視て、考えて・・・、私が見つける美術のセカイ T

期間
平成18年4月4日(火)〜 5月21日(日)

展示作品
視て、考えて・・・、私が見つける美術のセカイ T 展示目録

学習支援係からのメッセージ

     私たちは美術作品を視ることで、「美術」についてだけでなく実に多くのことを感じ、読みとり、学ぶことができます。今回の展示では、フンデルトヴァッサー(1925–2000)のタペストリー作品を起点に、当館の所蔵作品の中から彼の世界観に繋がるような作品を探してみました。
     フンデルトヴァッサーの作品には円や螺旋(らせん)、流れるような曲線が多く使われています。彼自身はこの流線を「生と死を象徴するものだ」と語っています。私たちの身近な自然界には、曲線や円、螺旋形態を数多く見出すことができます。螺旋は巻き貝やかたつむりの殻、化石のアンモナイトなどを連想させます。そしてDNAの二重螺旋構造は生命の神秘を象徴しているように思えます。
     円は生物の基本形態であり、また調和や完璧さを象徴する記号として、人類の歴史においてさまざまな文明で表されてきました。さらに円や螺旋は、生命の神秘や歴史の循環(じゅんかん)、果てしない時間の流れなど、私たちを奔放(ほんぽう)なイメージと思考の世界へと誘います。
     私たちの内部にあるエネルギーの中心をサンスクリット語でチャクラ(chakra)と呼びます。これは「車輪」を意味する言葉と言われています。チャクラ=回転し続ける車輪は、生命の原理や宇宙の運動と秩序を、螺旋という形態は生と死の輪廻(りんね)や時間の循環など神秘的な世界観を象徴的に表現しているのではないでしょうか。
     この展示は、美術作品の中に流線や円や螺旋を探していくだけの単純なものであり、「美術や美術史を学ぶこと」や「美術家が作品に込めた意図を理解すること」、美術作品の質の高い展示からは逸脱(いつだつ)したものかもしれません。私は時として、美術作品は私たちが投げかける常套(じょうとう)的な視線や読み方、規定の価値観を嫌がっているのでは・・・、と思えることがあります。今回展示する作品を所蔵作品の中から選ぶ過程は、私にとってとても刺激的なものとなりました。私は流線や円や螺旋というかたちを見つけることから始め、それらの形態の面白さにあらためて気付かされるだけではなく、輪廻や循環などを暗示する所蔵作品を探すことへと移行していき、私自身の中に拡がるさまざまなイメージや新しい思考を発見していく生き生きとしたプロセスとなりました。
     私にとっての美術作品の魅力は、美術家たちの優れた表現や感性に触れ、それに共感し感動することであることは言うまでもありません。それに劣らず魅力的なことは、美術作品は「美術」を超えて、さまざまな世界への関心やイメージを開いてくれ、私自身が一人で思考し始める契機を与えてくれることにあります。こうした重層性、時として「美術」という約束事から離れることを許してくれる自由さこそ、美術の素晴らしさだと私は思います。


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