「CONNECT⇄_~アートで こころを こねこねしよう~」
筆談鑑賞会「かく⇄みる⇄つながる」 実施報告

開催日
2022年12月18日(日)①11:00~12:30 ②14:30~16:00
会場
京都国立近代美術館1階講堂・ロビー
参加者
①11名(うち聴覚障害あり2名)、②11名(うち聴覚障害あり1名)
ファシリテーター
小笠原新也(耳の聞こえない鑑賞案内人)
イベント詳細
筆談鑑賞会「かく⇄みる⇄つながる」
記録映像
筆談鑑賞会「かく⇄みる⇄つながる」記録映像

【実施報告】

 文化庁による「令和4年度 障害者等による文化芸術活動推進事業」として、岡崎公園一帯のさまざまな文化施設が連携し、アートを通して多様性や共生社会について考えるプロジェクト「CONNECT⇄_アートで こころを こねこねしよう」 が開催された(会期:2022年12月1日~18日)。京都国立近代美術館は2020年・2021年度に続き主催館として当プロジェクトに参画した。
 会期中の一プログラムとして、聞こえる・聞こえないに関わらず、ともに作品を鑑賞するプログラムとして、文字や絵を「かく」ことで、作品についての発見や疑問を共有し対話を深めていく筆談鑑賞会を実施した。ナビゲーターとして、徳島県立近代美術館や東京都の「TURN」プロジェクト等で筆談鑑賞に携わってきた小笠原新也氏の協力を得た。また当日は、京都聴覚言障害者福祉協会から手話通訳者を4名派遣していただいた。当日の流れは以下の通り。

①自己紹介・導入

全員で円形に座ってスタート。筆談で用いる色鉛筆を一人一色ずつ選び、選んだ色とその理由を発表した。


②鑑賞のルールを確認

小笠原氏がスライドを使いながら、「絵をじっくり見よう」「何人でも、同じ時に書いてOK」「ほかの人が書いたことに続けてもいい」など、筆談鑑賞のルールを紹介した。

筆談鑑賞会実施風景(撮影:衣笠名津美) (写真はクリックまたはタップすると拡大します)

③鑑賞1(約20分)

1つ目の鑑賞作品は、土田麦僊《罰》。2グループに分かれ、模造紙に文字や絵を書き込みながら鑑賞を進めた。「登場人物たちは何をしているところだろう?」「手に持っているものはなんだろう」「どうしてこんな表情をしているのかな?」と各自の心に浮かんだ印象や疑問が文字やイラストとなって紙の上にじわじわと広がっていった。ファシリテーターは模造紙の全体を見渡し、同じキーワードや話題に線を引くことでつながりを可視化したり、対話が深まりそうな問いかけを書き込んだりした。鑑賞後に、それぞれのグループの書き込みを見ながら対話を振り返った。


④鑑賞2(約20分)

 つづいては、京都国立近代美術館1階ロビーにある、リチャード・ロング《京都の泥の円》を1作品目とグループのメンバーを変えて鑑賞した。こちらは実物の作品を目の前にして行ったため、参加者は作品に近寄ったり離れたりして細部の質感なども手がかりにしながら鑑賞を進めていった。1作品目と同じく鑑賞終了後に、それぞれのグループの模造紙を眺める時間を設けた。


⑤振り返り

 最後に再び円になって座り、一人ずつ感想を共有したのち、ファシリテーターが今回のプログラムの目的などに触れながらまとめを行った。
 なお、実施後から2023年1月22日(日)まで、美術館1階ロビーにて、筆談鑑賞を行った模造紙の展示を行った。


実施を振り返って

 今回は、具象的な作品である《罰》と抽象度の高い《京都の泥の円》を用いたが、作品の特徴によって対話の広がり方が異なっていた。《罰》は、三人の登場人物や場所・もの(廊下、時間割や地球儀など)といった具体的なモチーフがあるため、絵の中で起きている物語を想像しやすかったようだ。一方で《京都の泥の円》は、まずは「ドーナツのよう」「太陽のよう」といった見立てや「ざらざらとしている」といった質感や技法に関する書き込みから始まり、対話が進むにつれて想像が膨らみ、作品にまつわるストーリーが生まれてきたようだった。
 また本プログラムは京都国立近代美術館では初めての筆談鑑賞の取り組みで、一般的に行っている「声」による対話鑑賞との違いを考える機会にもなった。声による鑑賞では一人ずつ順番に話すことが常で、ほかの人が自分と同じ意見を先に述べてしまうと、重複して意見を言いづらいという場合もあるのではないだろうか。一方で筆談鑑賞では、対話が一方通行ではなく、同時多発的に広がっていくため、同じ気づきや疑問が紙のあちこちに書かれることもある。ファシリテーターがそれらを結びつけていくことで、参加者は「同じ意見の人がいた」と気づくことができる。また参加者から「初対面の人に声でいきなり自分の意見を伝えることよりも、筆談をする方が心理的なハードルが低かった」という感想もあり、非常に興味深く受け止めた。
 いまだ効果の検証や分析が不十分な段階ではあるが、筆談鑑賞には、声による鑑賞や手でふれて対話する鑑賞とは異なる、まなざしの共有や鑑賞者の関係構築の特徴があるのではないかと感じている。今後もさまざまな作品で筆談鑑賞を実践し、意義や特徴を多くの人と共有していきたい。

(文責:松山沙樹)

<主な感想>

・ものとかアートだけではなく「つくること」とは、人と一緒に想像をして、コミュニケーションをはかることなのだと実感した。人の数だけものの見方があるんだ。だからこそ、人と対話するのはおもしろい、と思った。(20代)

・とても楽しい、心がワクワクする体験でした。みなさんと作品を鑑賞する企画でしたが、作者さんと同じようにわたしはみなさんとひとつの作品を作った、共にエネルギーを使って「かく⇄みる⇄つながる」作品を作った気持ちです。ありがとうございました。(40代)

・楽しめました。ろう者にとって、ろう者のファシリテーターがいらっしゃることで、より参加しやすく楽しむ事ができました。次回もお願いします!(40代/聴覚障害あり)

・とてもよい取り組みなのに情報が限られている。市役所とか福祉センターにまったく情報がないのが不思議。

・満足感のある鑑賞会でした。言葉が残る筆談は、他者とじっくり向き合い対話することができるツールでもあるのだと気づかされました。障がいがあるなし関係なく、同じような形で、友人と筆談鑑賞会をやってみようと思います!(30代)


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