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展覧会荻須高徳遺作展

荻須高徳遺作展

 本展は、「パリを愛した画家のまなざし」というサブタイトルに要約されるように、半世紀以上にわたってパリに住み、ヨーロッパ、特にパリを描き続けた荻須高徳(1901~1986)の没後はじめての遺作展である。

 荻須は、東京美術学校(現、東京芸術大学)を卒業後、1927年フランスに渡り、美術学校の先輩であった佐伯祐三に導かれてパリの街角に画架を立てて仕事を始める。以来、生涯主にパリという都市にモティーフを求め続けることになる。だが、同じようにパリを描いたヴラマンク、ユトリロや佐伯とは異なり、荻須は情感、文学的香り、詩情を前面に押し出すことから離れて、パリを探索し、そこでその都度発見した街並や建造物のつくる構成、形、色、マティエールをおもしろさを自らの視覚でとらえて再構築し、それらを重厚、堅牢で時としてモニュメンタルな画風へ高めるという造形主義の姿勢をとった。この点で、荻須は、レンプラント、セザンヌなどのヨーロッパの画家達の築き上げてきた技法とその背後にある精神の伝統のひとつを消化しえた、数少ない日本人画家のひとりであった。

 荻須は、日本人的情感、あるいは逆にヨーロッパの異国情緒を伝えるものをモティーフとして取り入れたり、メッセージの中心として盛り込むことなく、西洋絵画の伝統を土台とし、ヨーロッパの事物のみを扱いながら造りあげた自らの造形世界を、日本人のみならずヨーロッパ人に向けて提示し続けた。この作家としての在り方は、明治以来の滞欧作家達の中で、短期間の滞在後日本で作品を発表した、いわゆる“留学型作家”に対して、海外に活動の拠点を置いた“定住型作家”と一般に呼ばれた人々の中でも特異であり、日本人作家の国際化の先がけのひとつと言える。

 そして、荻須の獲得した国際性は、その表現内容にもあった。荻須の取り上げたモティーフは、いわゆる記念建造物でも観光名所でもなく、近代化の中で徐々に消え去っていった、地味で平凡だが数世代に互って営まれてきたパリの人々の生活の場であった。この点で、荻須の絵画の多くは、パリ市の歴史についてのユニークな証言としての意義を持っている。

 本展覧会は、こうした荻須の画業を油彩画112点、水彩20点、素描12点、タピスリー2点、参考としてパリの現場実景写真18枚を展示することによって紹介した。国際化が進行してやまない今日開かれた本展は、日本の5都市と、パリの歴史的遺産を収蔵するカルナヴァレ博物館を巡回したもので、荻須の描き出したパリを多くの人々が堪能し得たにとどまらず、荻須が早くから他の少数の作家とともに確立していった“非境界性”という性格(特に戦後から顕著になり現在に至る、海外在住日本人作家達の多くに共通する特質)を確認するまたとない機会となった。

会期
平成元年2月14日(火)~3月19日(日)
入場者数
総数 51,061人(一日平均 1,761人)
共催
朝日新聞社
出品目録

《油彩》
作品名 制作年 材質・形状等 寸法(cm)
自動車修理屋(セレクト・ガレージ) 1928 油彩・麻布 60×73
シャトー街の歩道橋(モンパルナス) 50×61
赤い家 60×73
広告塔 73.5×60
自画像 1929 41×33
赤いコートの女 73×60
ヴォージラール街 74×92
街角(グルネル) 1929-30 73×61
病院 1930 50×61
ポスターの壁 60×73
パイプをくわえた自画像 1931 61×50
ヴァイオリンのある静物 81×55
婦人像 100×100
パリのカフェ 60×73
食料雑貨店 1932 54×73
仕事服屋 60×73
にしんのくんせい 38×46
ルーアン 1933 116×89
チューリップ 46×38
ブラントーム街 1934 73.5×54
水差しと魚のある静物 1935 50×61
アンジュ河岸 1936 60×73
シテ・ドレ 65×92
サン・タンドレ・デ・ザール広場 73×92
ハム 1937 46×55
自動車修理屋 65.5×92.5
ムフタールの市場 1938 73×60
オルドネール街 61×38
食料品店 65.5×92.5
プロヴァンのフォンティーヌ広場 1940 50×61
角の居酒屋 60×73
モンマルトル裏 73×90
城の台所(ドンジューの城) 1950 81.5×100
サン・マルタンの裏町 100×81
サンス館 65×92
パリの屋根 162×130
サン・ドニ運河 1951 油彩、麻布 50×61
サン・ドニ風景 1952 65×81
バンバラ城(イギリス) 60×73
ジュシュー広場 73×92
シャルルマーニュ街 1953 92×60
絵の具屋 1953 60×73
びん 1954 92×60
中庭 162×97
ビストロ 116×81
古道具屋 73×60
線路に沿った家 1955 146×97
アムステルダムの運河 1956 90.5×64
ヴェネツィアの宮殿 1957 81×100
カ・ドーロ(ヴェネツィア) 73×60
ルールック運河 1958 54×73
サン・ジェルマン・ロクセロワ、パリ 60×73
静物 1959 61×81
雪(霧屋敷) 60×73
カスカード街 92×65
ロモン街 60×73
サン・ブレーズ広場 1960 114×162
サンリスのサン・ピエール寺院 92×73
マン・ドール横町 97.5×130

作品名 制作年 材質・形状等 寸法(cm)
鍵屋 1961 油彩・麻布 162×114
114×146
メニルモンタン(パリの空) 1962 55×73
オーベルヴィリエ 1964 54.5×81
サン・ドニ 91×117
黄色の壁 97.5×130.5
玉突屋 114.5×146
室内 130×97
カンカンポワ街 1965 130×82
レ・アール(ラ・モール) 1966 81.5×65.5
オー・ロシェ・ド・カンカール 1967 73×60
ル・ペック(パリ郊外) 162×130
ナントゥイエ城 82×100.5
イノサンの泉 73×60
内庭 89×116
アベッス横町 1968 73×54
ポルト・プシェ(ポスターを貼った家) 60×81
シャルルマーニュ街 97×131
マントの古い橋 1969 60×92
リベラル・ブリュアンの館 89×116
芍薬 61×38
ロジエ 1970 116×89
55×46
グランド・トゥリュアンドリー街 73.5×60.5
ルールック橋 81.5×100.5
ベルヴィル 1971 73×60
ノルマンディ・ホテル 65×81
マルリーのセーヌ河 54×65
ロワ・ドレ街 1972 65×54
僧院の回廊 1973 73×92
ペンキとガラス屋 1975 60×73
小舟(サン・セルヴァン) 60×73
角の家 81×60
雪の運河 1976 38×46.5
たばこ屋 81.5×65
ロケット街 81×60
くもり日 1977 73×60.5
洗濯場 130×162
ア・ラ・グリーユ 1978 81×100
金のかたつむり 146×97
ラジオ・テレ(ノートル・ダム・デ・ヴィクトワール街) 1979 60×73.5

作品名 制作年 材質・形状等 寸法(cm)
テアトル広場(サン・ドニ) 1979 油彩・麻布 60×81
ヴェネツィア、大運河 1980 114.5×163
サン・マルタン運河 1981 54×65
ベルヴィル 92×73
マレー地区 116×89
オー・モカ・シャロンヌ 1982 81×100
印刷屋 1983 73×60
ジェッサン街 89×116
サン・マルタン運河 1984 116×89
青い店 73×92.5
オーボン・ヴィヴァン 1985 116×89
アルジャントゥイユの通り 1986 60×73

《水彩》
作品名 制作年 材質・形状等 寸法(cm)
巴里風景(ヴォージュ広場) 1949 ペン、淡彩 25.5×35.5
巴里風景(マレー地区) 25.5×32.5
巴里風景(線路に沿った家) 41.5×30.5
巴里風景(セーヌ河) 24.5×32.5
パリ、古い地区 1960 30.5×43
レ・アール(中央市場附近) 32.5×25
オンフルール 1966 32×24.5
ヴェネツィア、小運河 1966 ペン、淡彩 32×24.5
中央市場の取りこわし 32.5×25
ヴェネツィアの魚市場 1973 32×50
フラン・ブールジョワ街 1974 31.5×24.5
石炭屋 1976 24.5×31.5
印刷屋 1980 32.5×25
夏のサン・マルタン運河 25×32.5
スミュール・アン・ノクソワ 1981 32×50.5
一軒屋 1983 32.5×25
フォーブル・サン・タントワーヌ街 25×32.5
セーヌ河 1984 32×50
クール・ラ・レーヌの並木 32.5×25
サン・マルタン運河 1985 ペン、淡彩、木炭 40.5×32

《素描》
作品名 制作年 材質・形状等 寸法(cm)
アルル 1928 鉛筆 24×31.5
クイイ 1931 鉛筆 20.5×27
ジェンマップ河岸 鉛筆、淡彩 20.5×27
俳優、モーリス・ベナール 1933 ペン 32.5×24.5
トロワ、寺院の内部 1950 鉛筆 25×22
トロワの街 25×22
ノートル・ダム寺院、パリ 1956 ペン、淡彩 32×24.5
アトリエの窓 1958 ペン、クレヨン、淡彩 32.5×25
クレリー街 1961 ペン 30.5×21.5
ジュリアン・ラクロワ横町、メニルモンタン 1965 ペン 30.5×21.5
サン・トゥスタッシュ協会 ペン 32×24.5
アトリエの窓 1966 ペン、淡彩 30.5×21.5
カフェ・オー・ロッシュ 1967 30.5×21.5

《タピスリー》
作品名 制作年 寸法(cm)
青い店 1984 158×194
ヴェネツィアの宮殿 186×225

新聞雑誌関係記事
新聞記事
朝日/10月20日(夕)(米倉 守)、1989年2月14日、3月11日(吉村良夫)
読売/2月4日
新美術新聞/10月21日 第517号
毎日(マイキョート)’89年2月15日(上倉庸敬)
中日/’89年2月22日
日経/11月3日(瀧 悌三)
朝日メイト/’89年2月1日(田渕公平)、’89年3月1日(永井隆則)

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