このコンテンツでは、八瀬陶窯から掘り起こした石黒宗麿の陶片を、作家(Artist)、視覚障害のある方(Blind)、学芸員(Curator)がそれぞれの専門性や感性を生かして読み解き、さまざまな感覚を使う鑑賞方法を創造していきます。

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映像:点、点、点

触察:安原理恵

陶片からなにがみえるかな?

カケタ_チャワン

テキスト:中村裕太

小山冨士夫は、1941年4月10日に中国曲陽県澗磁村にて宋代の定窯を発見する。小山はその帰路、八瀬に石黒を訪ねている。石黒はその時にみた陶片について漢詩を残している。「片片凡神技 不知陶藝人 多時看宋(*臨と瓦を合わせた文字) 古瓷反猶新(どの破片もすべて神わざである。いったい、どのような陶芸家なのだろうか。長い間宋代の陶器を見てきたが、古いものほど、かえって新しさを感じさせるものだ)」。この陶片には、その書画とよく似た欠けた茶碗で描かれ、その周囲には磁州窯にみられる千点文が彫られている。八木一夫(1918-1979)は、1947年頃に青年作陶家集団の仲間と連れ立って八瀬に石黒を訪ねている。「そのときの私は、石黒さんの仕事の裏うちとなっているはずの、「古典」という古色の型を感じたりはしなかった。むしろ、作家個人だけにとどまらず、現代そのものにも生きている感覚や、瀟洒な好み、造りのたしかさと柔軟性、そんなものに感心させられていたという記憶がある」と『懐中の風景』のなかで記している。八木は、古陶磁を逐った石黒の陶器作りには、石黒なりの解釈があることを見出していた。八木もまた、自らの解釈をもとに千点文の湯呑みを作っている。

石黒宗麿《茶碗図》
石黒宗麿《茶碗図》1941年、個人蔵(撮影:小杉善和)

陶片はどんなコレクションと
つながるかな?

点、てん、テン。

テキスト: 松山沙樹 京都国立近代美術館 学芸課専門:教育普及

「点」が印象的な京近美コレクションといえば、吉原治良《作品(黒地に白い点の円)》。183×183cmの大画面に点が円環状に配置された最晩年の代表作です。一見、大きな筆にたっぷり絵具を含ませて一気に描いたように見えます。ですが近寄って観察してみると筆で丁寧に塗り重ねた跡があり、ひとつひとつの点の位置や形が緻密に計算して描かれていることが分かります。

1954(昭和29)年に「具体美術協会」を結成した吉原は「人の真似をするな。今までにないものをつくれ」と説いて、「具体」のグループの中でリーダー的な役割を果たしました。「具体」には、嶋本昭三、正延正俊、山崎つる子、白髪一雄、田中敦子、村上三郎、元永定正らが参加しており、素材と作者の身体が具体的に関わることによって(例えば足を使って描くなど)、人間の精神の自由さを示すことを目指して関西で活発な活動を続けました。しかし1972(昭和47)年に吉原が急死してまもなく解散し、その活動は突然に終わりを迎えました。

ところでこの作品は、中高生との鑑賞活動でよく取り上げる一枚です。単純な構図ながらも抽象的で、作品の解釈や見立てをめぐってさまざまな意見がでて対話が盛り上がります。あるとき一緒に鑑賞した高校生たちは、「ご飯粒の集合体」、「ペンギンが丸く集まっているのを上から見た様子」などユニークな解釈を発表してくれました。同じ作品から人それぞれ多様なイメージが膨らむのは、興味深いですね。さて、みなさんはこの作品から何を感じますか?

つながる京近美コレクション

  • 陶片 No.18
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陶片詳細

作家名
石黒宗麿
制作年
1936-1968
サイズ
7.5cm×5.1cm×1.7cm
技法
磁州窯

ABCコレクション・データベース vol.1 石黒宗麿陶片集

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