コレクションの名品

期間
平成20年4月8日(火)〜 5月11日(日)
展示作品
コレクションの名品 展示目録

コレクションの名品—洋画

全国各地の美術館で開かれる展覧会に、当館の所蔵作品が出品される機会は多く、また「京都国立近代美術館のコレクション展」というように、他館でコレクションをまとめて展示する企画もふえてきました。これは何より、当館のコレクションが多くの人たちの鑑賞に供し、魅力的な作品によって構成されていることの証しでもあるでしょう。しかしそのために、他館から貸出依頼の多いこれらの作品は、このコレクション・ギャラリーの場で、残念ながら展示をひかえざるをえない事態も生じています。たとえば、梅原龍三郎や安井曾太郎らの当館所蔵の洋画の代表作などは、ここ数年、当コレクション・ギャラリーでほとんど紹介できないという、やむを得ない状況も生まれました。しかし今回、あらためて「コレクションの名品」というテーマを掲げ、コレクション・ギャラリーにおいて、当館の「洋画の名品」と考えられる作品を選んで、その意味を再考したいと思います。

当館は1963(昭和38)年、東京にあった国立近代美術館の京都分館として開館しました。発足にあたっては、国立館を誘致した京都市から、伝統工芸の展示に比重を置いてほしいとの要望が寄せられ、収集作品はもっぱら工芸作品に限られていました。しかしながら、作者未亡人石垣綾子氏のたっての好意で、石垣栄太郎の代表作《鞭うつ》が寄贈され、この作品が当館コレクションの洋画第1号となりました。その後、1967(昭和42)年に京都国立近代美術館として独立ののちは、工芸のみならず、洋画・日本画・彫刻・版画なども収集の対象に加え、現在では写真や現代美術なども含めた積極的な収集活動を展開し、8,000点を超える作品を擁して、全国でも有数の規模と内容をもつまでにいたっています。

こうした経緯から、石垣栄太郎作《鞭うつ》は、作者の初期において造形的にもっと成功した作例であることはいうまでもありませんが、当館にとっての収蔵意義という点からも、まず間違いなく当館の代表作例、そして「名品」と位置づけられるでしょう。また、この作品が最初に収蔵されたことで、ヨーロッパやアメリカで活躍した画家たちや、「前衛」的傾向を示す作品を積極的に収集してゆく当館の以後の方向性にはずみがついたといって過言ではありません。独立年度の1967年には、土田麦僊の《海女》(1913年)とともに、墨を用いた屏風形式による長谷川三郎の抽象画《自然》(1953年、第17回自由美術展)が収蔵され、吉原治良の第1回九室会出品作である《作品》も、独立後5年までに寄贈されるなど、いわば石垣栄太郎の《鞭うつ》の作例を引き継ぐようにして、いわゆる「前衛絵画」の秀作の収集にいちはやく着手したことは、当館の大きな特色となっています。

「前衛絵画」を「名品」と呼ぶことについては、抵抗感がありますが、その後も当館には、村山知義の《サディスティッシュな空間》や長谷川三郎の《蝶の軌跡》など、わが国の前衛美術を語るに際して欠かすことのできない代表作が、収蔵されてゆきます。そしてこのことは、当館が西洋美術の対象に、印象派ではなく、ピカソやマティス、エルンストやシュヴィッタースの絵画を選んでいることとも連動しているのです。

ところで、「洋画」という言葉からすぐに思いつくのは、梅原龍三郎や安井曾太郎らが追求した、西欧のひき写しではない、日本の風土に根ざした独自の「日本の油絵」のことではないでしょうか。そして、これらの画家たちをはじめとして、京都には、明治から昭和のはじめにかけて、きわめて表現水準の高い作品が生み出されています。なかでも、その晩年の5年間を京都で活動した浅井 忠は、油彩のみならず水彩画においても、もっとも傑出した才能を発揮した画家といえるでしょう。その浅井 忠が、京都における「洋画」の先駆者として高く評価していた田村宗立の存在も見逃せません。田村宗立の《越後海岸図屏風》は、わたしたちの目には、油彩で描かれた屏風というきわめて古めかしい作例と映りますが、逆にこの作品と対峙した当時のひとたちにとっては、珍しい油彩の技法とともに、その「写実的な表現」こそが、もっとも「革新」的だと受けとめられたに違いありません。《越後海岸図屏風》は、当館のみならず、わが国の洋画の黎明期をふりかえる上でも、実に貴重な作例となっています。

そして、安井曾太郎の独自の様式が認められる代表作《婦人像》(1930年)や、華麗な色彩とともに躍動感溢れる梅原龍三郎の個性豊かな《雲中天壇》(1939年)、洋の東西の絵画表現を融合しようと壮大な理念を掲げた須田国太郎の秀作《鵜》(1952年)、さらには日本人特有の美的感性を追求し、「裸婦の楢重」と呼ばれた小出楢重の《横たわる裸女(B)》(1928年)、現代的「幽玄の世界」を切りひらいた坂本繁二郎の生涯の大作《松間馬》(1938年)など、日本人画家が生み出した油絵表現のもっとも傑出した作例が、当館に収蔵されてゆきました。

このたびの小企画では、こうした作品群にあらためてスポットをあてながら、わが国の洋画にとって、そして当館にとって「名品とはなにか」ということに思いをはせていただければ幸いです。

(主任研究員・山野英嗣)

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