソンで死去したのは1978年10月15日のことでした。
 京都国立近代美術館は過去15年にわたりW・ユージン・スミスの写真作品を継続的に収集してきました。これらの作品は、取材パートナーとして水俣公害の実態を共に記録し報道してきた、彼の伴侶でもあったアイリーン・美緒子・スミスが厳選して手元に保管してきたものです。このコレクションは、グラフ雑誌『ライフ』の戦争通信員として撮影した《第二次世界大戦》(1943–45)をはじめ、フォト・エッセイの記念碑的作品《カントリー・ドクター》(1948)、《スペインの村》(1950/51)、《慈悲の人シュヴァイツァー》(1954)、ほとんど自己資金のみで挑戦した野心作《ピッツバーグ》(1955–56)、そして公害を世界中に伝えた最後のシリーズ《水俣》(1971–75)など、スミスの写真家としての活動の全容をほぼ網羅しています。そのプリントの大部分は印画の質に極めて厳格であったスミス自身が手がけた貴重なものであり、約280点の写真作品のすべては、最終的に「アイリーン・コレクション」として京都国立近代美術館の所蔵となる予定です。
 カンザス州ウィチタに生まれたW. ユージン・スミスは、15歳で雑誌に写真が掲載されるなど早くからその才能を開花させ、18歳になった1937年にプロの写真家を目指してニューヨークに移りました。この時期は写真を中心に据えた報道週刊誌『ニューズウイーク』(1933創刊)や『ライフ』(1936創刊)などが爆発的に部数を伸ばし、グラフ雑誌とフォト・ジャーナリズムという新しいメディア・スタイルが登場し隆盛へと向かった時代です。写真家W・ユージン・スミスの軌跡と業績は、フォト・ジャーナリズムの歴史と重ね合わせて評価され検証されてきました。現代にまで続くスミスへの高い評価とほぼ等量の批判は、彼が写真家として貫き通したその主観的制作態度に起因する必然かもしれません。
 従軍したサイパン、硫黄島、沖縄の最前線で戦場の現実に直面したスミスは、人間の尊厳に対する疑問と同時に、「私はカメラの向こう側にいたかもしれない」という、報道写真家としてはタブーともいえる根源的な問いを受け入れてしまったと言えます。戦争での体験からスミスは、「カメラ=中立的な視線」、「ジャーナリズム=客観的」という近代写真とフォト・ジャーナリズムをめぐる神話的言説に対して強い疑念を抱くようになります。第二次大戦後のスミスは、「決定的瞬間」的な撮影態度から決別し、過剰とも思える時間と労力を費やしながら緻密な取材を重ね、主題や対象の本質に迫る、時にはそれを超えた普遍性を追求するかのような優れたフォト・エッセイを数多く制作し、グラフ雑誌に発表しました。
 彼が目指したものは、視覚的現実よりも「真実」により迫る写真、観る者に強く訴えかける、真実を象徴的に明示できるイコンとしての写真でした。近年の研究により、スミスが古典絵画の構図や明暗対比を巧みに取り入れていたこと、暗室で多重焼付や大胆なトリミングを駆使していたことが明らかになっています。記録性や客観性をドグマとするドキュメンタリー・フォトグラフィーの世界に止まりながらも、スミスは主観にもとづく創作姿勢と方法論を貫き続けました。この態度は写真家W・ユージン・スミスの自己矛盾として批判されてきましたが、現代の私たちはそこにスミスの、近代の写真とドキュメンタリーに対する個人レベルでの批評的営みを、写真家を超えた表現者を目指した一人の写真家の挑戦と葛藤を読み取ることができます。
 2008年の時点でアイリーン・コレクションの収蔵・登録はようやく全体の半ばを過ぎたところですが、没後30年にあたる今年、このコレクションを「アイリーン・スミス・コレクション」として一般に公開し、彼が写真に託してきた理想と、表現としての写真の可能性の一局面をあらためて検証する意義は大きいと考えます。今回の展覧会は170点の写真によって、W・ユージン・スミスの全体像を紹介します。



mooShow
loading


関連イベント
記念講演会「ユージン・スミスと私」
日時:8月9日(土)午後2時〜3時30分
 (当日午前11時から整理券配布)
講師:アイリーン・美緒子・スミス
場所:当館1階講堂 聴講無料、先着100名

会期
平成20年8月5日(火)〜9月7日(日)

休館日
毎週月曜日(休日の場合は翌日)

開館時間
通常の開館時間
 午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
9月5日までの金曜日と8月16日(土)の夜間開館日
 午前9時30分〜午後8時(入館は午後7時30分まで)

主催
京都国立近代美術館

観覧料
  当日 団体(20名以上)
一 般 420 210
大学生 130 70
高校生以下 無料 無料
広報資料
ポスター(B2判) デザイン案

(2008/06/24)

チラシ デザイン案
(2008/06/24)

チケット デザイン案
(2008/06/24)

チラシ  PDF(715KB)

(2008/07/11)



このページの先頭へ