展覧会関連イベント
「手だけが知ってる美術館 第5回 清水九兵衞/六兵衞」実施報告

開催日
2022年9月10日(土)①10:30~12:00 ②14:00~15:30
会場
京都国立近代美術館1階講堂・3階企画展示室
参加者
①参加者12名(うち視覚障害あり4名)、介助者2名
②参加者13名(うち視覚障害あり9名)、介助者2名
ナビゲーター
大長智広、松山沙樹(京都国立近代美術館)
スタッフ
牧口千夏、宮川智美、吉澤あき(同上)
イベント詳細
「手だけが知ってる美術館 第5回 清水九兵衞/六兵衞」
記録映像
「手だけが知ってる美術館 第5回 清水九兵衞/六兵衞」記録映像

【実施報告】

 企画展「生誕100年清水九兵衞/六兵衞」に関連して、清水九兵衞/六兵衞(1922-2006)の作品を手でふれて対話しながら鑑賞するワークショップを開催した。
 清水九兵衞/六兵衞は、視覚障害のある方の美術鑑賞をめぐるトークの中で「触覚だけの世界で確かめられた触覚感と、我々が視覚のうえで言っている触覚感とは、どこかにずれがある」と話している(『彫刻に触れるとき』用美社、1985年より)。この作家の言葉をもとに、手でふれることと目で見ることで作品の印象はどんな風に変わるのか、またそれらが組み合わさることでどのように作品理解が深まっていくのかを、さわる・きく・みる・しゃべるといった活動を通して参加者とともに考えることを目指した。
 当日は、視覚障害のある方1~2名が入るような4名ずつのグループを作り、各グループに美術館の研究員が1名入って活動を進めた。
 まずは全体で趣旨説明を行い、手や腕を動かして簡単な準備体操。その後、グループごとに自己紹介を行ってから活動に入った。

ワークショップ実施風景(撮影:衣笠名津美) (写真はクリックまたはタップすると拡大します)

清水九兵衞/六兵衞について(レクチャー)

 鑑賞を始める前に、展覧会を担当した研究員がレクチャーを行った。陶器の作品を発表する際は「六兵衞」の名前で、金属の彫刻作品などは「九兵衞」の名前で発表していたことや、土は「しゃべりすぎる、饒舌な」素材であると捉えていたのに対し、金属は自分の方に近づいてきてくれる素材であると考えていたことなどが、鑑賞を行う上でのヒントとして紹介された。



鑑賞1:陶器作品を鑑賞

 ここでは陶器でできた4点の作品を用意し、グループごとに1点ずつ鑑賞した。いずれも花器であり、成型したあとに切り込みが入れられていたり、複数に分かれたプレートが重なりあうような表現があったりと、オブジェのような抽象的な形をしている。
 参加者はまずアイマスクを着用して、手の感覚を使って形や質感を確かめることから鑑賞を始めた。さまざまな角度からふれてその形を思い描き、さらに底の部分や内側部分も丁寧にさわって素材を確かめる。発見したことや感じた印象をグループのメンバーどうしで語り合って、みかたを深めていった。
 つづいてアイマスクを取り、見える人は色の情報や視覚で捉えた形の印象なども言葉で伝えあいながら鑑賞を続けた。視覚も使いながらの鑑賞では、「どんな花を生けたら良いと思いますか?」「水はここから入れるのかな」など、用途に関する発言が多く出ていたグループもあった。
 また視覚障害のある方からは、自分は形から作品の印象をとらえていたが、見える人たちは、さわって得る情報よりもむしろ色の情報から作品を具体的に把握していこうとすることに驚いたという感想もあった。

鑑賞2:金属の彫刻作品を鑑賞

 つづいては、3階の企画展示室に移動し、展示されているアルミ製の《FIGURE》(京都国立近代美術館蔵)を鑑賞した。この作品は横幅6メートルほどあり、まずは作品のまわりを一周して全体像を把握することから鑑賞を始めた。続いて研究員から、曲面の部分はいくつかの鋳型を使って制作されていることや、アルミの板の部分はヘアライン加工という細い筋の仕上げがなされ、それによってアルミ本来の光沢が抑えられ光の反射がコントロールされていることなどの解説があった。参加者は、なだらかな曲面や表面の粒々としたテクスチャーの手ざわり、またヘアライン加工に特有の細かい線の跡などを、指先の感覚に集中しながら丁寧に触れた。今回、視覚だけでなく触覚も活用しながら作品をみることで、作家の息遣いや制作の工夫にふれ、“土は饒舌な素材、金属は自分の方に近づいてきてくれる素材”という思いを、よりリアリティを伴って感じられる機会になったのではないだろうか。

(文責:松山沙樹)

<主な感想>

・他者の鑑賞を言葉できかせてもらうのがとてもおもしろく、「どんなのだろ?」と作品について想像するのも「こんなふうに見えて(さわって)いるんだ」と、ちがう見方、感じ方を知るのもとてもたのしかった。

・見えない状態で想像していた素材や質感とまったく違うものがあり、驚きがありました。見えない方から「ここがほら、穴があいているよ」など、教えてもらいながら鑑賞できたのも楽しかったです。/目で見て感じることを見えない方にシェアしたところ「そう聞くと触った印象が変わってきた」とおっしゃっていたのも印象に残りました。

・入館すぐに展示してあった九兵衛作品の模型をさわって鑑賞させていただきたかったです。大きい作品はさわってイメージがわきづらいと思いますので、あのくらいの模型をさわるのはとっても良いのに、と思いました。とても残念です。

・もちろん一緒のグループの人たちといろいろな意見を出し合って面白かったですけど、ちょっともの足りないような感じがしました。ひとつは、ちょっと作品が少なくて清水九兵衛さんの作品の特徴がつかめたのかなあと思いました。それと、私たちのグループは、私と友人と、それに弱視の方々、それと美術館のスタッフの方で、もっといろいろな方々がいればさらに違った見方など聞けるのかなあと思ったりしました。

・視覚障害者は、その場にどんなかたがいらっしゃるのかわかりません。コロナ禍が長く続き、外出の機会が乏しい今日なのでなおさら、せっかくの集いの機会、最初の自己紹介は全員で行うなど、どんな方々とご一緒なのか感じたかったです。感想もみんなでひとことずつ共有し、いろんなかたと感覚をわかちあえたらもっとよかったと思います。

・このような機会がなければ「見たつもり」ですーっと「見る」ことになったと思います。さわること、障がいがある方と一緒に「見る」ことで豊かな「見る」が体験できました。


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