展覧会概要
感覚をひらく新たな美術鑑賞プログラム創造推進事業
エデュケーショナル・スタディズ04Opening the Senses
Project to Promote Innovative Art Appreciation Programs
Educational Studies 04
チョウの軌跡 長谷川三郎のイリュージョン Locus of a Butterfly: HASEGAWA Saburo's Illusion
1937年、長谷川三郎は《蝶の軌跡》という抽象絵画を描きました。画面は8の字や楕円、点々や荒い筆致だけで構成されているため、どこにチョウの動いた軌跡が描かれているのか分かりません。ただ、画面のなかで何かが動いていた気配だけが漂ってきます。こうした抽象絵画から受ける目に見えない気配のような感覚は、どのように伝え合うことができるのでしょうか。
本プロジェクト*1では、中村裕太(A)、安原理恵(B)、松山沙樹(C)の3人が、この作品と同じ大きさのキャンバスの上で、長谷川の筆致をなぞりながら言葉を交わし、図録や美術雑誌などの文献資料を読み合わせ、さらに動物行動学からチョウの飛ぶ道を検証していきました。そして、粘土やロープ、小豆などの素材を組み合わせることで、触れることで想像力が刺激される《蝶の軌跡》の触図*2を作り出していきました。
展覧会では、3人の会話や行動をもとに《蝶の軌跡》にまつわる長谷川の思索を推し量りながら制作した14種の触図を展示空間に設えます。会場を巡りながら、触図を見て、聴いて、触れることで抽象絵画の新たな鑑賞方法を探っていきます。
- *1 京都国立近代美術館では、「みる」ことを中心としてきた美術鑑賞のあり方を問い直し、「さわる」、「きく」などの感覚を使うことで誰もが作品に親しみ、その新たな魅力を発見・共有していく「感覚をひらく」事業を行っています。2020年度からは作家(Artist)、視覚障害のある方(Blind)、学芸員(Curator)がそれぞれの専門性や感性を生かして協働し、所蔵作品の新たな鑑賞プログラムを開発する「ABCプロジェクト」に取り組んでいます。
- *2 触図とは、作品の構図や色合いなどを触覚情報に変換・翻案して表した図。