展覧会カンディンスキー展
カンディンスキー展
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ワシリー・カンディンスキー(1866~1944)はモスクワに生まれ、はじめ法律を学んだが、1896年画家を志した。当初は具象絵画を描き、フォーブィスムや表現主義的作風を経て、1910年代のはじめに自然の再現を放棄した抽象絵画を描き、1912年に自著『芸術における精神的なもの』で抽象絵画の美学的原理を説いて、20世紀抽象絵画の偉大な先駆者のひとりとなった。本展はこうしたカンディンスキーの芸術の全貌を紹介しようとするものであった。
19世紀の末以来、印象派の画家たちは世界を純粋な色彩世界として把握しようとし、フォーヴの画家たちは対象の持つ固有色を無視して芸術的要請に従って自由に彩色する道を開いていた。また、キュビストたちは画面におけるイリュージョナルな三次元空間の再現を放棄していた。こうした流れの先に抽象絵画への方向は予測されていたかに見えるとしても、「対象を描かないとすれば、一体何が対象に取って代わるべきか?」という問に答えることは容易なことではない。カンディンスキーはこれを「内的必然性」に求めたのだが、それは現象世界から解放された精神の自由に立脚するものであり、同時にその内なる声は人間的な視野をこえて、より大きな宇宙の秩序と響きあうべきものであった。いいかえれば、形態と色彩という手段を用いて、絵画を音楽と並ぶ純粋な感性の芸術たらしめようというのが彼の芸術的目標であり、それは純粋に感覚的な受容を通じて観る者の精神を奥深く揺り動かすはずのものであった。これは、同じく抽象絵画の祖とされるモンドリアンのように、対象の抽象化を通して垂直線と水平線に構成原理を求める論理的方法とも別の道であった。
カンディンスキーは最初の抽象絵画を生み出した後も、生涯を通じて抽象絵画に存在するさまざまな可能性を追求しつづけ、決してある特定の造形表現にのみ固執しなかった。ミュンヘン時代、ロシア時代、バウハウス時代、パリ時代とその作風は次々と変貌している。カラフルで不定形な形態が沸騰する作品、抑制のきいた幾何学的形態で構成された作品、生物学的な形態が戯れているかのような作品……そこにカンディンスキーの偉大な多様性を見い出すことができる。本展ではこの多様性とその背後に隠された彼の芸術の本質を捉えるべく、純粋に絵画的な形態に即して作品を11のグループに分けて構成された。すなわち、(1)風景、(2)青騎士、(3)舟、(4)スポット、(5)小さな喜び、(6)縁どりあるいは楕円、(7)浮遊あるいはコーナー、(8)幾何学、(9)白と黒、(10)装飾、(11)総合である。
本展にはカンディンスキー協会の援助を得て、彼の作品の三大コレクションであるパリのポンピドウ・センター、レンバッハハウス・ミュンヘン市立美術館およびニューヨークのグッゲンハイム美術館をはじめ内外の美術館、個人コレクターから借用した約100点が出品された。
本展はわが国におけるはじめての大規模なカンディンスキー展として各方面から注目され、特に若い世代における抽象美術への関心の高まりを再確認させるものとなった。
- 会期
- 8月18日(火)~10月4日(日)
- 入場者数
- 総数 81,256人(一日平均 1,935人)
- 共催
- 日本経済新聞社
- 出品目録
作品名 | 制作年 | 材質・形状 | 寸法(cm) |
---|---|---|---|
<アクテュルカ-秋>のためのスケッチ | 1901 | 油彩・カンバスボード | 23.7×32.7 |
水門 | 1902 | 油彩・麻布 | 79×51.5 |
コッヒェル湖 | 〃 | 〃 | 28.6×43.5 |
バイエルンのアルプス風景 | 〃 | 〃 | 28.6×43.5 |
森のはずれ | c.1903 | 油彩・カンバスボード | 24×32.9 |
ドレスデン近郊の唐黍畑 | 1905 | 〃 | 23×35 |
サン・クルー公園-陽かげの小径 | 1906 | 油彩・麻布 | 48×65 |
ムルナウ風景-グリースブロイ館の窓から見たヨハニス通り | 1908 | 油彩・カルトン | 49.8×69.6 |
家並みのある絵 | 1909 | 油彩・麻布 | 98×133 |
教会のあるムルナウ風景2 | 1910 | 〃 | 96.5×105.5 |
第1回ファーランクス展のポスター | 1901 | 多色石版画 | 47.3×60.3 |
わかれ | 1903 | 多色木版画 | 30.2×29.6 |
<日曜日(古きロシア)>のためのスケッチ | 1904 | 油彩・麻布 | 38.5×89 |
夕暮 | 〃 | グワッシュ、紙 | 31.7×47 |
〔青騎士〕年鑑の表紙デザイン | 1911 | 水彩・鉛筆、紙 | 27.7×21.8 |
〔青騎士〕年鑑の表紙デザイン最終画稿 | 〃 | 水彩・インク・鉛筆、紙 | 27.9×21.9 |
印象4(衛兵) | 〃 | 油彩・麻布 | 95×107 |
即興11 | 1910 | 〃 | 97.5×106.5 |
オール(<即興26>のための秀作) | 〃 | 水彩・墨、紙 | 25×32 |
即興26(漕ぐ) | 1912 | 油彩・麻布 | 97×107.5 |
響き | 〃 | 木版・石版(56葉)、詩版画集 | 22.0×22.1(最大) |
印象3(コンサート) | 1911 | 油彩・麻布 | 77.5×100 |
円の中に | 〃 | 水彩・グワッシュ・墨、紙 | 48.9×48.5 |
黒い色斑1 | 1912 | 油彩・麻布 | 100×130 |
赤い色斑のある絵 | 1914 | 〃 | 130×130 |
三つの色斑のある絵 | 〃 | 〃 | 120×111 |
即興21a | 1911 | 〃 | 96×105 |
<小さな喜び>のための習作 | 1913 | 水彩・墨、紙 | 23.8×31.5 |
<小さな喜び>のためのデッサン | 〃 | 墨、紙 | 35.5×30.6 |
小さな喜び | 〃 | 油彩・麻布 | 109.8×119.7 |
<モスクワ1>のための習作 | [1916] | 鉛筆・色鉛筆、画帖 | 26.3×18 |
のためのデッサン | [〃] | 鉛筆、紙 | 27.1×20.7 |
モスクワ1 | 1916 | 油彩・麻布 | 51.5×49.5 |
明るい地の上に | 〃 | 〃 | 100×78 |
<灰色の楕円>のための習作 | [1917] | 水彩、紙 | 27.5×38 |
素描 | 1918 | 墨、紙 | 34×25.5 |
作品名 | 制作年 | 材質・形状 | 寸法(cm) |
---|---|---|---|
赤い縁どり | 1919 | 油彩・麻布 | 92×70 |
白い楕円 | 〃 | 〃 | 80×93 |
プロムナード | 1920 | 水彩、紙 | 32.2×25 |
<緑色の縁どり>のための習作 | 〃 | 水彩・墨、紙 | 26.9×36.3 |
白い中止 | 1921 | 油彩・麻布 | 118.7×136.5 |
<冷たいかたちのある即興>のための習作 | [c.1913] | 水彩・グワッシュ・鉛筆、紙 | 33×24 |
水彩 | 1915 | 水彩、紙 | 29×23 |
素描 | 〃 | 墨、紙 | 25.4×34.5 |
素描 | 〃 | 〃 | 25.4×34.5 |
素描 | [1916] | 〃 | 25.7×19 |
水彩 | 1918 | 水彩、紙 | 31×21 |
白の上に1 | 1920 | 油彩・麻布 | 95×138 |
尖端 | 〃 | 〃 | 110×91.5 |
水彩 | 1921 | 水彩、紙 | 19.5×25 |
水彩 | 1922 | 水彩・インク、紙 | 26×35 |
黒い格子 | 〃 | 油彩・麻布 | 96×106 |
小さな世界 | 〃 | 版画集(12枚組) | 約36×28 |
黒い円の中に | 1923 | 油彩・麻布 | 130×130 |
白の上に2 | 〃 | 〃 | 105×98 |
水彩 No.48 | 〃 | 水彩、紙 | 36×25.3 |
繊細な緊張 | 〃 | 〃 | 35.5×25 |
統合された三角形 | 1924 | 〃 | 33.5×48.5 |
明るい楕円の中に | 1925 | 油彩・カルトン | 73×59 |
<いくつかの円>の最初の習作 | 1926 | 鉛筆・墨、紙 | 36.6×37.4 |
<いくつかの円>のためのスケッチ | 〃 | 油彩・紙(麻布に貼付) | 70×70 |
ばら色のアクセント | 〃 | 油彩・麻布 | 100.5×80.5 |
網の中の赤 | 1927 | 油彩、カルトン | 62×49 |
重いと軽い | 1930 | 〃 | 70×60 |
はためき | 1931 | 混合技法、麻布 | 49×70 |
固定された飛翔 | 1932 | 油彩、カルトン | 49×70 |
下部構造 | 1933 | 水彩、紙 | 54.5×39 |
模造石閣下 | 〃 | 〃 | 30×31 |
素描 | 1923 | インク、紙 | 38.8×31.7 |
『点・線から面へ』の表紙デザイン | 1925 | 墨・グワッシュ、紙 | 25.6×18.5 |
素描No.1(9個の上昇する点) | 〃 | 墨・薄墨、紙 | 32.2×21.3 |
素描 | 1927 | 墨、紙 | 39.3×30.7 |
<黒の上の白>のためのデッサン | 1930 | 鉛筆・墨、紙 | 27.3×22.1 |
黒の上の白 | 〃 | 油彩、カルトン | 70×70 |
素描 No.8 | 1932 | 墨、紙 | 23×29 |
素描 No.13 | 1933 | 〃 | 38.9×30.9 |
白の上の黒いかたち | 1934 | 油彩、麻布 | 70×70 |
30 | 1937 | 〃 | 81×100 |
<キャンベル氏の壁画No.4>のための習作 | 1914 | 油彩、カルトン | 65×50 |
水彩(「天井」) | 1916 | 水彩、紙 | 29×23 |
アブリコゾフ家の三連画のためのデッサン | [1916] | 鉛筆、画帖 | 18×26.3 |
無鑑査展(ベルリン、1922年)の壁画のためのマケット | 1922 | グワッシュ、紙 | |
壁画B | 〃 | 〃 | 34.7×60 |
壁画A | 〃 | 〃 | 34.7×60 |
壁画C | 〃 | 〃 | 34.7×60 |
壁画D | 〃 | 〃 | 34.9×60 |
4つのコーナーの壁画 | 〃 | 〃 | 34.8×57.8 |
ムソルグスキー作曲「展覧会の絵」の舞台セットのデザイン | 1930 | 墨・テンペラ・水彩、手漉紙 | |
第2場:こびと | 〃 | 〃 | 38×57 |
第4場:古城 | 〃 | 〃 | 40.6×54 |
第7場:ビードロ(牛車) | 〃 | 〃 | 39.2×51 |
第12場:リモージュの市場 | 〃 | 〃 | 39.6×57 |
第12場のための衣装デザイン(市場の娘) | 〃 | 〃 | 37×29 |
第13場:カタコンベ | 〃 | 〃 | 39×2.56 |
第15場:ババ・ヤガの小屋 | 〃 | 〃 | 39×56.5 |
第16場:キエフの大門 | 〃 | 〃 | 39×57 |
第16場のための衣装デザイン | 〃 | 〃 | 33×50 |
ドイツ建築展(ベルリン、1931年)における音楽室のための陶壁画マケット | 1931 | 油彩、カルトン | |
左壁 | 〃 | 〃 | 45.5×75 |
中央壁 | 〃 | 〃 | 45×100 |
右壁 | 〃 | 〃 | 45.5×75 |
分割=統一 | 1934 | 混合技法、麻布 | 70×70 |
連続 | 1935 | 油彩、麻布 | 78.7×99 |
コンポジションIX | 1936 | 〃 | 113.5×195 |
主調曲線 | 〃 | 〃 | 130×195 |
活気ある安定 | 1937 | 混合技法、麻布 | 116×89 |
複雑=単純 | 1939 | 油彩、麻布 | 100×81 |
全体 | 1940 | 〃 | 81×116 |
空の青 | 〃 | 〃 | 100×73 |
<円の周辺に>のためのスケッチ | 〃 | 油彩、板 | 40×60 |
さまざまな動き | 1941 | 油彩・エナメル塗料、麻布 | 89×116 |
素描 No.5 | 〃 | インク、紙 | 28×18.7 |
素描 No.24 | 〃 | 〃 | 18.6×27.9 |
<網>のためのデッサン | 〃 | 〃 | 18.6×27.9 |
素描 | 1942 | 〃 | 20.1×27 |
相互の対応 | 〃 | 油彩・エナメル塗料、麻布 | 114×146 |
円と正方形 | 1943 | 油彩・テンペラ、カルトン | 42×58 |
薄明 | 〃 | 油彩・板 | 57.6×41.8 |
穏やかな飛躍 | 1944 | 油彩、カルトン | 42×58 |
- 新聞雑誌関係記事
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新聞記事
日経/4月3日、5月16日、5月18日~23日(阿部良)、5月28日、5月30日、6月13日、6月16日(山脇道子)、6月28日、7月18日、7月20日、7月21日、8月2日、8月12日(夕)(土肥美夫)、8月14日、8月19日~26日(夕)、8月22日、9月4日(夕)(木村重信)
毎日/6月12日(夕)
朝日/3月22日、6月17日(夕)(米倉守)、8月18日(夕)
読売/8月8日、9月1日、10月19日(夕)
サンケイ/8月8日
京都/9月5日、9月24日(夕)(中村義一)
デイリー・ヨミウリ(英字)/6月11日
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