映像:砂っぽい
触察:安原理恵
このコンテンツでは、八瀬陶窯から掘り起こした石黒宗麿の陶片を、作家(Artist)、視覚障害のある方(Blind)、学芸員(Curator)がそれぞれの専門性や感性を生かして読み解き、さまざまな感覚を使う鑑賞方法を創造していきます。
ページを閉じる触察:安原理恵
テキスト:中村裕太
石黒は、八瀬での作陶について「十年一日徹異端 染泥葛衣綻且寒 白片殘匋堆壘々 墻頭柿子紅珊々(私は十年一日の如く変らず異端を通してきており、泥にまみれた粗末な衣服もほころび、寒さにたえられないほどだ。堀の外に廃棄した白陶の破片はうずたかく積もるばかりだが、垣の上の柿の実は真紅に熟して珊瑚のようにかがやいている。)」と漢詩を読んでいる。八瀬には、玄関近くに柿の木が植わっており、書画にはしばしば柿の実った木が描かれている。この陶片は、鉛の入った茶色の絵の具で格子文が描かれているが、化粧のノリがあまり良くないために剥離している。こうした技法は、九世紀にメソポタミアからイランに流行したペルシャ壺に見られる。石黒は当時日本で開かれたペルシャ陶器の展覧会を通じて、そうした技術を見知ったのかもしれない。
テキスト:
石黒宗麿が制作の地として選んだ八瀬。京都北部の山間のこの土地は、もちろん山の緑と、川の青の美しい景色ですが、じつはその家並みは、「赤」かったんです。いまも八瀬に残る古い家をみれば、いまだ外観が赤く塗られています。この赤は「弁柄」と呼ばれる、日本古来の塗装剤で、科学的には「酸化鉄」と呼ばれています。この弁柄を壁に塗ることで、防虫や耐腐食性の効果があり、建物を長持ちさせるのだそうです。いまも京都には、こうした弁柄を売ってくれるお店もあります。
ただこれは、粉なので塗るときにはまた別の材料が必要です。そのとき、この弁柄と混ぜるのが「柿渋」なのです。柿渋は、その名のとおり柿の渋み成分であり、正体はタンニンです。石黒宗麿も作品のモチーフに選んだ干し柿!あの、まさに渋くて食べられない!あの渋さこそが、この「柿渋」そのものです。
この渋さのタンニンは、よくお茶やワインにも入っている、あの渋さと同じもの。柿を干すことを渋抜きといいますが、実際には口の中で溶けると渋さを発揮するタンニンを、むしろ干すことで不溶性の成分に変える目的で、ああして吊るしておくのです。そうして出来た干し柿は、むかしは砂糖の代わりとして使われるほどに甘さを増すのです。
本コンテンツには音声が含まれます。