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京都国立近代美術館研究論集 CROSS SECTIONS Vol. 6 (2013) 京都 : 京都国立近代美術館, 2008–ISSN 1883-3403 Vol. 6

序文

 京都国立近代美術館が活動の第一歩を踏み出したのは昭和38(1963)年の春のこと。そして、平成25(2013)年に開館50周年という大きな節目の年を迎えたのです。この間、多くの展覧会を開催し、作品の収集や教育普及事業など、さまざまな美術館活動を展開してきました。その活動の基本的な姿勢は、「工芸」を軸としながら、デザインやテキスタイル、ファッション、さらには建築の領域も紹介してきました。

 また、京都を基本としながら、広く近代から現代の美術にも視点をあてた企画展、作品収集を行ってきました。

 そういった活動の一端をまとめたものが、この研究論集『CROSS SECTIONS』であり、当館の研究員の日頃の成果の発表の場として、また、若手研究者の論文等を紹介する研究報告書として制作されています。

 平成20(2008)年5月に創刊号を出版し、第6号目を数える今回は、「論文」「研究ノート」「調査報告」「特集」「エデュケーショナル・スタディズ」と5つの項目で構成されています。

 まず論文は、奥村純代氏(トルコ文化財団イスタンブル支部美術史専門家)より、オスマントルコ美術に見られる三玉文様に焦点をあて、その文様がトルコだけではなく、広く東洋や西洋の絵画や彫刻、織物などに多用されていることを論ずる興味深い一文です。そして、佐藤直子氏(文化庁文化財部伝統文化課文化財調査官)は無形文化財について、その概念の誕生に至るまでを論考していますが、戦後、アメリカの占領下にあった日本において、GHQ/SCAP・連合国最高司令官総司令部がいかに深くかかわっていたかを明確にしたものであり、美術史に一石を投じるすばらしい論文を寄稿いただきました。当研究論集は前述したように、館外の若手研究者の発表の場ともなっており、お二人にはゲストとして一文を寄せていただいていますが、当館と関係のある方々なのです。奥村さんは、20年前に数年間当館の事務補佐員として勤務されていました。そして佐藤さんは、毎年当館が作品貸出で協力している文化庁巡回展「わざと美」を担当されています。

 そして研究ノートの寄稿者、奥田修氏(パウル・クレー・センター研究員)も、当館で「クレー展」を開催した折、多大なご協力をいただいた関係者のお一人であり、奥田さんからは、スイスの画家カール・ヴァルザーが明治41(1908)年日本滞在中に見聞した「歌舞伎」を題材とした作品について一文をいただきました。

 美術展におけるサウンド・アートについての調査報告をいただいたお二人も、同様に当館ゆかりの方々です。中川克志氏(横浜国立大学准教授)は、当館の客員研究員をされており、金子智太郎氏(東京藝術大学助教)は、中川さんとともに共同研究とした論考を定期的に本誌に寄せていただいている協力者の一人です。

 特集においては、当館とローマ日本文化会館の共催による「近代日本画と工芸の流れ1868-1945」展の開催を記念するシンポジウムの内容を掲載しています。さらに当館の特色ある普及活動を紹介した「エデュケーショナル・スタディズ」では、朴鈴子研究補佐員が、学校教育との連携を事例としながら、鑑賞教育の重要性とその意義について論じています。

 このたびの第6号もまた、本誌の目的でもある日頃の研究、教育活動、シンポジウム、講演会などを詳細に報告する、充実した内容になったと自負しています。そして、この報告書が、今日の芸術、文化の諸断面に刺激を与え、さらには美術的な議論、論戦へとつながっていくことを願ってやみません。

 その思いは、本誌のタイトルCROSS SECTIONSにも託されています。日本語でいうと、「切り口」あるいは「断面図」となりますが、まさに鋭い切れ味で美術を切り裂き切断面を見せようとするのがこの報告書の狙いでもあります。近現代の美術を俯瞰した確かな視点がこの論集に集結していると言ってもいいでしょう。若手研究者から寄せられた論文、研究ノートあるいは調査報告書の内容は、的確に美術の切断面を見せつけてくれるものであり、その意欲的な姿勢に深い敬意を表するものです。

 ともあれ無事出版にこぎ着けることができました。そしてこの第6号は、当館の開館50周年という記念すべき年に発行される研究報告書となります。それは次の50年に新たな歴史を刻む第一歩ともいえます。今後さらなる研究成果の発表の場として、充実した内容となることを心がけたいと思っております。

 美術館活動とは、50年、100年後にはじめてその存在の本当の真価があらわれるものであり、本書もその意味において次なる歴史につながる研究と活動の足跡を刻み続けていく所存です。今後とも、本研究論集にご支援、ご批判を賜りますことを願い、巻頭のあいさつとさせていただきます。

2014年1月
京都国立近代美術館長 柳原正樹

内容

■論文

アジアの東西を結ぶ三玉文様の諸相

奥村純代

GHQ/SCAPと工芸技術
 ―<無形文化財>という概念の誕生をめぐる考察

佐藤直子

■研究ノート

傾城阿古屋:カール・ヴァルザーの歌舞伎絵について

奥田修

■調査報告

日本におけるサウンド・アートの展開
 ―80年代後半の「サウンド・アート」の展覧会をめぐって―

中川克志+ 金子智太郎

■特集:
「近代日本画と工芸の流れ 1868-1945」展記念シンポジウム
「東西文化の磁場―日本画と工芸の視点から」

日本画の近代

尾﨑正明

近代日本工芸の流れ 1868-1945

松原龍一

竹内栖鳳が描いた西洋風景画 ―絵画と文学―

廣田孝

日本美術 ―イタリアからの一視点

ロッセッラ・メネガッツォ

討議と質疑応答

小倉実子

■エデュケーショナル・スタディズ

京都国立近代美術館で行われた二つの教育研修

朴鈴子