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京都国立近代美術館研究論集 CROSS SECTIONS Vol. 7 (2014/15) 京都 : 京都国立近代美術館, 2008–ISSN 1883-3403 Vol. 7

序文

 美術館の活動とは、まことに多岐にわたり、企画、展示、収集、保管、普及などなど、多種多様な業務をこなさなければならないものです。そんな、多忙の日々をおくっている研究員が、仕事の合間を縫うようにして、論文、調査報告をまとめ上げたのが、この『CROSS SECTIONS』なのです。まずは、当館の研究員諸氏に敬意を表すとともに、本誌に寄稿をいただいたみなさまに深く感謝を申し上げます。

 さて、第7号を数える今回は、「論文」「調査報告」「キュレトリアル・スタディズ」「エデュケーショナル・スタディズ」と4つの項目で構成されています。前号までは、ゲストの執筆者が多かったように思いますが、今回は当館の研究員の成果の発表の方が上回っており、まことにいい傾向だと思っております。

 まず論文は、当館の研究員、中尾優衣によるもので、明治・大正期に発行された漆芸の専門誌の記事を手掛かりに、近代京都の漆芸の動向を探る興味深い一文となっています。

 そして、調査報告は、19世紀末に創刊された雑誌『Dekorative Kunst(装飾芸術)』に関して、ドイツの美術批評家と建築・工芸の専門家が、どのように考えていたのかを、2人が交わした書簡の内容を検証することによって解き明かそうとする論考で、池田祐子主任研究員による力作です。

 続いては、土田麦僊が渡欧中に記した日記をまとめ上げたもので、小倉実子主任研究員による調査報告は、麦僊を研究する上で貴重な資料となっていくでしょう。

 毎回寄稿をいただいているサウンド・アートについての調査報告は、今回で4回目となるもので、中川克志氏(横浜国立大学准教授)と金子智太郎氏(東京藝術大学助教)には深く敬意を表するものです。

 キュレトリアル・スタディズの章では、平井章一主任研究員が担当した「ヨシダミノルの絵画1964-1967」の関連イベントとして開催された、美術家・藤本由紀夫氏による講演をまとめたもので、近年、再評価されている作家を身近に感じさせるものとなっています。

 さらに、池田祐子主任研究員と平井啓修研究員が担当した近代洋画と浮世絵に関する企画の報告を載せています。これは、「ホイッスラー展」の開催に合わせて企画したものです。また学術的な側面から高階絵里加氏(京都大学准教授)に参画いただいており、企画の方針や展示作品の選定、解説パネルの執筆まで、多大なご協力をいただきました。「関する二、三の覚書」と題した寄稿では、企画の内容を詳細に紹介するとともに、日本の美術家たちがジャポニスムにどう反応し、自分たちの作品に取り入れていったのか、いわゆるジャポニスムの里帰りについての緻密な論考もいただきました。あらためてこの場をかりて、高階先生のご協力に感謝を申しあげる次第です。

 最後の項目となるエデュケーショナル・スタディズでは、当館の朴鈴子元研究補佐員が学習支援事業の一環として開催した「10代のためのプロジェクト」は、美術館をあまり利用しない10代という年代に焦点をあて、彼らと美術館の関係について考察を進めています。なお、「美術館の放課後」というタイトルもまた魅力的なものになりました。そしてこの企画に参加された、小泉繁雄氏(京都市立醍醐中学校校長)からも寄稿をいただき、現場の先生としての視点から中高生と美術館の関係を具体的に論じていただきました。

 さて、このたびの第7号もまた、日頃の研究、教育活動などを、それぞれの視点で的確にとらえながら、より詳細な報告書としてまとめ上げられたと思っております。この報告書が美術に関係する多くの人の一助となり、さらには今日の美術に対して、何らかの影響を与えるものと信じております。

 美術館の活動を開始して、一昨年、京都国立近代美術館は50周年という節目の年を迎え、つぎなる節目に向かって活動を展開しています。本誌もまた、より充実した研究成果の発表の場として、近現代の美術を深く見つめた、魅力的な研究論集になることを心がけたいと思っております。

 今後とも、この研究論集にご支援、ご批判をお願い申し上げまして、巻頭のあいさつとさせていただきます。

2015年9月
京都国立近代美術館長 柳原正樹

内容

■論文

雑誌にみる近代京都の漆芸  ―『日本漆工会雑誌』を中心に―

中尾優衣(京都国立近代美術館研究員)

■調査報告

ユリウス・マイアー=グレーフェとヘルマン・ムテジウス
 ―雑誌『Dekorative Kunst(装飾芸術)』創刊時の書簡について

池田祐子(京都国立近代美術館 主任研究員)

資料紹介
 土田麦僊『渡欧日記』

小倉実子(京都国立近代美術館 主任研究員)

日本におけるサウンド・アートの展開
 ―スタジオ200における脱ジャンルとサウンド・アート―

金子智太郎(東京藝術大学 助教)+ 中川克志(横浜国立大学 准教授)

■キュレトリアル・スタディズ06:ヨシダミノルの絵画 1964-1967

講演録:藤本由紀夫「ヨシダミノルとプラスチックの時代」

[構成]平井章一(京都国立近代美術館 主任研究員)

■キュレトリアル・スタディズ07:日本近代洋画と浮世絵―鏡としてのジャポニスム

「日本近代洋画と浮世絵  ―鏡としてのジャポニスム」について

池田祐子(京都国立近代美術館 主任研究員)

「日本近代洋画と浮世絵  ―鏡としてのジャポニスム」に関する二、三の覚書

高階絵里加(京都大学 准教授)

■エデュケーショナル・スタディズ

10代のためのプロジェクト「美術館の放課後」
 ―青少年による美術館活用の促進を目指して―

朴鈴子(山口情報芸術センター[YCAM] エデュケーター)

10代のためのプロジェクト「美術館の放課後」について

小泉繁雄(京都市立醍醐中学校 校長)