エデュケーショナル・スタディズ04
チョウの軌跡――長谷川三郎のイリュージョン

〈キャンバスに《蝶の軌跡》の触図をつくる〉(撮影:表恒匡) 〈キャンバスに《蝶の軌跡》の触図をつくる〉(撮影:表恒匡)

 「感覚をひらく」事業では2020年度からは作家(Artist)、視覚障害のある方(Blind)、学芸員(Curator)がそれぞれの専門性や感性を生かして協働し、京都国立近代美術館の所蔵作品の新たな鑑賞プログラムを開発する「ABCプロジェクト」に取り組んでいます。本展はその第3弾として、長谷川三郎の抽象絵画をテーマに実施します。

 1937年、長谷川三郎は《蝶の軌跡》という抽象絵画を描きました。画面は8の字や楕円、点々や荒い筆致だけで構成されているため、どこにチョウの動いた軌跡が描かれているのか分かりません。ただ、画面のなかで何かが動いていた気配だけが漂ってきます。こうした抽象絵画から受ける目に見えない気配のような感覚は、どのように伝え合うことができるのでしょうか。
 本プロジェクトでは、中村裕太(A)、安原理恵(B)、松山沙樹(C)の3人が、この作品と同じ大きさのキャンバスの上で、長谷川の筆致をなぞりながら言葉を交わし、図録や美術雑誌などの文献資料を読み合わせ、さらに動物行動学からチョウの飛ぶ道を検証していきました。そして、粘土やロープ、小豆などの素材を組み合わせることで、触れることで想像力が刺激される《蝶の軌跡》の触図*を作り出していきました。
 展覧会では、3人の会話や行動をもとに《蝶の軌跡》にまつわる長谷川の思索を推し量りながら制作した14種の触図を展示空間に設えます。会場を巡りながら、触図を見て、聴いて、触れることで抽象絵画の新たな鑑賞方法を探っていきます。

*触図(しょくず)とは、作品の構図や色合いなどを触覚情報に変換・翻案して表した図

日時
2023年10月5日(木)~12月17日(日)
会場
京都国立近代美術館 4階 コレクション・ギャラリー内
入場料
コレクション展の観覧料に準じます。くわしくはこちらをご覧ください。
特別協力
甲南学園長谷川三郎記念ギャラリー
Webサイト
「ABCコレクション・データベース Vol.3 長谷川三郎《蝶の軌跡》のイリュージョン」
長谷川三郎《蝶の軌跡》を言葉、文献資料、チョウの行動、触図からひも解いたウェブサイト。

作家紹介|中村裕太

1983年東京生まれ、京都在住。2011年京都精華大学博士後期課程修了。博士(芸術)。京都精華大学芸術学部准教授。〈民俗と建築にまつわる工芸〉という視点から陶磁器、タイルなどの学術研究と作品制作を行なう。近年の展示・プロジェクトに「第17回イスタンブール・ビエンナーレ」(バリン・ハン、2022年)、「眼で聴き、耳で視る|中村裕太が手さぐる河井寬次郎」(京都国立近代美術館、2022年)、「万物資生|中村裕太は、資生堂と  を調合する」(資生堂ギャラリー、2022年)、「ツボ_ノ_ナカ_ハ_ナンダロナ?」(京都国立近代美術館、2020年)、「in number, new world/四海の数」(芦屋市立美術博物館、2019年)。著書に『アウト・オブ・民藝』(共著、誠光社、2019年)。nakamurayuta.jp

制作協力

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