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教育普及銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 実施報告

学習支援活動

銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 実施報告


日時
2016年4月14日(木)午前9時20分~12時40分

会場
京都国立近代美術館

参加人数
1年生90名・引率7名

 今年も銅駝美術工芸高校の新入生研修を受け入れました。毎年、施設見学と企画展・コレクション展鑑賞という構成で行っていますが、今年は「オーダーメイド:それぞれの展覧会」(企画展)をiPadを活用しながら鑑賞し、気になった作品についての意見を共有するという活動を重点的に実施しました。

 研修の前半では、銅駝高校の先生からのレクチャーの後、当館研究員が、”作品の収集と保管”、”作品研究”、”展示公開”、”教育普及”という美術館の機能と役割、また当館の歴史や所蔵品の特徴について説明しました。そして「オーダーメイド:それぞれの展覧会」の趣旨や見どころとなる作品を簡単に紹介しました。

銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修

 研修の後半は、美術館の施設見学と「オーダーメイド」展の鑑賞に移ります。
 施設見学では、作品の搬入口や展示準備室、空調設備など美術館のバックヤードを見て回りました。美術館の裏側には、作品を安全に保存・管理するための仕組みや、狭いスペースを有効に活用するための工夫があちこちにあることを知る良い機会になったと思います。

銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 バックヤード見学

 「オーダーメイド」展の鑑賞活動では、グループに分かれて気になった作品をiPadで自由に撮影しながら展覧会をめぐります。「なぜ気になったのか考えよう」「他の人はどんな印象を持ったか聞いてみよう」というアドバイスを踏まえ、生徒たちは積極的に意見交換しながら作品と向き合っていました。活動の最後に、グループごとに一つ選んだ作品について写真を見せながら全員の前でプレゼンテーションを行います。

銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 企画展鑑賞活動 銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 企画展鑑賞活動

 天井から吊り下げられたマルセル・デュシャン《瓶乾燥機》を取り上げたグループは、壁に映る影に注目し、色だけでなく形も人を惹き付ける大切な要素であると指摘しました。
 トマス・シュトゥルート《ルーヴル美術館、パリ》は、展示室内の風景を捉えた写真作品です。これを選んだグループは、作品にならって鑑賞する人を収めた写真を撮影し、「鑑賞者がいてこそ美術館が成り立つ」というメッセージを受け取ったことを説明しました。

銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 プレゼンテーション

 最も多くのグループが注目した作品が、ロバート・アーネソン《受け皿に沈んでいくカップ》です。キャプションから得た情報を参考にしながらも、作品の特徴や並べ方を自分たちの目で観察し、柔軟な発想でさまざまな解釈を考えていました。ここではその一部を紹介します。
「題名には”沈んでいく”とあるけれど、もしかしたら浮かんできているところなのかも」
「黒い液体はコーヒーとは限らない。作者が考えている、黒ずんだ”何か”だろう。」
「カップが人間で受け皿が世界。人間が世界に飲み込まれていくところだと思う」

銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 プレゼンテーション 銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 プレゼンテーション

 また「5つのカップがだんだん沈んでいくような順番で並べられていなかったら、違う解釈ができると思う」という感想がありました。「オーダーメイド」展は作品と作品を結びつけることで新たな解釈の可能性を考える試みですが、生徒のコメントから、《受け皿に沈んでいくカップ》はそれ自体、作品の並べ方が私たちの解釈に与える影響について考えさせてくれる作品であることを教えられました。

 今回の活動は初めての試みであったにも関わらず、生徒たちがiPadを上手に使いこなして鑑賞を深めていた様子が非常に印象に残りました。
 写真の撮り方を工夫するために作品をじっくり観察したり、撮影後にふたたび作品に近寄って鑑賞したりと、生徒たちが作品の前で比較的長い時間を過ごす姿が見られました。また鑑賞後に写真を見せ合って感想を共有したり、気になった作品については拡大しながら議論を深めたりする様子も見られ、展示室での体験がより鮮明に記憶される効果も期待できると感じました。
 この新たな試みを受け入れることで、美術館としてもiPadを活用した鑑賞活動の可能性について考える貴重な機会となりました。

銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 企画展鑑賞活動 銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 企画展鑑賞活動

 生徒たちはこれから本格的に授業を受け制作や鑑賞に取り組んでいくことになるそうですが、当館にまた足を運んで、今回の経験を思い出しながら作品との出会いを楽しんでもらえればと願っています。

(当館特定研究員 松山沙樹)



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