音のズームレンズ Ontenna「オンテナ」を使って岡崎まちあるき! 実施報告

開催日
2019年2月9日(日)10:00~12:00
会場
京都国立近代美術館、岡崎公園
イベント詳細
音のズームレンズ Ontenna(オンテナ)を使って岡崎まちあるき!

【実施報告】

 美術の鑑賞を、「さわる/はなす」ことを手段として進めてきたのが「感覚をひらく」の活動であったと振り返るならば、これまで対象としてこなかったのが、耳の聞こえない方とのワークショップであった。

 「ひらきまつり!」の3日目におこなったのは、これまで一緒に活動をしてこなかった、聴覚障害の方とのはじめてのワークショップであった。講師には、本多達也氏を招いた。本多氏は、富士通株式会社のなかで、オンテナ(Ontenna)というツールを開発するプロジェクトのリーダーをつとめている。このツールは音を、振動と光に変えるというもので、端末が拾った音の強弱で振動の強さがわかる仕組みとなっている。耳の聞こえない方は、このツールを通して、音を目あるいは肌で感じることができる。ろう者にとっては、たとえば太鼓の音などは、身体で音の振動をわずかに感じる程度であり、高い音については、それを感じることもできないという状況であったという。オンテナは音が振動になる、しかもそれを気軽に身につけることができるという画期的な装置である。

Ontenna 開発者の本多達也氏Ontenna 開発者の本多達也氏
Ontenna(オンテナ)

 ワークショップは、そうしたオンテナの開発ストーリーを本多氏に講堂で話してもらうことから始めた。その後に、各自1台のオンテナを身につけて、岡崎公園にある京都市動物園と平安神宮をめぐり、美術館に戻るという散歩コースを辿った。

京都市動物園 坂本英房副園長

 京都市動物園では、坂本英房副園長の協力を得た。坂本氏の案内のもと、主にフラミンゴと、インコをめぐるコースを歩いた。フラミンゴの低い声が、オンテナの端末で拾われると、参加者は思い思いにフラミンゴのほうに向かってじっと、耳を澄ませ、オンテナを向けた。オンテナは当然ながら人の会話も拾ってしまうので、オンテナで音を拾うときはおのずと、静かになるのが不思議でもある。途中、なかなか鳴いてくれないシロテテナガザルのかわりに坂本副園長が声真似を披露してくれるという一幕もあった。

音のズームレンズ Ontenna「オンテナ」を使って岡崎まちあるき

 その後に、平安神宮へと向かった。平安神宮では、おもに砂利の音、また手水鉢の音、さらには賽銭を入れる音をそれぞれ体験するという活動をおこなった。とくに賽銭を入れる音は、わずかな振動ではあったが、お金がはねるリズムがあり、参加者も敬虔な気持ちとなったことだろう。その後、美術館に戻り前日までに撮りためていたさまざまな動物の音も体験した。オンテナは、光も発している。ただ散歩をしている外部では明るすぎてそれをみることができない。そのため、講堂を少し暗くして動物の声を、映像を通して楽しんだ。

音のズームレンズ Ontenna「オンテナ」を使って岡崎まちあるき

 以上をもって終了したワークショップであった。本多氏も、まちあるきは初めての活動であったということ、またオンテナがどうしても外の雑音や風の音を拾ってしまうこともあり、場所によっては活動がうまくいかないところもあった。そうした点は、参加者の不満にもなっただろう。オンテナは、まだ開発中であり、本多氏は今後オンテナが選択的に必要な音だけを取り込むこともできる仕組みを考えているという話をしてくれた。たとえば、赤ちゃんの声だけに反応することができれば、耳の聞こえない母親の役に立つツールとして使えるようになるだろうという未来への展望を示してくれた。このイベントは、まだ開発の途上であるオンテナを、途上であることも含めて楽しむことができる、非常に先駆的な活動になったと考えている。

(文責:本橋仁)

<主な感想>

娘が難聴児で参加しました。(中略)人工内耳などで音を入れても健聴の人の音に対する感覚は分からないな…と思っていました。ライブで音ではないけれど、リズムやLIVE感を体験できることは、本当にびっくりでした!(40代女性)

補聴器を使用していますが、高い音はまだ拾えないので、Ontenna をつかって初めてセミの鳴き声、フミンゴ、サルの声が振動を通してはっきりと伝わったことに感動しました!是非、福祉機器の対象になるように応援しています。子供の泣き声、猫の鳴き声も、Ontenna を使って聞いてみたい!と思いました!(30代女性)

普通に暮らす中にも、愉しみの方法として、このデバイスが普及することや、耳が聞こえない方と、そうではない方の共通体験として、生の振動を感じられることが、相互理解への歩み寄りを進めるように思います。また、この取り組みを、「福祉」の枠組みではなく、「美術館」の中で行うことにも意義があるように思います。

音色による変化が私にはうまく感じ取れなかったのですが、耳が聞こえない方は「"音に表情がある" と感じた」とおっしゃっていたのが印象的でした。最後に動画でセミの鳴き声を聞いたとき、私もセミの鳴き声の表情を震動から感じ取ったのですが、それは「子供の頃、セミを手にもって、振動を感じたことがあるからかもしれない」とも思います。過去に経験した振動の感覚と視覚。そこにOntennaの振動が重なって表情を感じ取れたのかもしれないと感じました。(50代女性)


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