「CONNECT⇄_~アートで こころを こねこねしよう~」
「無視覚流」で楽しむ!京風まちあるき 実施報告

日時
2022年12月4日(日)①10:30~12:30 ②14:00~16:00
会場
京都国立近代美術館、ロームシアター京都、京都府立図書館、京都市京セラ美術館
参加者
①13名(うち視覚障害あり2名)、②10名
講師
河本あずみ・宮崎刀史紀(ロームシアター京都)、仁科豪士・堀奈津子(京都府立図書館)、後藤結美子(京都市京セラ美術館)
ナビゲーター
広瀬浩二郎(国立民族学博物館)、松山沙樹(京都国立近代美術館)
イベント詳細
「無視覚流」で楽しむ!京風まちあるき
記録映像
「無視覚流」で楽しむ! 京風まちあるき 記録映像

【実施報告】

 文化庁による「令和4年度 障害者等による文化芸術活動推進事業」として、岡崎公園一帯のさまざまな文化施設が連携し、アートを通して多様性や共生社会について考えるプロジェクト「CONNECT⇄_アートで こころを こねこねしよう」が開催された(会期:2022年12月1日~18日)。京都国立近代美術館は2020年・2021年度に続き主催館として当プロジェクトに参画した。
 会期中の一プログラムとして、美術館の「感覚をひらく」事業において継続してきた視覚だけによらない作品鑑賞の取り組みを踏まえつつ、「CONNECT⇄_」のコンセプトにあわせ、岡崎エリアのさまざまな文化施設を巡って体感する「無視覚流で楽しむ!京風まちあるき」を企画・実施した。ナビゲーターに「無視覚流」を提唱し、全国各地で講演やワークショップを行う国立民族学博物館の広瀬浩二郎氏を迎えた。
 事前に、ロームシアター京都、京都府立図書館、京都市京セラ美術館を訪れ、「視覚によらずに楽しめるもの・こと・場所」を検討し、広瀬氏を交えて現場で検証を行った。その上で、全体を通して触覚、嗅覚、聴覚などさまざまな身体感覚を使えるようなルートや活動内容を最終的に決定した。
 参加者は2人1組になり、片方がアイマスクをつけ、もう片方が手引き役となって、途中でアイマスクをつける役を交代しながら活動を行った。
 当日の大まかな活動内容は以下の通り。

京都国立近代美術館

 ツアーの拠点は京都国立近代美術館。まずは広瀬氏から活動の趣旨について話があり、続いて触覚をひらくウォーミングアップとして、同館のさわる鑑賞ツールを、アイマスクをつけて全員でさわって対話する活動を行った。

実施風景(撮影:衣笠名津美) (写真はクリックまたはタップすると拡大します)

ロームシアター京都

 まずはサウスホールのホワイエ空間にて、アイマスクをつける人・手引き役になり2人1組で歩く練習を行った。
 その後、サウスホールの中へ。スタッフの宮崎氏の案内のもと、舞台上を歩いたり、客席に座って耳を澄ましたり、壁や床の素材に触れたりして空間の広がり等を体感した。途中でアイマスクをつける役を交代した際、アイマスクを取った方からは「頭の中でイメージしていたよりも、実際は狭かった」という声もあった。
 続いてホワイエ部分に戻り、床に敷かれたタイルに触れた。ロームシアター京都は1960年に前川國男の設計で京都会館として建てられ、その後2015年の再整備工事の際に一部増改築が行われている。サウスホールのホワイエ部分の床のタイルの一部は、1960年代の制作方法に倣って新たに作られたものであり、つまり新旧のタイルが混在している。こうしたことを踏まえ、タイルのさわり心地や角の丸みを手がかりに新旧の違いを比べ、歴史を感じ取った。

京都府立図書館

 京都府立図書館では、普段は立ち入ることができない地下書庫へ特別にご案内いただいた。書庫に入った時の匂いの変化に気づいた参加者もいたようだった。ここでは、手ざわりや匂いが特徴的な本や雑誌を、順番に手に取った。明治時代と昭和20年代という約半世紀の違いがある2冊の本のどちらの方が新しいかを当てるという活動では、手のひらや指先の感覚をはたらかせ、紙の厚みを比べたり、一方には活版印刷の凹凸があることなどを感じ取って推察を巡らせた。また昆虫を用いて作られた装丁の本や、香りが付いた雑誌、点字印刷物なども体験し、視覚以外の感覚で本の素材や雰囲気の多様さを味わった。

京都市京セラ美術館

 京都市京セラ美術館では、まず1階「天の中庭」に展示された彫刻作品を学芸員の後藤氏の解説を聞きながら全員で触れて鑑賞した。1点目の山口牧生《鞍》は、作品の上側は研磨されツルツルした手ざわりである一方で、下側(裏側)に手を伸ばすと石本来のごつごつした質感を感じ取ることができ、印象の違いに参加者からは驚きの声が上がった。
 2点目に鑑賞したのは清水九兵衞《朱態》。こちらは大きな作品であるため、作品の周りを一周して大きさを体感したり、作品の曲面に触れることでその優美な形を感じ取った。
 続いて本館の階段をのぼり2階の西回廊へ。この部分の床にはタイルが用いられているが、後藤氏によると、開館当初、来館者は下足室に履物を預けて素足で展示を見ていたそうで、裸足で歩いた際の冷たさを軽減するためにタイルが用いられたのではないかとのこと。そうした解説を踏まえ、参加者も手でふれたり足裏でタイルの質感や温度を感じ取った。

実施を終えて

 本プログラムでは、企画段階から各館の担当者に大いにご協力いただき、各館の特徴的な資源や専門的な知見を生かすことで、文化、歴史、アートを全身で体感する内容とすることができた。ロームシアター京都で60年前に造られた床と最近の床をさわり比べた際、「ここにはよく来るが床をみたのは初めて」という声もあり、ふだん見慣れていたはずの場所が、「無視覚流」を体験することで違った光景として自身の中に立ち上がってくる契機になったとも言えるのではないだろうか。
 一方で課題点もある。第一に、2時間で3か所を巡るというタイトな構成になったため、1か所あたりの活動時間が限られ、じっくりと味わい、意見を交わす活動が十分に行えなかった。また岡崎公園には琵琶湖疏水や平安神宮の大鳥居、木々や植物、建築など身体感覚で楽しむことができる場所がまだまだある。今後、こうしたリソースを十分に活用したツアーの可能性もあるだろう。また、各施設が「無視覚流」で体感できるもの・ことを洗い出す機会になったと思うので、各館が独自のプログラムとして実施していくことも今後の展開の一つとして記しておきたい。

(文責:松山沙樹)

<主な感想>

・視覚と触覚の違い、その差の大きさに驚きました。でも最後のまとめで「どちらかが正解ではない」という広瀬さんのお話を聞き、自分がいかにこれまでの経験にとらわれているかに気づき、はっとしました。良い時間をありがとうございました。

・もう少し時間が長いと良いと思いました。施設のバックヤードも体験できて、楽しかった。

・健常者の方々と一緒にワークショップに参加させていただいたことで、普段視覚を使っている方がアイマスクをつけた時にどんなことを感じるのか、お話を聞けて新鮮に感じた。他の参加者さんの中で今回の体験が、見えないことの不安や恐怖心ではなく、楽しい経験として記憶に残っていたら良いなと思う。

・視覚をなくした状態で初対面の方にすべてをゆだねて歩いたり、いろんなものをふれたりするのが最初はとても恐怖心がありました。時々、視覚障害者の方のお買い物サポートをしますが、声掛けで初対面の私の案内を受け入れてくださったその方にとても感謝します。

・このような企画がもっと日常的に、気軽に体験できるプログラムがあれば面白いと思いました。


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