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京都国立近代美術館研究論集 CROSS SECTIONS Vol. 4 (2011) 京都 : 京都国立近代美術館, 2008–ISSN 1883-3403 Vol. 4

序文

 京都国立近代美術館研究論集第四号を刊行いたします。本誌出版の趣旨をあらためて記せば、それは「(京都国立近代美術館の)研究員を中心に進められている平素の研究・教育活動、館が開催したシンポジウム、講演会、館の進める国際交流等々の活動の成果を報告し、これによって今日の芸術現象を含む文化の諸断面に光を当て、さらなる議論のきっかけにすること」にあります。いうまでもなく美術館活動の大きな柱は、「展示・普及・作品収集」活動に集約されるといって過言ではありません。そしてこれらの活動から生まれる様々の「活動の成果」について、美術館は「文化の諸断面に光を当て」ながら、どのような「切り口」でその成果を広く発信することができるのかという具体的な事例発表の場を、本研究誌は担っています。

 この「切り口」の提示こそ、本誌のタイトルCROSS SECTIONSが意味するところにほかならないわけで(本研究論集第一号の岩城見一・前館長による巻頭あいさつを参照)、すでに本研究論集も四号を数え、こうした「切り口」の実態を毎年欠かさず発信できるまでにいたっているものと自負してもおります。一般的にこのような体裁の論集では、「論文」と「研究ノート」、さらには「調査報告」などで占められている場合が多いようですが、本研究論集ではこれらに加え、「特集」や「キュレトリアル・スタディズ」、「エデュケーショナル・スタディズ」など、シンポジウムや展覧会と連動した当館独自の企画が反映された研究論集としての性格も鮮明に打ち出せるようになって参りました。

 こうした事柄をふまえ、本号ではまず、当館コレクションについてより深い考察が加えられたふたつの「論文」を巻頭に掲げました。ひとつは、これまでにも他館からの出品依頼の機会も多いマルセル・デュシャンのレディメイド《泉》に関するもの、そして昨秋、展覧会としてもすでに披露した〈川西英コレクション〉における「川西英と竹久夢二」のかかわりについて触れたものであります。

 さらに当館の若いスタッフであるふたりの研究補佐員が、「研究ノート」として美術教育に関わる論考を寄せています。それぞれ当館に勤務する以前に大学院等において研究していたテーマを発表したもので、広い本論集読者の方々からご教示いただけますことを願っております。そして、昨年まで当館の客員研究員をつとめ、当館がすすめる科学研究補助金の研究協力者から「調査報告」が寄せられました。

 また、本号の「特集」では、すでに前号(第三号)にも研究成果の報告を掲載しましたが、当館の研究員を中心に構成され、平成二一年度に採択された科学研究費補助金(基盤研究(A))「東西文化の磁場―日本近代建築・デザイン・工芸の脱ー、超ー領域的作用史の基盤研究」の継続的成果発表として、昨秋パリの日本文化会館で開催した「近代日本工芸1900-1930―伝統と変革のはざまに」展記念国際シンポジウム「東西文化の磁場」について報告しています。ここでは、発表者全員の発表要旨を掲載するとともに、その概要について触れ、本科研二年度の研究成果報告の一端といたしました。

 加えて、本号でも「キュレトリアル・スタディズ」として、笠原美恵子の新収蔵品を中心とする論考を掲げました。さらに「活動報告」として、一昨年五月に当館で開催した「ローマ追想―19世紀の写真と旅」の交換展として、イタリア・モデナのジュゼッペ・パニーニ写真美術館で昨春開催された、当館コレクションによる「野島康三展」に関連した報告、並びに野島についての論考などを収録しています。  このように本号におきましても、コレクションや展覧会、美術館教育そして科学研究費による成果報告など、当館が日々行っている研究成果の披露の場として、美術館が刊行する研究誌のなかでも他に類をみない性格を有していることをご理解いただけることと思います。

 当館は、明年三月に、開館五〇周年の記念の年を迎えます。本研究誌も当然のことながら、これまでの半世紀にわたる館の歴史の上に位置し、今後さらなる研究成果発表の場として機能するよう、その使命を継続して果たしてゆかなければなりません。そうした意味におきましても、これから一層本研究誌にご支援・ご批判賜りますことを願いつつ、本号の巻頭のあいさつといたします。

2012年2月
京都国立近代美術館 学芸課長 山野 英嗣

内容

■論文

マルセル・デュシャンのレディメイド、《泉》をどのように語るか

河本信治(京都国立近代美術館 特任研究員)

<川西英コレクション>に見る、川西英と竹久夢二

山野英嗣(京都国立近代美術館 学芸課長)

■研究ノート

20世紀初頭ウィーンにおける美術と美術教育
 ―フランツ・チゼックの活動と1908年のクンストシャウを中心に

川井遊木(京都国立近代美術館 研究補佐員)

ニューヨーク近代美術館による美術鑑賞法
 ―Visual Thinking Strategyの発祥とその背景

朴鈴子(京都国立近代美術館 研究補佐員)

■調査報告

日本におけるサウンド・アートの展開
 ―『Sound Garden』展(1987-94)と吉村弘の作品分類

中川克志(横浜国立大学 准教授)+ 金子智太郎(東京藝術大学 助手)

■特集:「近代日本工芸1900-1930 ― 伝統と変革のはざまに」展
     記念国際シンポジウム「東西文化の磁場」

パリ日本文化会館におけるシンポジウム「東西文化の磁場」について

山野英嗣(京都国立近代美術館 学芸課長)

レオナール・フジタ(藤田嗣治)と日本

尾﨑正明(京都国立近代美術館 館長)

パリで開催された2つの万国博覧会と近代日本工芸1900-1930展

松原龍一(京都国立近代美術館 主任研究員)

La Pensée plastique et le statut social des arts et métiers au Japon face à la mondernité

稲賀繁美(国際日本研究センター 教授)

明治、大正期の陶芸作家による、伝統と革新のはざまでの中国古陶磁器の倣製品の制作について

出川哲朗(大阪市立東洋陶磁美術館 館長)

装飾における日本的なもの

加藤哲弘(関西学院大学 教授)

Tôkyô – Paris – Kyôto: itinéraire d’une redécouverte des «arts décoratif» au début du XXe siècle à travers le cas d’Asai Chû

クリストフ・マルケ(フランス国立東洋言語文化研究院 教授/日仏会館フランス事務所フランス国立日本研究センター 所長)

■キュレトリアル・スタディズ

笠原恵美子―inside/outside………新収蔵作品を中心に

牧口千夏(京都国立近代美術館 研究員)

■活動報告:野島康三展/ジュゼッペ・パニーニ写真美術館、モデナ(イタリア)

はじめに

池田祐子(京都国立近代美術館 主任研究員)

野島コレクションの位置

河本信治(京都国立近代美術館 特任研究員)

野島康三―光絵

キアラ・ダッローリオ(ジョゼッペ・パニーニ写真美術館 館長)