手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸 実施報告

開催日
2019年2月8日(土)10:30~12:00
会場
京都国立近代美術館
イベント詳細
手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸

【実施報告】

手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸 (写真はクリックまたはタップすると拡大します)

 所蔵作品を活用した、あるいは企画展と関連させながら、本物の作品を"さわる"鑑賞ワークショップ・シリーズ「手だけが知ってる美術館」。2018年11月の「茶道具」2019年3月の「染織」に続く第3弾として、今回は企画展「記憶と空間の造形 イタリア現代陶芸の巨匠 ニーノ・カルーソ」(会期:2020年1月4日~2月16日)に関連したプログラムを実施した。

 「手だけが知ってる美術館」は、視覚障害者と晴眼者が美術作品を介して活動することを通して、それぞれが「当たり前」と思っていた鑑賞のあり方や、美術館という場の意味について問い直す機会にすることを目的としている。
 当日はまず、カルーソの作品の特徴や、彼が行っていた発泡スチロールを用いたモジュール制作について、解説を聞くことからスタートした。続いて4・8・8人に分かれて3点の展示作品を手で触れて鑑賞し、感想を自由に交流させた。その後、カルーソの制作プロセスの追体験として、発泡スチロールの立方体を縦・横に電熱線で切って4つのモジュールに分けるデモンストレーションを音や匂いも含めて見学し、切り出された形の複雑さや組み合わせたときの形の意外性などを体感した。最後に4名ずつ5チームに分かれて、1つのキューブを4×4の16個のモジュールに切り出したものを組み合わせて造形をつくる活動を楽しんだ。90分間と限られた時間ではあったが、鑑賞と制作が密接に関わり合う活動としたことで、身体感覚をフル活用して、ニーノ・カルーソの作品について理解を深めるプログラムになったと感じている。

手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸
手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸
手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸
手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸

 作品鑑賞の際には、研究員が「縦に手を動かしてみてください」「全部でいくつのパーツで成り立っているでしょう?」など、さわる上でのポイントや、対話が弾むような投げかけを行い、参加者は手だけでなく身体を動かしながら鑑賞を行った。全盲の参加者から「時間が足りなかった」というコメントがあったように、触覚情報を頼りに鑑賞を行う見えない方にとっては、作品の全体像を把握し、その上で細部の意匠やパーツの積み上げ方について頭の中でイメージを形成していくには、もっと十分な時間が必要であった。一方、晴眼者の中には、視覚によって"作品の全体像をすべて把握できた"と思いこんでしまうためなのか、作品に手を伸ばすことに消極的な方もおられた。「手だけが知ってる美術館」は、普段はあまり意識しない「触覚」に意識を向け、視覚情報との違いやさわることの意味について考える機会でもあると考えている。さわることの意義を伝えたり、さわり方についてのデモンストレーションを行うなど、参加者への働きかけについてはさらなる検討が必要であろう。

手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸

 また、見えない人と見える人がそれぞれの得意分野を生かしながら協力しあっていた点も、今回の成果の一つととらえている。この日参加された3名の見えない方は、過去に本事業のワークショップに参加されたことがあり、そのためプログラムの趣旨について十分に理解されていた。ある方は、見える人たちの対話が盛り上がっている中に「今のところ、もうすこし具体的に説明してほしい」と突っ込みを入れたり、「その感覚は見えない人にはないなあ」など、晴眼者と視覚障害者の感じ方の違いを口にすることで、参加者の気づきを引き出すきっかけを作ってくださっていた。

 また後半で使った縦4つ・横4つに切り出したモジュールには、ひとつひとつの側面に4番から4番までの点字シールを付けておいた。これらを番号順に組み合わせていくことでカルーソ作品さながらの造形が完成するわけだが、点字が読めない晴眼者にとっては少々難しい活動だろう。しかし見えない方がチームにおられたことで、「これは1で、これは3で…」と見えない方がリードして分類したり、別のチームでは晴眼者が点字について教えてもらいながらみんなで一緒にモジュールを分けていったりと、協力して活動を進め、そのなかで自然と対話が盛り上がっていたのが印象的であった。

側面には点字の数字シールが貼ってある側面には点字の数字シールが貼ってある
手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸
手だけが知ってる美術館 第3回 ニーノ・カルーソの陶芸

 「手だけが知ってる美術館」は今後も作品や展覧会を変えながら展開していくが、さまざまな感性の持ち主が一緒に活動するという特徴を生かして、見える・見えない双方にとって新しい気づきが起こっていくようなプログラムになるよう心がけたい。

(文責:松山沙樹)

<主な感想>

とにかく形が複雑で、その形などをことばで説明するのが難しい作品を、実際に触りながら、見える人と共に鑑賞できたことは、貴重な機会となりました。(中略)ただ、時間の制約もあるので難しいのかもしれませんが、実際の作品を触って鑑賞する時間が、もう少しほしかったです。後30分か1時間くらい、ワークショップの時間が長くても、集中力を切らさずに、しかもゆとりを持って、内容をこなすことができたのかもしれないと思うと、今回は時間が足らなくて残念でした。またぜひ、こうした内容の、実際に作品を触って共に鑑賞するワークショップができれば嬉しいです。(50代・視覚障害有)

特別展の作品を直に手で触れることは、視覚障害者にとって貴重な体験でした。できればもっと多くの作品をこのようなソーシャルビューイングの形式で鑑賞したいものです。また、ワークショップでは、制作のプロセスを疑似体験できるように工夫されていて楽しむことができました。シンプルな線から作られたピースを組み合わせることによって、変化に富んだ立体が造形されることに興味を覚えました。(60代・視覚障害有)

作品を触れるだけのワークショップと思っていたので、自分たちで一部作品模型を制作して、ニーノ・カルーソの気持ちになって作品を作る行程を経験できたことがとても楽しかったし、観るだけでは気づけなかった作品の特徴や組み合せる楽しさを体験できたことが一番よかったです。心が動かされました。またワークショップで色んな人たちといっしょに創作できたことで色んな気づきがあり発見ワクワクがあり楽しかったです。ありがとうございました。

作品の制作過程を知ることで、興味をひかれました。さらに、点字と竹ひご数字のついたパーツを自分で組み合わせることで制作過程をさらに実感しました。点字の数字にふれられたことも見えない方に教えていただきながら「協力しながら」パーツを組みあげたことも、おもしろかったです。(50代)

カルーソ氏の作品をさわって鑑賞するのと、見て鑑賞するのでは印象が違った。見て鑑賞した時は少々形が違うものの同じふん囲気だろうと思ったが、さわって鑑賞した時は作品各々に個性があって全く別のものかと思うくらい違いがあった。(40代)


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