障害のある子どものためのワークショップ
廃材がアートに変身!?
ふれて、みて、かんじて ピピロッティ・リストの世界 実施報告

開催日
2021年3月28日(日) ①10:30~12:00 ②14:30~16:00
会場
京都国立近代美術館 1階講堂
イベント詳細
障害のある子どものためのワークショップ
廃材がアートに変身!?ふれて、みて、かんじて ピピロッティ・リストの世界

 3月28日(日)、「ピピロッティ・リスト展」に関連し、10代のお子さんとその保護者の方を対象としたプログラムを行いました。本プログラムは、参加者がゆったりと自分なりのペースで過ごしてもらえるよう、展覧会の開幕前の特別企画として実施しました。
 ピピロッティ・リストは、わたしたちの身近にある廃材を用いた作品や、ベッドやクッションに横たわって鑑賞する映像作品など、さまざまな感覚を使いながら楽しめる作品を多く制作しています。そうしたユニークな世界観にふれることで、障害のあるお子さんやご家族の方の余暇活動を充実し、美術館を身近に感じてもらえる内容を目指しました。

ピピロッティ・リスト

 当日は2組、合計6名の参加がありました。
 みなさん、当館への来館は初めて。美術館と聞くと、絵や彫刻を見るところというイメージが強かったようです。今回は映像や、プラスチック廃材や肌着を使った作品があることを伝えました。
 一体どんな作品なんだろう……? と想像を膨らませながら、さっそく作品鑑賞へと向かいます。

 まずは美術館エントランスにて、白色の下着がワイヤーに吊り下げられた《ヒップライト(またはおしりの悟り)》を鑑賞。参加者は、パンツが吊り下げられている様子を眺めたり、その数を確かめるなどしていました。
 実はこの時、作品と同じパンツを見せて「触ってもいいよ」と伝えたのですが、子どもたちからは「汚いから、いい!!」という素直な反応が。
 この作品には、普段は他人に見せない下着をあえてパブリック・スペースに展示することで、鑑賞者の中に違和感や羞恥の気持ちを抱かせるという意図が込められています。さらにパンツが軽やかにはためく様子から、下着の中に秘められたプライベートなものの解放を表現しているとも言われています。子どもたちは、そうした作家のメッセージを直感的に感じ取っていたのかもしれません。

入館時には作品の存在に気づかなかったという参加者も 入館時には作品の存在に気づかなかったという参加者も

 続いて、廃材を壁に貼り付けて制作した《イノセント・コレクション》を鑑賞しました。近寄ってみると、見慣れたアイスのパッケージや、スプーン、お弁当の蓋など身近なものが使われていることが分かります。廃材の上に映像が投影され、表情が移り変わっていく様子も味わいました。

見慣れた廃材を見つけながら鑑賞 見慣れた廃材を見つけながら鑑賞

 このほかにも、ベッドに横たわって鑑賞する《4階から穏やかさへ向かって》や《アポロマートの床》など、会場で子どもたちが気になった作品を心ゆくまで鑑賞しました。ほかのお客さんがいない静かな空間で、ピピロッティの世界にどっぷりと浸かってもらえたのではないかと思います。

会場の雰囲気にも徐々に慣れてきました 会場の雰囲気にも徐々に慣れてきました

 後半は「イノセント・『プチ』・コレクションを作ろう!」と題して、作品制作を行いました。さまざまな形・大きさの透明の廃材を、大きさ60cm×90cmアクリル板に貼り付けていきます。
 使う廃材の量も、貼り付け方も、すべて自由。およそ50分の制作時間の中で、子どもたちは徐々に集中力を高め、迷いなく次々と廃材を組み合わせていきました。

用意したさまざまな廃材 用意したさまざまな廃材
制作の様子 制作の様子
制作の様子 制作の様子

 ある子は、「ここはプール」「ここは屋根があるアーケード」と頭の中に具体的なストーリーを描いていて、まるで一つの街をデザインしていくように制作に没頭している様子が印象的でした。この日、外では小雨が降ったり止んだりしていました。また展示室で《イノセント・コレクション》を鑑賞した際、壁のそばに立って作品を横向きに眺めると街並みのように見えるという気づきもありました。こうした経験のひとつひとつが、制作のインスピレーションになったのだと思います。世界に一つの力作が完成した瞬間、スタッフ全員が自然と拍手を送りました。

 最後は、完成した「イノセント・プチ・コレクション」を持って琵琶湖疏水が見えるロビーへ。大きなガラス窓に作品をかざして、透明なパッケージが重なり合った向こうに見える景色を楽しみました。

完成した作品 完成した作品
完成した作品 完成した作品

 今回の参加者は軽度の障害がある子どもたちで、当館への来館が初めてという子たちでした。非日常的な空間でゆったり過ごしてもらえるだろうかと不安もありましたが、付き添いの大人の方のご協力もあり、それぞれのペースを大事にしながら活動を進めることができました。
 また子どもたちの様子から、美術館のプログラムに参加するという体験は、単に作品を見る経験だけではなく、来るまでの道中や、美術館の中で見たり、聞いたり、触ったりすることなど、あらゆる活動が刺激となり、子どもたちの想像力や発想力を豊かにすることができることを教えてもらいました。今後も展覧会の内容にあわせながら柔軟に、プログラムを実施していければと思っています。
 今回完成した作品は、当館1階ロビーにて6月13日(日)まで展示しています。

(文責:松山沙樹)


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