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教育普及平成28年度 京都市図画工作科指導講座
京都国立近代美術館との連携による「鑑賞指導の体験教室」 実施報告

学習支援活動

平成28年度 京都市図画工作科指導講座
 京都国立近代美術館との連携による「鑑賞指導の体験教室」 実施報告


日時
2016年8月8日(月)午前9時30分~午後5時

会場
京都国立近代美術館1階講堂、4階コレクション・ギャラリー

参加人数
小学校教員36名、スタッフ10名

共催
京都市教育委員会、京都市図画工作教育研究会

スケジュール

  9:30 オリエンテーション
10:30 鑑賞ワークショップ①(テーマ別鑑賞)
11:00 鑑賞ワークショップ②(対話による鑑賞)
12:30 昼食休憩
13:30 鑑賞ワークショップ③(授業づくり)
14:30 全体交流会
15:20 講演(東京学芸大学 西村德行氏)
16:30 まとめ
17:00 終了

 本講座は、小学校の図画工作における鑑賞授業の指導力向上を目的に、当館が京都市教育委員会と京都市図画工作教育研究会(図工研)との共催で実施しています。今年で5回目を迎え、これまで多くの先生方が、本物の作品を前にした演習や講演を通じて、鑑賞活動の意義を体感してこられました。また、本講座をきっかけに美術館の活用に前向きになられる先生も多くおられ、学校と美術館の連携を促進するという意味でも有意義な講座になっています。
 先生方の声をもとに毎年内容を見直していますが、今年は、グループごとに鑑賞の授業を考え、全体で交流する活動を新たに組み込むことで、実践に生かせるアイデアをより多く現場に持ち帰ることができるよう工夫しました。

鑑賞ワークショップ①(テーマ別鑑賞)

 各グループには図工研所属の先生がファシリテーターとして入り、一日のグループワークを主導します。
 最初の活動は「テーマ別鑑賞」。当館のコレクション・ギャラリーを会場に、ファシリテーターが決めた「テーマ」に合うと感じた作品をさがした後、自己紹介も兼ねて選んだ作品について話します。
 あるグループのテーマは「するどい」。”鋭い線が使われている抽象画”を選ぶ人もいれば”心に鋭く突き刺さる写真”を選ぶ人もいて、言葉から膨らむイメージの幅広さが際立っていました。また「○曜日」をテーマにしたグループでは、それぞれが選んだ作品について「その作品は何曜日だと感じたのか」を他のメンバーが当てる活動を行い、それぞれの感じ方の違いを楽しんでいました。

平成28年度 京都市図画工作科指導講座 鑑賞ワークショップ

鑑賞ワークショップ②(対話による鑑賞)

 次に、ファシリテーターが事前に選んだ作品の前で、対話をしながらの鑑賞活動を体験します。
 はじめに30秒~1分ほど一人で鑑賞したあと、ファシリテーターからの問いかけに応じながら、作品に描かれているものや作品から感じる印象についてグループで自由に話をしていきます。テーマ別鑑賞で緊張がほぐれたこともあってか、和やかな雰囲気の中で臆することなく意見を言い合い、また他者の意見にも積極的に耳を傾ける姿が多く見られました。

平成28年度 京都市図画工作科指導講座 鑑賞ワークショップ 平成28年度 京都市図画工作科指導講座 鑑賞ワークショップ

鑑賞ワークショップ③(授業づくり)

 午後からは、美術館を活用した鑑賞授業についてより実践的に考えました。グループごとに「対象学年」「題材名」「活動のねらい」を明確にした上で、展示室にある作品を用いた授業の指導略案を作成します。ここでは、全体交流会で発表された授業案の一部を簡単にご紹介します。

対象:
2年生 題材名:「なかま見つけ!」
内容:
美術館に展示されている作品を鑑賞しながら、「色」や「技法」、「人物が登場する」といった観点で共通点がある(=“仲間”)と感じる作品を見つけ、友だちと意見交換をする。
対象:
5・6年生 題材名:「きこえてきたよ」
内容:
抽象度の異なる3つの作品(人物や波の様子が具体的に描かれている三輪晁勢《滞船》、樹木のみが描かれている麻田鷹司《夏山》、抽象的なモチーフによって構成された堂本印象《規範への抵抗》)について、作品のどこからどのような音が聞こえてきそうか、理由も含めて考え、交流する。
対象:
5・6年生(育成学級) 題材名:「色をぬすみだそう!!」
内容:
美術館に展示されている作品をカードに印刷し、事前授業として「本物を見たい作品」を選ぶ。美術館で鑑賞を行った後、続いて「お気に入りの作品」を探し、その作品の中から「色」を一つ選ぶ。事後授業として、選んだ色について絵具を混ぜ合せて再現し、その色に名前をつけて友だちと交流する。
平成28年度 京都市図画工作科指導講座 鑑賞ワークショップ 平成28年度 京都市図画工作科指導講座 鑑賞ワークショップ

講演

 東京学芸大学より西村德行氏をお招きし、子どもたちが身の回りの世界の見方を変え、広げるための図工の授業のあり方について、小学校での実践事例を中心にお話しいただきました。
 はじめに小学校の図工では「表現と鑑賞は表裏一体」で、子どもたちは手を動かして何かを作っている時にもそれを自分の目でしっかり見ているというお話があり、この考えに基づいて実践された授業例が紹介されました。子どもの「いたずら心をくすぐる」取り組みの数々に、参加した先生たちは興味深く聞き入っていました。

平成28年度 京都市図画工作科指導講座 講演

講座を振り返って

 今回の講座はほとんどの活動をコレクション展会場のみで行いましたが、どのグループも一日を通して、作品についての対話が終始弾んでいた様子が印象に残りました。アンケートには「子どもの頃はとても苦手だった鑑賞がとても楽しく感じた」、「(鑑賞活動が)お互いの存在を大切にしあえる人間関係を作っていく手だてとなると思った」といった感想があり、見れば見るほど、話せば話すほど、作品の見方が広がるという鑑賞活動の楽しさや意義を感じていただけたと思います。ぜひ今回の学びを現場実践に生かして、子どもたちに鑑賞活動の醍醐味を伝えていただきたいです。

(当館特定研究員 松山沙樹)


 京都国立近代美術館での図画工作指導講座は今年で5回目となりました。美術館にご協力をいただいて、鑑賞教育についての実践的な指導力の向上を目指して、今年も本講座を開催させていただきました。
 今年は、テーマを決めて鑑賞する「テーマ別鑑賞」と対話をしながら作品から感じたことを話し合う「対話による鑑賞」の2つの鑑賞の仕方を参加者の方に体験していただきました。アンケートには「グループで色々な見方を交流したことが興味深く面白かった。」「グループの人と意見を交流する経験をして新しい見方が出来るようになった。子ども一人一人の考えを大切に、授業に生かしたい。」など、たくさんの感想や意見が書かれていました。それぞれの鑑賞の仕方の違いやよさが実感できたと思います。
 午後からの授業づくりでは、「クイズを作って、お気に入りの作品を紹介する」「作品の共通点を探して仲間見つけをする」など、楽しい活動でありながら、子ども達の資質・能力を育てる素晴らしい授業のアイデアがたくさん生まれました。
 子ども達には、鑑賞活動を通して周りの人と温かいコミュニケーションをとりながら、作品のよさや美しさを感じ取る心豊かな時間をたくさん経験してほしいと思います。この講座が、そのスタートになることを願っています。
 貴重な作品を使わせていただき、講座内容についてもたくさんのアドバイスをいただきました京都国立近代美術館の方々のご協力に感謝し、心より御礼申し上げます。

(京都市総合教育センター指導主事 久米昌代)


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