写実の系譜I 洋風表現の導入 −江戸中期から明治初期まで−

 日本の近代洋画は、江戸末から明治初期にかけて、川上冬崖、高橋由一らの手によって黎明期を迎えたと、一般的には考えられている。しかし、更に時代を溯って、江戸中期以降の蘭学の解禁とともに広がりはじめた洋学研究、つまりオランダとの交易を通して移入されたオランダや他のヨーロッパの国々の書物の挿絵、銅版画等から学んだ遠近法や明暗法を用いて試みた絵や版画の中にも、すでにその曙光をみとめることができよう。

 早い例は1740年代の奥村政信の浮絵や円山応挙の眼鏡絵にはじまり、つづいて1770年代以降、小野田直武、佐竹曙山らの秋田蘭画や司馬江漢、亜欧堂田善らの江戸系洋風画として成立し、また当時の海外との唯一の窓口であった長崎では、長崎系の洋風画が成立を見た。これらの洋風表現の影響は、谷文晁、渡辺崋山ら江戸南画や、葛飾北斎、歌川広重などの浮世絵版画にも及び、これまでの絵画には見られなかった個別性と迫真性を彼等の作品にもたらし、その追求において彼等は近代絵画の先駆をなしたのであった。

 わが国の美術における写実の系譜を辿ろうとすると今回の展覧会は、その第一部として江戸中期から明治初期にかけての写実表現の流れを、洋風表現の導入という視点から捉え、日本の絵画における近代の胎動と成立を探ろうとするもので、全体を時代と傾向の違いから七つのジャンルに分け、江戸期に活躍した画家23人と、幕末、明治初期に活躍した洋画家9人の作品(国宝、重要文化財を含む)約190点によって構成された。

 この展覧会は東京国立近代美術館の60年度特別展として企画されたものであり、京都国立近代美術館が新館工事中のため国立国際美術館を会場にして開催された。

会期
12月7日(土)〜昭和61年1月19日(日)
入場者数
総数 3,465人(一日平均 111人)
共催
東京国立近代美術館、国立国際美術館
出品目録
作者名 作品名 制作年 材質・形状 寸法(cm)
奥村政信 芝居顔見世大浮絵 紙本木版筆彩 42.2×63.5
円山応挙 金閣寺(眼鏡絵) 紙本彩色 20.5×27
瀬田橋(眼鏡絵)
清水寺(眼鏡絵)
知恩院(眼鏡絵)
円山応挙 祇園社(眼鏡絵) 紙本彩色 20.5×27
四条芝居(眼鏡絵)
高雄(眼鏡絵)
宇治(眼鏡絵)
歌川豊春 浮絵金竜山開帳之図 紙本木版色版 26.5×38.7
浮絵三廻之図 24.7×37.3
浮絵大川之図 24.3×35.7
浮絵中秋月見之宴 26.3×36.8
浮絵能狂言之図 25.1×37.8
小田野直武 風景 絹本彩色・軸 60×25.4
鷹図 108×43
111.8×67
蓮図 106×32.6
鷺図 107×49.5
洋人調馬図 50×83.5
富嶽図 43×77
不忍池図(重要文化財) 98.5×132.5
伝 小田野直武 梅屋敷図(眼鏡絵) 紙本彩色・額 25.2×38.5
不忍池図(眼鏡絵)
佐竹曙山 燕子花に西洋ハサミ 絹本彩色・軸 89.5×30
松に唐鳥図 173×58
佐竹義躬 松にこぶし図 121×31
百合図 紙本彩色・軸 123×34.5
司馬江漢 江戸橋より中洲を望む図 c.1776 紙本彩色 31.6×45.3
三囲景図 1783 紙本銅版筆彩 26.7×38.8
御茶水景図 1784 25.4×37.7
広尾親父茶屋図 27.3×38.8
不忍之池図 25.2×36.8
中洲夕涼図 c.1784 27.2×39.4
両国橋図 1787 25.5×38
七里ケ浜図 25×38
三囲之景図 25.8×37.8
紀州和歌浦図 c.1797〜1800 26.6×38.8
駿州八部富士図 26.8×38.8
26.6×38.8
異国風景人物図(双幅) c.1789〜92 絹本油彩・軸 各114.8×55.6
西洋樽造図 c.1793〜96 47.2×60
学術論争図屏風 c.1789〜92 絹本油彩・二曲一隻屏風 152.5×142.6
オランダ馬図 絹本油彩・額 140×82.8
人と馬図 絹本彩色・軸 30.5×48.2
江戸城外蘭人図 103.7×35.5
芦雁図 92.4×50.1
湖辺遊禽図 c.1789〜92 絹本油彩・軸 128.5×53.5
寒柳水禽図 139×79.8
静物之図 27×55
司馬江漢 捕鯨図 1794 絹本油彩・軸 54.8×79.6
相州鎌倉七里浜図屏風 1796 紙本油彩・二曲一隻屏風 95.6×178.5
品川富士遠望図 1798 絹本油彩・軸 59.5×63.5
隅田川富士遠望図 c.1797〜1800 絹本油彩・額 40.7×103
品川沖図 43×83
驟雨待晴図 59×155
下総利根川今井渡図 1812 絹本油彩・軸 57.8×99
総州利根河今井渡図 c.1812 絹本彩色・軸 50.1×92.4
金谷台富嶽遠望図 1812 43.5×62
護持院ケ原図 絹本油彩・額 55.2×112.1
亜欧堂田善 塩焼図 絹本彩色・額 53×96
浅間山図 紙本彩色・六曲一隻屏風 149×342.4
今戸瓦焼図 絹本彩色・軸 40.8×65.7
江戸街頭風景図 絹本彩色・額 32.8×10.1
江戸城外風景図 35×68
エイタイハシノツ 紙本銅版 22.5×29.3
シハアタコ 紙本銅版筆彩 20.6×26.9
ヨシハラトテノケイ 紙本銅版 22.3×34.7
エノキサカノツ 22.6×29.5
シナカワシホヒ 22.4×28.4
スサキヘンテン 紙本銅版筆彩 26.1×34.5
シノハスノイケ 21.2×27.9
ミツマタノイケ 紙本銅版 21.4×28.1
今戸瓦焼之図 11.1×15.6
日本橋魚廓図
愛宕山眺望之図
真洲先稲荷隅田川眺望
二州橋夏夜図
自道権山望鴻台之図
桜田馬場射御之図
吉原大門図
自駿河台水道橋眺望 10×15.2
自大槌屋後楼臨不忍池図 11.1×15.6
東都名所全図
大日本金竜山之図 紙本銅版筆彩 25.7×53
石川大浪 西洋婦人図 絹本彩色・軸 99.5×32.4
杉田玄白像 1812 65.5×28
石川大浪・孟高合作 ファン・ロイエン花鳥図模写 1796 紙本彩色・軸 232.8×107
石川孟高 少女愛猫図 絹本墨画・軸 115×50
安田田騏 異国風景図 絹本彩色・額 46.5×49
三囲雪景図 34.6×51.1
観魚亭 1815 紙本銅版 12×21.3
安田雷洲 東都勝景銅版真図(8枚組) c.1821 〃(表紙のみ紙本木版色刷) 9.1×16.9
江戸近郊勝景(12枚組) c.1844 紙本銅版筆彩 7.5×11.9

作者名 作品名 制作年 材質・形状 寸法(cm)
安田雷洲 江戸近国風景(8枚組) 紙本銅版 10×16.4
東都大地震図 c.1885 15.8×22.8
大久保一丘 真人図 絹本油.彩・額 41.6×27.4
絹本油彩・軸 79×28
若杉五十八 花籠と蝶 油彩画布・額 134.8×57.4
阿蘭陀風景 134.7×57.5
鷹匠図 126.9×50
石崎融思 唐船和蘭船図 1833 絹本彩色・軸 85.5×32.2
長崎港図 1820 84×148
荒木如元 オランダ海港図 油彩画布・軸 26.7×54.9
瀕海都城図 c.1805 油彩画布・額 89.2×58.9
蘭人鷹狩図 125×68
川原慶賀 蘭人絵画鑑賞図 紙本彩色・額 55.6×44.1
瀉血手術図 87×50
ブロンホフ家族図 絹本彩色・衝立一基 69×85.5
長崎港図
平戸のオランダ商館 紙本彩色 25×47
大村湾風景 24.1×47.3
精霊流し 30.7×40
豆撒き 30.5×39.5
谷 文晁 木村蒹葭堂(重要文化財) 紙本彩色・軸 69×42
公餘探勝図(79図・重要文化財) 1793 紙本彩色・巻子 各23.6×32.4
西遊画紀行(12図) 紙本彩色・冊子 21.4×15.7
渡辺崋山 佐藤一斎像画稿第二(重要美術品) 紙本彩色・軸 39×18.8
〃画稿第三 紙本墨画・軸 39×20.8
〃画稿第五 39.4×19.4
〃画稿第十一(重要美術品) 紙本彩色・軸 76×48
渡辺崋山 四州真景図巻一第四巻(重要文化財) 1821 紙本彩色・巻子 13.5(縦)
辛巳画稿縮本−−渡辺五郎像(重要美術品) 1821 紙本彩色・冊子 23.3×33
松崎慊堂像画稿(重要美術品) 1826 紙本彩色・軸 27×19
松崎慊堂五十八歳像画稿(重要美術品) 1826 92×67
市河米庵像(重要文化財) 1837 絹本彩色・軸 124.8×59.3
市河米庵像画稿(重要文化財) 紙本彩色・軸 39.2×27.8
鷹見泉石像(国宝) 1837 絹本彩色・軸 116×58
笑顔武士像画稿(重要美術品) 紙本彩色・軸 77×55
椿 椿山 伊東瑞三像 1840 絹本彩色・軸 111.8×52.5
高久靄●像(重要文化財) 1845 紙本彩色・軸 121×48.4
渡辺崋山像(重要文化財) 1853 絹本彩色・軸 127×80
佐藤一斎像画稿 1841 紙本彩色・軸 36.3×24.6
葛飾北斎 江戸八景 c.1797-1804 紙本木版色刷 各8.3×11.5
近江八景 各8.5×11
くだんうしがふち(重要美術品) 17.2×23.4
たかはしのふじ 18×24.5
よつや十二そう 17.3×23.3
ぎょうとくしほはまよりのぼとのひがたをのぞむ 17.3×23.4
歌川国芳 東都名所(10枚のうち5枚) c.1832〜33 紙本木版色摺 各25.7×36.4
東都三ツ股の図 c.1830〜34 25.7×37
相州大山道田村渡之景 1854 23.2×34.5
歌川広重 東海道五十三次(55枚のうち15枚) 1833 各22.8×35.5
東海道之内江之嶋路 七里ケ浜 c.1834 22.5×35.1
東海道之内江之嶋路 片瀬自七面山見浜辺 22.6×35.6

作者名 作品名 制作年 材質・形状 寸法(cm)
川上冬崖 風景 油彩・麻布 66×36
高橋由一 丁髷姿の自画像 c.1866〜67 47.8×38.6
花魁図(重要文化財) c.1872〜76 77.3×54.8
相州江之島図 c.1875 52×73.5
江の島風景 c.1876〜77 46.9×74.1
江島図(江島全景) c.1873〜76 油彩・紙 47.8×162
豆腐 c.1876〜77 油彩・麻布 30.5×43
国府台真景 c.1877 65.5×98.8
墨堤桜花 66.3×121
鮭(重要文化財) 油彩・紙 140×46.5
鱈梅花 油彩・麻布 51.3×72
なまり(なまり節) 39×52.5
鴨図 44.5×67
愛宕望嶽 65×120.8
浅草遠望 c.1878 39.7×47.5
厨房具 c.1878〜79 42.5×60.7
海魚図(鯛図) c.1879 45×59.8
桜花図 51.2×63.2
不忍池 c.1880 67×97.3
琴平山遠望図 1881 油彩・麻布(板貼) 59×139.5
宮城県庁門前図 油彩・麻布 63×123.5
栗子山隧道図(西洞門) 99.2×146.4
最上川風景 1885 104×151
酢川にかかる常盤橋
山形市街図(山形県庁前通り) 104.4×151.5
司馬江漢像 c.1887〜91 60.8×45.4
五姓田芳柳 西洋老婦人像 c.1861〜67 水彩・絹 57×48
西南役大阪陸軍病院施術図 1881 73×130
五姓田義松 自画像 油彩・麻布 31.9×23.9
横浜風俗 1871 37×29
横浜西太田村農婦 1873 油彩・画布 17.7×42.3
五姓田一家之図 油彩・紙 26×37
横浜亀橋通 1879 油彩・麻布 28.9×44.6
清水の富士 1881 58×100
横山松三郎 油彩・絹 45.5×30.4
自画像 油彩・和紙 54.7×44.5
c.1884 油彩・麻布 46.8×34.3
旧江戸城之図 c.1871〜75 64.5×95.5
田村宗立 果蔬図 1864 紙本彩色 31×111.3
明石博高像 1881 油彩・麻布 42.5×33.3
岩橋教章 鴨の静物 1875 水彩・紙 54×34.3
山本芳翠 けしと小禽 油彩・麻布 40×52
床次正精 三田製紙所 90×120

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