展覧会ブリューゲルとネーデルラント風景画
ブリューゲルとネーデルラント風景画
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本展は、プラハ国立美術館・国立西洋美術館と共催で企画され、ヨーロッパ近代風景画の重要な源泉のひとつとなったネーデルラント風景画の成立と展開を紹介した展覧会である。
ブリューゲルは、民衆の生活や風俗に取材した作品を数多く残した画家として一般に知られている。が、彼はまたネーデルラント風景画史においても伝統と革新を融合させた風景画の世界を切り開いたという意味で重要な位置を占めており、本展はこの点に着目して構成された。つまり、宗教画や人物画の背景として脇役的に添えられていた自然景観が、次第に画家の関心をひくようになり16世紀のネーデルラントでは「世界風景画」と呼ばれる独特の風景画形式が確立された。それは、俯瞰的視点をとって間近にある物から世界の果てまで全てを提示するという風景画観に基づいており、一方で前景・中景・後景の細部をそれぞれ綿密に描きつつ三つの色彩で明快に区別しながら、他方で近景から遠景へと切れ目なく空間が展開していくかのように描き出すもので、マクロとミクロを共存させた形式であった。別の言い方をすれば、感覚的にとらえられた自然の断片的提示ではなく、自然についての様々な知識を全体視という観点から寄せ集め構想したものである。ブリューゲルは、この形式をより壮大な宇宙的ヴィジョンへ押し進めるとともに、日常生活を営む民衆の姿と情景をこれに挿入し、次の風景画の可能性を切り開いた。つまり、ともに断片的でありながら一方は現実的、他方は非現実的な2つの風景画の流れである。
このような意味で、ブリューゲルの風景画を、ネーデルラント風景画史の分岐点と見做し、次の四つのセクションで展示空間を構成した。
I 初期ネーデルラント絵画における風景描写(1500-1550)11点
II ブリューゲルとその周辺の画家達の風景画(1550-1600)13点
III 南ネーデルラント(フランドル)を中心に発達した風景画(1600-1650)21点
IV 北ネーデルラント(オランダ)を中心として発達した風景画(1600-1650)13点
総点数は58点であったが、国立西洋美術館の所蔵作品4点を参考作品として陳列した。
また、各セクションにまとめられた風景画の共通の特徴、それを支える自然観の変化、各セクションの風景画を生み出す要因となった価値観・趣味の変化等も会場パネル・小冊子等であわせて紹介した。(永井)
- 会期
- 7月10日(火)~9月16日(日)
- 入場者数
- 総数89,717人(一日平均1,495人)
- 共催
- 国立西洋美術館、朝日新聞社
- 出品目録
作者名 | 作品名 | 制作年 | 材質・形状 |
---|---|---|---|
生命の泉の画家 | 生命の泉 | c.1511 | 油彩・板 |
コルネリス・エンゲブレフツ(派) | キリスト磔刑三連祭壇画 | 1520年以降? | 〃 |
ヨース・ファン・クレーフェ | 聖母子 | c.1515 | 油彩・板 |
ヤン・サンデルス・ファン・ヘメッセン(派) | 聖ヒエロニムス | 〃 | |
フランクフルトの画家(派) | 聖クリストフォロス | 〃 | |
マグダラのマリア伝の画家/葉飾り刺繍の画家 | 聖母子のいる風景 | 〃 | |
ヤン・スワールト・ファン・フローニンゲン | 死の勝利 | 〃 | |
ヨアヒム・パティニール(派) | 聖ヒエロニムスのいる風景 | 〃 | |
ヘリ・メット・ド・ブレス | 鍛冶場のある風景 | 〃 | |
ルカス・ガッセル | キリストとカナンの女のいる風景 | 1550 | 〃 |
コルネリス・マサイス | ゴルゴダへの道 | c.1540 | 〃 |
ピーテル・ブリューゲル(父) | 干草の収穫 | 1565 | 〃 |
ピーテル・ブリューゲル(子) | 三王礼拝 | 〃 | |
〃 | 鳥罠のある冬景色 | 〃 | |
〃 | 農民の喧嘩 | 1622 | 〃 |
フランドル派(17世紀初頭) | バベルの塔の建設 | 〃 | |
ヒリス・モスタールト | 村の市場 | 1579 | 〃 |
ヤン・ブリューゲル(子) | 農民のいる村の道 | 油彩・銅版 | |
ピーテル・ブリューゲル(子) | 村落風景 | 1630年以降 | 油彩・板 |
〃 | 雪の村 | 〃 | |
〃 | 泉 | 〃 | |
〃 | 小川 | 〃 | |
〃 | 河 | 〃 | |
〃 | 河口 | 〃 | |
ヘンドリック・ファン・クレーフェ(三世) | ローマのチェージ庭園 | 1564 | 〃 |
ウィレム・ファン・ニューラント | クンパーニャ地方の羊飼い | 1617 | 〃 |
カレル・ファン・マンデル | 羊飼いの礼拝 | 1596 | 〃 |
コルネリス・ファン・ハールレム | 聖パウロの改宗 | 〃 | |
フランドル派(17世紀初頭) | キリスト磔刑三連祭壇画 中央:キリスト磔刑 左翼:キリスト復活 右翼:キリスト昇天 | c.1600 | 油彩・銅板 |
ヤン・ブリューゲル(父)/ヘンドリク・ド・クレクル | アルテミスとアクタイオンのいる風景 | c.1606/9 | 油彩・板 |
アブラハム・ホファールツ/フランス・フランケン(子) | メレアグロスとアタランテのいる風景 | c.1620/26 | 〃 |
ヘンドリク・ファン・バーレン/ヤン・プリューゲル(父) | ヴィーナスとバッカスとケレスのいる風景 | c.1618 | 〃 |
ヨース・ド・モンペル | 満月の夜の村 | 1620年代前半 | 〃 |
〃 | 隠遁者と巡礼者のいる風景 | 〃 | |
ダフィット・テニールス(子) | 山岳風景 | c.1650 | 油彩・カンバス |
ヘイスブレフト・レイテンス | 雪の狩人 | 油彩・板 | |
ルーラント・サフェリー | 鳥のいる風景 | 1622 | 〃 |
ルーラント・サフェリー | 楽園 | 1618 | 油彩・板 |
アレクサンドル・ケイリンクス | 森林風景 | c.1620/26 | 〃 |
●フィット・フィンクボーンス | 狩猟者のいる森 | 油彩・カンバス | |
セバスティアーン・フランクス | 兵士のいる風景 | 油彩・板 | |
ヒリス・ファン・ファルケンボルフ | 戦闘場面の見える風景 | 油彩・カンバス | |
ボナヴェントゥーラ・ペーテルス | 海上の嵐 | 1632 | 油彩・板 |
アダム・ウィラールツ | 海辺の風景 | c.1621 | 〃 |
ヤン・ファン・ケッセル(父) | 海の幸のある風景 | 1663 | 油彩・銅版 |
エサイアス・ファン・ド・フェルデ | スケートをする人々のいる風景 | c.1620 | 油彩・板 |
〃 | 古代風神殿のある風景 | 1624 | 〃 |
ヤン・ファン・ホイエン | 舟着き場 | 1625 | 〃 |
〃 | オーフェルスヒーの眺め | 1635 | 〃 |
サロモン・ファン・ロイスダール | 農家の見える風景 | c.1631 | 〃 |
ピーテル・ド・モレイン | 田舎の道 | 1628(?) | 〃 |
ピーテル・ド・ブロート | 橋の見える風景 | 1636 | 〃 |
アールト・ファン・デル・ネール | 村の午後 | 1649 | 〃 |
ヤーコプ・ファン・ロイスダール | 道のある風景 | 1650年代初期 | 〃 |
〃 | 小川の見える森の風景 | 1650年代 | 油彩・カンバス |
エグベルト・リーフェンス・ファン・デル・ブール | 1654年10月12日の火薬庫爆発後のデルフト | 1654 | 油彩・板 |
アラールト・ファン・エーフェル・ディンゲン | ノルウェー風景 | c.1647/51 | 油彩・カンバス |
ヤン・アセイレン | 浅瀬の見える風景 | c.1649 |
- 新聞雑誌関係記事
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新聞記事
朝日/3月25日(中野孝次)、4月2日(夕)(森 洋子)、4月3日(天声人語)、7月9日(夕)(辻 成史)、8月2日、3日、4日(幸福 輝)、8月5日、7日、8日(中村俊春)、8月9日、10日、11日(永井隆則)、8月18日(早稲田みか)
京都/5月6日(夕)(神内一郎)、8月18日(藤 慶之)
日経/5月5日(滝 悌三)
読売/8月10日(潮江宏三)
産経/7月9日
毎日/8月23日(夕)
奈良新聞/7月14日
雑誌記事
三彩 1990年3月、No.510(前川誠郎)
AV(artvision)1990年vol.18-1 春号(深沢孝哉)
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