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コレクション展

2021年度 第3回コレクション展

2021.09.02 thu. - 11.07 sun.

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西洋近代美術作品選

 当館所蔵・寄託の西洋近代美術の優品を紹介するコーナーです。今回は、様々な船が停泊する水辺の風景をご覧いただきます。
 ウジェーヌ・ブーダンは、近代化に伴い漁師町から都会の人々の避暑地へと変貌を遂げた海辺の風景を描いて、海景画における新たな分野を開拓しただけではなく、海や空の変化する光を捉えるために戸外での制作を基本とし、その自然描写がモネなど印象派の画家たちに大きな影響を与えました。本作品は、1870-71年に普仏戦争を避けて滞在していたベルギーで制作されました。アントウェルペンを流れるスヘルデ川(仏名:エスコ―川)河口を主題とした本作品では、後景に煙を上げる工場と大きな帆船が、前景には小舟とひとりの漁師が対比的に配置され、地平線を低く置いた画面上部には空が広がっています。さりげない新旧風景の対比や今にも動き出しそうな雲の瞬間的描写など、ブーダンの芸術的独自性がよく表れた佳品です。
 アルフレッド・シスレーは、「真の印象主義者」と称されるほどに、生涯にわたって身近な自然の風景を、その光や空気の変化をありのままに描きとめることに腐心した画家です。その作品のほとんどはキャンヴァスに直接描かれており、アトリエで変更を加えることはなかったと言われています。パリから約18キロ離れたセーヌ左岸に位置するブージヴァルの川べりを描いた本作品は、緩くカーブを描く川・小道・木立が画面奥へと視線を誘うシスレー独特の構図を持ち、画面ほぼ中央に描かれた二隻の小舟が、後景のブージヴァルの町と前景の自然とを繋いでいます。空に広がる雲や光を映す水面には、薄いバラ色や藤色が配され、温かで穏やかな自然の息吹を見るものに伝えてくれます。本作品は、同構図で左右を拡張した《ブージヴァルのセーヌ川》(1873年、デンバー美術館蔵)の習作ないしは関連作品と考えられます。
 ポール・シニャックは、ジョルジュ・スーラとともに光を科学的な理論に基づいた分割点描手法によって表現しようとする新印象主義を主導した画家として知られています。しかし印象主義よりも一層明るい光の表現を求めたシニャックは、当初の細かな点描から、より大きなタッチを採用します。そうすることで、タッチとタッチの間には微妙な白い隙間が生じ、隣り合う色が混ざることなく、画面は透明な明るさとモザイクのような装飾性を持つようになりました。シニャックが好んで滞在した南フランスの港町サン=トロペを描いた本作品には、地中海の乾いた光が満ち溢れています。とりわけ目を引くのが、太陽を受けてオレンジに輝くヨットの帆とそれを受け止める海の青さです。厳格な新印象主義から脱却し、フォーヴィスムの鮮烈な色彩へと至る道を開いたシニャックの業績がよくわかる作品だと言えるでしょう。
 アルベール・マルケは、マティスたちとともにフォーヴィスムを代表する画家のひとりと位置付けられていますが、鮮烈な色彩表現というよりも、中間色の柔らかな色調の詩情あふれる風景表現で有名です。本作品に描かれた北アフリカのアルジェの港の風景は、マルケが最も好んだ画題のひとつです。1940年に戦争を避けてパリからアルジェに移ったマルケ夫妻は、1941年まで町中を見下ろせるアパルトマンに滞在しました。マルケの多くの作品同様に俯瞰的視点を持つ本作品では、前景に税関の建物と小さな漁船が描かれ、明快な対角線構図によって大型クルーズ船が停泊するアルジェ湾とその空の広がりが表現されています。そしてマルケ特有の灰色のかかった薄い半透明の青緑を用いた海と空の色が、風が凪いだ港のけだるい空気を伝えています。


明治・大正時代の日本画 川端玉章《玉川鵜飼図》

 明治維新により京都の画家は大きな苦境に立たされました。首都機能や皇室の拠点が東京へと移ったため、京都の経済を支えた人たちも東京へと移ってしまい、日本画の注文は激減しました。当時は日本の工芸品に世界からの注目が集まっていたこともあり、画家たちは工芸品の図案に新たな制作の場を見出し、浅井忠のように図案の発展に精力を注いだ者もいました。ただし、文人画はこの限りではなく、明治政府の官僚や知識人たちが漢学の素養を持っており、文人画を好んだため、新しい時代になっても幕末からの人気が続きました。明治前期の日本画は、江戸時代から受け継がれた画題や作風のものが多く、後期になると西洋画を咀嚼した新たな表現が見られるようになります。
 一方で東京では、フェノロサや岡倉天心らを中心に近代化が進み、明治22年(1889)には東京美術学校が開校し、横山大観や下村観山、菱田春草らを輩出しました。彼らは、明治31年(1898)に天心が東京美術学校を辞職し、日本美術院を設立した際に行動を共にし、日本画の革新を目指しました。この頃の大観や春草らの技法は朦朧体と揶揄されましたが、これは湿潤な大気や光を表現するために、線を用いず空刷毛を使ってグラデーションを生み出す技法でした。
 大正時代になると、資本主義経済の発展によって実業家などの富裕層が登場し、画家たちの新たなパトロンとなりました。また、大正デモクラシーのような民衆運動も起こり、画家たちも個性を尊重した自由な表現を求めました。


見出された時間:写真コレクションより ヴェルナー・ビショフ《境内の神官たち、明治神宮》1952年

 19世紀前半、イギリスの科学者ウィリアム・ヘンリー・フォックス・トルボットは、イタリアのコモ湖畔を訪れた際、カメラ・ルシダを使って美しい風景をスケッチしようとしたものの満足できず、投影画像を紙面に刻み付ける方法を求めて、カロタイプという写真術を発明するに至ります。ヨーロッパで発明された写真術は記録・表現メディアとして、社会や日常生活へと急速に浸透していきました。たとえドローイングの心得のない者でも、心をゆさぶる風景や珍しい事物、親しい家族や友人の姿、あるいは運動や時間といった不可視のものを記録する手段を手に入れたのです。「見出された時間」とはフランスの小説家マルセル・プルーストの代表作『失われた時を求めて』の一節ですが、写真を観る行為によって過去の時間を再訪し、他者の記憶を共有する、あるいは自身の内なる別の記憶を呼び覚ますきっかけとなることもあるでしょう。
 当館の写真作品の収集活動は、1986年京セラ株式会社から寄贈された1050点に及ぶ「ギルバート・コレクション」から出発しました。これは1960年代末から80年代にかけて、米国シカゴ在住のアーノルド&テミー・ギルバート夫妻が収集した写真コレクションです。
 このコレクションの特徴は、写真史を通史的にたどる内容であることと、ギルバート氏とアメリカ近代写真を代表するレジェンドたちとの直接の交流をしめす、稀少なオリジナル・プリントが数多く含まれていることです。今回の展示では、当館の写真コレクションから、黎明期の写真作品と主に風景を撮影した写真を中心にご覧いただきます。


明治の工芸 迎田秋悦《山海四季蒔絵重箱》明治後期-昭和前期 作者不詳《北極熊図壁掛》明治時代

 明治の工芸は近年、「超絶技巧」というキャッチコピーで語られ、急激に人気が高まっています。確かにそれらの作品は緻密で細密な装飾性、実物そっくりの迫真性を有しており、工人たちの感性と技量には驚かざるを得ません。しかし明治工芸は長年、美術史においてほとんど顧みられることがなかったものです。その主な理由としては、それらの多くが万国博覧会や美術商を通じた海外向けの輸出品であり、優品が国内にそれほど残っていなかったこと、そのために装飾過剰で技巧主義的で、本来の日本的な美観や特性を有していないなどの先入観を払拭できなかったことなどが挙げられます。しかし、近代美術史の研究が進むにつれて、海外からの作品の買戻しが進み、第一級の作品を目にする機会が増えたことで、それまで否定される大きな理由であった過剰な装飾性や技巧性が実は前代からの技術体系の継続性を持つものであること、そして海外からどん欲に情報を収集するとともに、最新技術、様式を吸収し、作者自らの意図の下で改良していったものであることなどが明らかになってきました。そもそも明治工芸は、明治維新により幕藩体制が崩壊したことで、それまでの藩の保護がなくなり、自身が身につけた技巧を新しい時代に即して活用していく必要に迫られたことから始まります。そして工人たちは技巧それ自体を視覚的に作品化していくという明治工芸における一つのスタイルを確立していくのです。そのために現在、明治工芸は前近代と近代とをつなぐ重要な存在として美術史に位置づけなおされています。


川勝コレクション 河井寛次郎作品選 河井寬次郎《辰砂菱花文鉢(辰砂抜絵鉢)》1941年

 川勝コレクションは、昭和12年(1937)のパリ万国博覧会グランプリ作品を含む、質、量ともに最も充実した河井寬次郎作品のパブリック・コレクションです。
 川勝コレクションが当館に寄贈されたのは、昭和43年(1968)のことです。当館への寄贈にあたっては、部屋一面に並べられた膨大な作品群の中から「お好みのものを何点でも」との川勝の申し出に従って415点が選ばれました。それ以前にすでに寄贈されていた3点と、初期作品が不足しているとのことで後に追加となった7点を加えて、計425点に上ります。このコレクションは、中国陶磁を手本とした初期から、民藝運動に参画後の最晩年にいたるまでの河井の代表的な作品を網羅しており、その仕事の全貌を物語る「年代作品字引」となっています。
 コレクションを形成した故・川勝堅一氏は、髙島屋東京支店の宣伝部長、髙島屋の総支配人、横浜髙島屋専務取締役などを務め、また、商工省工芸審査委員を歴任するなど、工芸デザイン育成にも尽力しました。
 河井と川勝の長年にわたる交友は、大正10年(1921)に髙島屋で開催した河井の第1回創作陶磁展の打ち合わせのために上京した河井を川勝が駅まで迎えに行ったことに始まります。そこでたちまち意気投合したことで、川勝は河井作品の蒐集を始めます。コレクションについて川勝は「これは、川勝だけの好きこのみだけでもなく、時として、河井自らが川勝コレクションのために作り、また、選んだものも数多いのである」と回想し、さらに「河井・川勝二人の友情の結晶」だとも述べています。


明治の光景 山田馬介《陽だまり》明治後期頃

 当館3階の企画展示室では9月7日から10月31日まで「発見された日本の風景」と題する展覧会を開催します。これは、英国をはじめ西洋諸国から明治の日本に旅行した画家たちが、当時の日本の風景や風俗を描いた作品を、同時代の日本人画家たちが同じように描いた作品とともにご覧いただき、いわば明治の絵画を通して当時の日本を旅していただこうという企画です。全て一人の美術コレクターが英国をはじめ海外で発見し、収集なさった作品ばかりであり、日本では初公開となる作品が大部分であるという点も見どころとなっています。
 その開催を記念し、ここではそれに関連する展示として、当館コレクションから同時期の作品を特集します。
 ここに展示した作品の作者たちのうち、吉田博や大下藤次郎、渡辺豊州については、企画展の方でも多くの作品をご覧いただきますが、伊藤快彦や加藤源之助、長谷川良雄、田中善之助、霜鳥之彦については、企画展の方には作品がなく、こちらの展示にのみ登場します。伊藤も加藤も長谷川も田中も京都出身の画家たちで、霜鳥も東京出身ながら京都で活動した画家ですから、彼らの作品があるという点に当館コレクションの特色が表れているといえます。
 ご注目いただきたいのは、晩期5年間を京都で過ごして京都の近代美術・工芸に多大の影響を与えた浅井忠の油彩画《御宿海岸》です。古くから画集には掲載され、存在のみ知られながらも永らく行方不明になっていた名作です。当館への新収蔵を記念し、いち早くご覧いただきます。


版画にみる四都(京・阪・神・東)の風景  一川西 英を中心に一 川西英《滞船》1960年

 3階の企画展「発見された日本の風景」にちなみ、当館が所蔵する風景をモティーフとした版画作品をご紹介いたします。企画展では明治の日本ですが、ここでは、大正・昭和の日本、なかでも、当館地元の京阪神と、東京をモティーフとした作品を集めてみました。
 京都と大阪をモティーフとしたコーナーで作品を紹介している石版画家の織田一磨(1882~1956)は、山本鼎、戸張孤雁、寺崎武男と共に、「自画・自刻・自摺」を標榜した日本創作版画協会を設立した発起人の1人でもありました。そして同協会に大正11(1922)年から出品していた(初入選は翌年)のが、神戸風景やサーカスをモティーフとした版画で知られる川西英(1894~1965)です。川西英は独学で木版画を学びましたが、同協会に参加することで、地元・関西学院出身の木版画家である北村今三(1900~1946)、春村ただを(1901~1977)と出会い、昭和4(1929)年三紅会という神戸育ちの版画家による会を結成、展覧会を主催して意欲作を次々に発表、その名を広めました。当館では、川西英が収集した約1,000点の作品・資料群を「川西英コレクション」として所蔵していますが、今特集に展示されている北村、春村、川上澄生作品は、同コレクションに含まれるものです。なお、大阪をモティーフとしたコーナーで作品を紹介している川西祐三郎(1923~2014)は、川西英の三男で、関西学院を卒業、北村、春村の後輩でもあります。我々にとって近しい時代・場所の風景版画で、懐かしい思い出をよみがえらせるとともに、それぞれの作家の関係にも思いを巡らせながらお楽しみいただければ幸いです。


会期 2021年9月2日(木)~11月7日(日)

テーマ 西洋近代美術作品選
明治・大正時代の日本画
見出された時間:写真コレクションより
明治の工芸
川勝コレクション 河井寛次郎作品選
明治の光景
版画にみる四都(京・阪・神・東)の風景  一川西 英を中心に一
常設屋外彫刻

展示リスト 2021年度 第3回コレクション展(計261点)(PDF 510KB)

音声ガイド 音声ガイドアプリご利用方法(PDF形式)

開館時間 午前9時30分~午後5時
*ただし金、土曜日は午後8時まで開館
*いずれも入館は閉館の30分前まで
*新型コロナウィルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があります。来館前に最新情報をご確認ください。

観覧料 一般 :430円(220円)
大学生:130円(70円)
高校生、18歳未満、65歳以上:無料
*( )内は20名以上の団体
国立美術館キャンパスメンバーズは、学生証または職員証の提示により、無料でご観覧いただけます。

コレクション展無料観覧日 2021年9月4日(土)、11月3日(水)、11月6日(土)
*都合により変更する場合がございます。

展示リスト 2021年度 第3回コレクション展(計261点)(PDF 510KB)

音声ガイド 音声ガイドアプリご利用方法(PDF形式)

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