ワークショップ 「美術館ってどんな音 つくって鳴らそう建築楽器」 実施報告

開催日
2019年8月20日(火) ①10:30~12:00 ②14:00~15:30
2019年8月21日(水) ③10:30~12:00 ④14:00~15:30
会場
京都国立近代美術館
イベント詳細
ワークショップ 「美術館ってどんな音 つくって鳴らそう建築楽器」

【実施報告】

 美術館の「音」を頼りに、「建築」を鑑賞するという本ワークショップ。本事業の1年目にあたる2017年に実施した活動を、今回、さらにアップデートした形で実施した。「感覚をひらく」はこの3年間、つねに新たな美術鑑賞の方法を模索・挑戦するという方向性のもとで行ってきたが、一定の評価があった活動については、むしろ積極的に繰り返し継続して実施していくことで、課題の発見と改善というフィードバックをおこない、活動を深化させていく必要もあるのではないかと考えている。そのため、基本は同じコンセプトを踏襲しながら、前回の課題をもとにアップデートをおこなった。本実施報告では、その点で前回と重複する部分もあるが、全体の目的、また各ステップを振り返るとともに、おもに改善点についても触れて、報告をする。

建築の「音」を聞く意義

建築の音に耳を澄ます 建築の音に耳を澄ます (写真はクリックまたはタップすると拡大します) 撮影:衣笠名津美(以下すべて)

 本ワークショップは、視覚に依らない美術鑑賞の方法として「音」をテーマとした鑑賞の方法を模索していたなかで、美術館の建築それ自体を鑑賞しようと考え企画したものである。当館は1986年に竣工した建築であるが、花崗岩や大理石、またスチール、アルミニウム、ガラスと多様な材料の組み合わせによって、外壁や内壁をグラフィカルに演出しているのが特徴である。これは設計者である建築家の槇文彦も意識的であり、当館の設計に寄せた文章のなかで、材料のマチエールによって視覚的効果を狙ったと述べている。ここに、当館の建築的な魅力を鑑賞するために、美術館に意匠的に使われている材料に意識的になることの妥当性がある。この美術館を通して、建築家がいかに材料、またそれによるディテールに意識し設計をおこなっているかを、鑑賞者自身が理解することを課題とした。

ワークショップの方法

ワークショップは「学ぶ」「遊ぶ」「作る」の3ステップでおこなった。

ステップ1「建築は、どんな音がしますか?」(学ぶ)

大理石の音と手触りを確かめる 大理石の音と手触りを確かめる

 ステップ1では「学ぶ」を目的として、最初に研究員より建築と音の関係についてのレクチャーをおこなった。引き合いに出したのが、「雨」である。雨は、それ自体の音はなく、雨粒が屋根の瓦にあたる、あるいは雨粒が窓ガラスを打つといったことで、音が生み出されており、われわれはそれを雨音として認識している。そうした話から、じつは何気ない生活の中に、建築の音を聞いているのかもしれない、という導入をおこなった。
 その後、さっそく音を聞くためのツールである、棒を参加者に渡した。この棒には、先に丸い球がついており、ここで美術館の建築を打楽器のように叩くことになる。ワークショップの流れをあらためて説明したのちに、ロビーに出て、活動をスタートさせた。参加者は、そもそも建築の材料に馴染みがないと思われたので、一つ一つの材料を説明した。当館のロビーの窓沿いだけでも、花崗岩やガラス、アルミニウムといった素材が散りばめられている。それらの特徴とともに音を鑑賞することで、ガラスの音、石の音、金属の音をあらためて知るきっかけをつくった。

ステップ2「音だけを頼りに空間把握」(遊ぶ)

 ステップ2では、ステップ1で聞いた音を使っての遊びの要素を採り入れた。2017年のワークショップでは、目隠しをして音だけを頼りに、美術館の外を歩くという活動をおこなった。今回も、参加者に目隠しは同様にしてもらったが、館内でゲーム形式の活動をおこなった。具体的には、その場に参加した参加者同士でペアを組んでもらい、まず片方の人が目隠しをする。その状態で、パートナーが手引きをおこなうという方法をとった。これは、運営スタッフの人手不足を改善するためでもあり、また、見えない人の誘導を参加者自らが体験することで気づきを得てもらうためでもあった。前半は大階段、後半は階段室を活動の場所として、前半と後半で目隠しをする役を交代した。
 パートナーの手引きのもと、目隠しをした参加者は活動の場所に移動し、まずスタッフが、そこでどこか1箇所の音を叩いて鳴らした。それを、目隠しをした状態で音を探していった。前回は、目隠しをして歩き、叩くという活動のみで、それだけでも新鮮な体験となったようであるが、結果として目的なく歩くことになってしまったことは反省点でもあった。そこで、ゲーム性を持たせて目的をもって活動をおこなうことで改善を試みた。また、ペアになってもらったことで、その後の活動が、和んだ空気で行えたこともあり、次回はもうすこし目的をもった活動にしても良いのではと考えた。また、参加者同士で知らない人とパートナーを組んでもらうことで、その後のステップ3での製作においても、和気あいあいとした空気を生み出すことが出来たと考えている。

ペアになって大階段へペアになって大階段へ
パートナーとおしゃべりしながら音を探すパートナーとおしゃべりしながら音を探す
音だけでなく、手で温度も感じてみる音だけでなく、手で温度も感じてみる

ステップ3「つくって鳴らそう建築楽器」

 ステップ3「作る」では、協力者の山田宮土理(近畿大学建築学部建築学科 講師 博士(工学))先生にリードをお願いした。美術館に使われている材料を主としながら、あるいは使われていない材料も含めて、一般的な建築に使われる建築材料を用意した。たとえば、今回のワークショップからは、鉄筋コンクリートにつかわれている「配筋」なども用意した。これを、最近の木造建築やDIYなどでよく用いられるツーバイフォー(2インチ×4インチの角材)でつくった木の台に、思い思いの音色になるように木琴の鍵盤のように並べて楽器を完成させた。最後に参加者全員でリズムに合わせて合奏もおこなった。

建築素材についてのレクチャーを交えながら製作建築素材についてのレクチャーを交えながら製作
建築楽器の材料となる建築素材のパーツ建築楽器の材料となる建築素材のパーツ
完成した楽器をみんなで鳴らしあう完成した楽器をみんなで鳴らしあう

前回からの改善について

 先に述べたとおり、ステップ2の方法を少しアップデートしたことで、今回のワークショップにおける場の雰囲気が非常に効果的なものになった。ペアとなって行う活動を早めにおこなうことで、その後の活動での会話が引き出されたからである。
なお課題も残されており、前回と異なり、階段をつかった活動となったため目隠しをした状態で上り下りをすることになり、安全面での十分な配慮が必要であった。具体的には、決して焦って行わないことと、危険を感じたら、すぐに目隠しを外して構わないと参加者に伝えることには細心の注意を払う必要はあるだろう。この安全面の改善だけは、今後も検討を続けていきたい。
 また、前回の実施報告では、検討課題として、建築のようなヒューマンスケールを超えた大きさを理解してもらうような活動に至らなかったと述べた。これについては、前回のワークショップ後に、当館の形を知ってもらうための「さわる模型」を、さらに美術館の外形までも含めて製作したことで改善を図った。ただし、このワークショップの中で、模型に触れてもらう時間がもてなかったため、今後はこの模型の活用も引き続き考えていきたいと思っている。

さいごに

 2017年度の最初のワークショップを実施後に東京の盲学校に通う中学生から、この春、修学旅行で関西を訪れた際に実施してくれないかという打診をもらい、同様のプログラムを実施することが叶った。また、来年度にも視覚障害のある子供たちを対象に本ワークショップを行ってほしいという依頼がすでに入っている。冒頭に述べたとおり、ワークショップの継続を通して、バージョンアップをしていき、またその方法も一辺倒ではなく、参加者の興味関心や希望にあわせて多岐にわたるようにしてもよいかと思っている。このワークショップを通して、美術鑑賞の方法としての「音」、またそれ以前に美術鑑賞の対象としての「建築」という観点を掘り下げていきたいと考えている。

(文責:本橋仁)

<主な感想>

思っている程、目かくしするとわからない。空間がとらえられないとしこうのさまたげとなることがわかった。普段から建築素材はよく見るほうだが、加工(やき仕上げのことなど)も話をきけたのでより理解と見識が広がった。

アイマスクをして歩いたとき、床材の変化にどきりとしたことが予想していない発見でした。視力に障害がある場合、床材があまりに変化することは快適性に欠けると感じた。また、アイマスクをしていると、壁や窓、手すりの材質の違い、温度の変化に敏感になるばかりでなく、出入口付近で空気が変わったことにも気づいた。人間の快・不快の感じとりかたに、様々な要素があることに、あらためて気づかされた。

向かいにすわっておられた方が(見えない方)、見える方(アイマスク)を階段で案内しておられた。それが自然と行われていていい雰囲気だと思った。建築は主に色のバランスで作られていると思っていて(モノトーンでまとめられているとか、色の対比とか)、材質も工夫されているとまで意識できていなかったが、今後は素材や空間に合わせた作り方になっていることなども意識できると思う。

目の見えないことを経験したことで、普段使っている感覚が明らかになった気がした。それは、目が見えていないと、特にじゅうたんでは、平衡感覚が不自由になり、じゅうたんの凸凹が凄く大きい凸凹のように感じられた。ふねのような感覚もした。

見ることだけでなく、さわったり音を聞いたりして楽しめることを感じました。カベの途中で手ざわりがかわったり、温度がかわったりするだけでもとてもおもしろく感じました。これからも素材のちがいなどを手ざわりや音などで楽しんでみたいと思います。

建物の中にいろいろな素材があることを知った。目で見て知ったつもりでいても音をきいてそのあと目で見たときに「高い音」「ひんやりした音」など、楽器を作ってまた感じ方が変化しました。きく、みる、さわる、考えるがすべて変化につながりました。とてもワクワク楽しいひとときをありがとうございました。

1つの建物の中でもこれだけの材が使われていることに驚きました。身近な建材でもさわりごこちだけでなく、音を鳴らすことで、場所や空間の状況で聞こえ方が違うというのは、大きな発見でした。