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陶片 No.20

陶片からなにがみえるかな?

クギ_ノ_ホリ

テキスト:中村裕太

石黒はしばしば犬、羊、牛、魚などの動物を陶器の模様に取り入れている。この陶片は、線刻のバリの跡から勢いよく鳥を描いたことが読み取れる。清水卯一によると、石黒は先端を削って鋭くした釘で文様を彫っていたという。こうした技法は、江戸末期から明治初期に京都で作陶をした大田垣蓮月(1791-1875)の陶器を思い起こさせる。尼僧であった蓮月は焼き物に自作の和歌を釘で彫った「蓮月焼」を作り、京都の土産品として人気を博した。生前から贋作も多く出回り、その制作で食べていけない人に自らの和歌を提供したという逸話も残されている。石黒は蓮月の和歌をもとに「手すさひの つたなきものをもちいでて うるまのいちにたつそわひしき」と読んでいる。蓮月のもとの句は「手ずさびに はかなきものを持ち出でて うるまの市に立ぞわびしき」である。石黒は自らの生業を蓮月と重ねていたのではないだろうか。

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石黒宗麿《蓮月尼像》
石黒宗麿《蓮月尼像》1963-64、個人蔵(撮影:宮川邦雄)

ABCコレクション・データベース vol.1 石黒宗麿陶片集

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