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展覧会コミッショナーによる 記念パネルディスカッション
「型紙を通して見えてきた世界と日本」
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展覧会コミッショナーによる 記念パネルディスカッション
「型紙を通して見えてきた世界と日本」
科学研究補助金(基盤研究(A))東西文化の磁場−日本近代建築・デザイン・工芸の脱—、超—領域的作用氏史の基盤研究
- 日時
- 7月21日(土)午後2時〜5時
- 会場
- 京都国立近代美術館1F講堂
- 定員
- 100名
※聴講無料、当日午前11時より受付にて整理券を配布します。 - プログラム
-
14:00 – 14:10 ごあいさつ
14:10 – 14:40 「日本の型染の歴史とその文化史的意味」長崎巌
14:40 – 15:10 「英国、ベルギーにおける型紙の受容」高木陽子
15:10 – 15:20 休憩
15:20 – 15:50 「フランスの装飾工芸におけるジャポニスムと型紙」馬渕明子
15:50 – 16:20 「ドイツにおける型紙受容とモダン·デザインの誕生」池田祐子
16:20 – 17:00 質疑応答
発表要旨
日本の型染の歴史とその文化史的意味
この展覧会は、日本の染型紙が19世紀末の欧米における工芸のジャポニスムに与えた影響を明らかにすべく企画されたものですが、当時の欧米人のみならず現在の日本においても、日本の型染や型紙染の歴史や意味について十分な理解がなされているわけではありません。ゆえにこの発表では、日本における型染出現の意味と染型紙の歴史を概観します。
具体的には、まず量産性に存在意義があると考えられがちな型染が、模様を反復して表すことができるという特徴を持つがゆえに、長く紋織物の代替品として使用されてきたということを指摘します。また、そうしたことが、型染の出現以来、長くこれが支配階級によって使用されるという結果をもたらしたことを述べます。
英国、ベルギーにおける型紙の受容
産業革命後のデザイン改良運動や唯美主義を背景に、英国では、1880年代にリバティー社やシルバースタジオなどによる室内装飾の領域で型紙の応用が始まり、1890年代をピークにアーツ・アンド・クラフツの作家やグラスゴー派にも広がりました。一方、1890年ごろ大陸で最初に英国デザインを受け入れたベルギーでは、型紙は、装飾芸術を制作することで伝統的な美術ヒエラルキーに反旗を翻していた前衛美術家アンリ・ヴァン・ド・ヴェルドやヴィクトール・オルタによって受容されました。型紙の平面かつ簡素な造形は、時代の要請に合っていたことに加え、多様な媒体への応用の可能性が開かれていたのです。
フランスの装飾工芸におけるジャポニスムと型紙
フランスはさまざまな側面でジャポニスムをリードした国ですが、とりわけ1900年前後のアール・ヌーヴォーの時代、型紙からの影響を強く感じさせる作品が生まれました。日本美術商として活躍したジークフリート・ビングは、なかでも型紙のデザインとしての重要性に早く気づいた人物です。彼が編集した月刊誌『芸術の日本』はかなりの数の型紙をデザインの見本として複製しました。これらは彼が所蔵していたもので、1895年に開いた店「アール・ヌーヴォー」の商品制作で抜擢したデザイナー、美術家たちも、参照したと考えられます。また、同じころ宝飾デザインの分野でも、ヴェヴェール、ラリックらの作品に型紙の応用を見ることができます。
アール・ヌーヴォーのもう一つの揺籃の地ナンシーでは、3人の人物が型紙を所蔵していました。彼らとガレやマジョレルら美術家たちの密な交流から、型紙を思わせるデザインの装飾工芸が誕生しました。それらフランスのデザインはどんな特徴があるのか、型紙のどんな魅力が彼らをとらえたのかを考えます。
ドイツにおける型紙受容とモダン・デザインの誕生
ドイツにおいて日本の型紙は、産業振興を目的として1860年代以降各地に競って設立された工芸博物館や工芸学校で、産業革命後の時代の要請に応える新たな造形を生み出すための手本として、積極的・戦略的に収集・活用されました。しかしその熱狂は、1890年代初めから1900年代初めのわずか10年間続いたに過ぎません。ドイツにおける型紙受容の熱狂がなぜ短期間であったのか、その疑問に対する解答を見つけるため、19世紀半ばの歴史折衷主義から、世紀転換期の新たな芸術・デザイン動向であるユーゲントシュティール、そして1907年のドイツ工作連盟設立と相前後して機械生産を肯定するモダン・デザインへと大きく舵を切っていくドイツのデザイン史を概観し、その激動の中で型紙が果たした役割について考えます。
発表者プロフィール
長崎 巌:共立女子大学教授
1953年、大阪府生まれ。東京藝術大学美術学部大学院美術研究科博士課程単位取得修了。専門は染織文化史・服装史・文様史・色彩文化史。東京国立博物館染織室長を経た後、2002年より共立女子大学家政学部教授として、染織文化史などの教鞭を執る。染織品の保存、修復についても研究をおこなう。きもの文化賞受賞(2005年)。
主な著書に『きものと裂(きれ)のことば案内』(小学館、2005年)、『きもの 和のデザインと心』(東京美術、2008年)、『勇将の装い 戦国の美意識−甲冑・陣羽織−』(ピエ・ブックス、2008年)、『日本の伝統色 配色とかさねの事典』(ナツメ社、2008年)、『日本の美術 帯』(至文堂、2009年)などがある。
馬渕明子:日本女子大学教授
神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京大学教養学科卒業。東京大学大学院、パリ第四大学大学院博士課程で美術史を学ぶ。東京大学助手、国立西洋美術館主任研究官等をへて現職。専門は西洋近代美術史。
主な著書に『美のヤヌス−テオフィール・トレと19世紀美術批評』(スカイドア、1992年:サントリー学芸賞)、『ジャポニスム−幻想の日本』(ブリュッケ、1997年:ジャポニスム学会賞)、編著に『ジャポニスム入門』(思文閣出版、2000年)、展覧会監修に『大回顧展 モネ』(国立新美術館、2007年)などがある。
高木陽子:文化学園大学教授
東京都生まれ。お茶の水女子大学修士課程修了後、ブリュッセル自由大学文学部博士課程修了。考古学芸術学博士。専門はベルギー近代美術・デザイン史。
主な著書に Japonisme in Fin de Siècle Art in Belgium(Antwerp: Pandora, 2002年)、展覧会企画・監修に『アントワープ・ファッション展』(2009年)、『感じる服考える服:東京ファッションの現在形』(2011年)(すべて東京オペラシティ アートギャラリー)などがある。
池田祐子:京都国立近代美術館主任研究員
大阪市生まれ。大阪大学大学院文学研究科芸術学専攻博士課程後期終了。1994年より京都国立近代美術館に勤務。専門はドイツ近代美術・デザイン史。
主な共著に『デザインの力』(晃洋書房、2010年)、『近代工芸運動とデザイン史』(思文閣出版、2008年)、展覧会企画に『クッションから都市計画まで:ヘルマン・ムテジウスとドイツ工作連盟−ドイツ近代デザインの諸相』(2002年)、『琳派の継承・近代デザインの先駆者 神坂雪佳』(2003年)、『ドイツ表現主義の彫刻家 エルンスト・バルラハ』(2006年、第2回西洋美術振興財団学術賞)、『ドイツ・ポスター1890-1933』(2008年)、『パウル・クレー おわらないアトリエ』(2011年)(すべて京都国立近代美術館)などがある。