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コレクション展

2022年度 第1回コレクション展

2022.03.18 fri. - 05.15 sun.

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合わせ鏡の対話/不在の間――森村泰昌とドミニク・ゴンザレス=フォルステル 森村泰昌《だぶらかし(マルセル)》1988年

 現在、個展「森村泰昌:ワタシの迷宮劇場」が開催され、当館とも関わりの深い現代美術家・森村泰昌。1980年代から大阪を拠点に活躍する森村は、自らの身体を使って西洋名画や著名人に扮したセルフポートレイト写真のシリーズで知られます。性差と人種を問わず変幻自在に、ユーモアをまじえて演じきる数々の作品は、国内外で高い評価と圧倒的な人気を得てきました。京都国立近代美術館では1990年「移行するイメージ: 1980年代の映像表現」展、1998年の個展「森村泰昌:空装美術館」、2018年「ゴッホ:巡りゆく日本の夢」展の関連展示、そしてコレクション展を通じて、これまで折に触れてその作品を紹介してきました。
 一方、ドミニク・ゴンザレス=フォルステルはフランス・ストラスブール出身で、1990年代から文学や映画、建築、歴史などから着想したインスタレーションやヴィデオ作品を発表し、2002年にマルセル・デュシャン賞を受賞。近年は小説や映画の登場人物に扮装し、テキストと音楽を用いたレクチャー/パフォーマンスを発表しています。2013年に京都で上演されたレクチャー/パフォーマンスでは映画『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラの姿で登場しましたが、その衣装は森村泰昌がかつて作品制作に使用したもので、森村とゴンザレス=フォルステルの二人の交流はこの衣装の貸し借りから始まりました。
 アイデンティティと変身をめぐる二人の近年の創作活動には共通点が見られます。ゴンザレス=フォルステルの《読書のカーペット》のシリーズについて、森村は「カーペット=作家の身体、積み上げられた書物=作家の精神」と図式化し、「ドミニク流の〈不在のセルフポートレイト〉」と評しています。一方、森村についてゴンザレス=フォルステルは「アイデンティティと存在に絡む問題系を探究する術を世に知らしめた」と賛辞を送っています。ここに展示された作品の中にアーティストは存在するのでしょうか?二人の囁き声がどこかから聴こえてくるかもしれません。


上方と洋画 小出楢重《裸女》1925年

 日本近代美術史は、東京で活動した作家たちを中心に語られることになりがちです。しかし近代の日本は常に東京一極集中の状態にあったわけではありません。むしろ私鉄を中心とする民間のカで街づくりが進んだ大阪は、東京とは違った繁栄を見せ、市域を拡張した大正末期には東京市(のちの東京都)を凌ぐ国内第一の都市となり、「大大阪」と呼ばれたほどでした。複数の私鉄が早くから鉄道網を整備してその商圏は京都や神戸を結び、ついには奈良から伊勢まで広がりました。この広がりは、最先端の科学技術や洒落た洋風の衣食住が古来の芸能や神話のロマンとも混然とするかのような、上方ならではの濃厚な文化を育てたといえそうです。そうした京阪神のモダンな文化は美術にも活きていたことでしょう。
 関西を拠点に洋画(油彩画、水彩画)を描いた画家たちの中でも、特に関西のモダン文化を象徴する作家としてよく挙げられるのは小出楢重です。大阪の商家に生まれ、幼少から伝統文化に親しみながらも、フランス留学を経て、芦屋で洋風の生活を営んだ人ですが、東京の画壇から距離を置き、流行を追わず、西洋美術の古典をも視野に入れ、絵画制作とともに文筆にも優れていた点では、京都の須田国太郎や黒田重太郎と似ています。小出と黒田は鍋井克之や国枝金三とともに大阪で信濃橋洋画研究所を創設した同志でした。親しい美術家同士のクラブやサロンのような和やかな雰囲気の中で多くの画学生を輩出した同研究所が、民間の美術教育機関だったという点にも、「民都」としての京阪神モダン文化圏の性格がよく表れているといってよいでしょう。


エデュケーショナル・スタディズ03 眼で聴き、耳で視る|中村裕太が手さぐる河井寬次郎 河井寬次郎《三色打薬陶彫》1962年

 当館では、「みる」ことを中心としてきた美術鑑賞のあり方を問い直し、「さわる」「きく」などさまざまな感覚を使うことで誰もが作品に親しみ、作品その新たな魅力を発見・共有していく「感覚をひらく」事業を行っています。2020年度からは作家(Artist)、視覚に障害のある方(Blind)、学芸員(Curator)がそれぞれの専門性や感性経験を生かして協働し、所蔵作品をテーマとする新たな鑑賞プログラムを開発する「ABCプロジェクト」に取り組んでいます。
 2年目となる本プロジェクトでは、河井寬次郎(1890-1966)が晩年に制作した《三色打薬陶彫》(1962年)に焦点を当てます。寬次郎はなぜ人差し指の上に玉を乗せたのでしょうか。この展示では、「暮しが仕事 仕事が暮し」という寬次郎の言葉(『いのちの窓』1948年)を手がかりに、寬次郎の暮しぶりに触れていくことで、その造形感覚を読み解いていきます。
寬次郎は自らがデザインした家具や愛用品に囲まれた空間で、トランジスタラジオを聴いていました。そして、機械製品、仏像、西洋絵画、建築、こどもの詩や薬品などの新聞記事を切り抜き日記に挟むといった暮しを営みながら、日々の仕事を行っていました。また「眼聴耳視」という寬次郎の言葉からは、身近な自然や機械製品のかたちを身体感覚によってとらえ、自身の中で溶け合わせ調和させながら自由な造形を生み出していった姿を想像することができます。
 会場では、寬次郎が切り抜いた新聞記事をはじめ、安原理恵による河井寬次郎記念館の物品を触れて鑑賞した音声、それをもとにした中村裕太の手でふれる造形物を設えます。そうした空間のなかで「さわる」「きく」などの感覚を使って、寬次郎の作品づくりを新たな角度からひも解いていきます。また、寬次郎の仕事をその暮しぶりからひも解いたウェブサイト「ABCコレクション・データベースVol.2 河井寬次郎を眼で聴き、耳で視る」も公開しています。

助成:令和3年度 文化庁 地域と共働した博物館創造活動推進事業
特別協力:河井寬次郎記念館


陶芸の色彩 河井寬次郎《砕苺紅瓶子》1921年頃

 河井寬次郎の作品は、晩年の陶彫に見られる自由なかたちや、伸び伸びとした模様が魅力的であると同時に、友人の柳宗悦がその特性を「色彩」と評したとおり、釉薬の表現に優れていました。今回は、「エデュケーショナル・スタディズ03:目で聴き、耳で視る」を受けて、寬次郎の作品に見られるような、特に釉薬の色の表現を探求した作品に注目します。
 釉薬とは、陶磁器の表面を覆うガラス状の薄い層のことです。釉薬を施すとき、透明釉の場合には、透明釉のみを用いて胎土の色を活かす白磁などのほか、釉下にコバルト顔料や酸化銅などを用いて呈色させる、染付や辰砂などの釉下彩があります。釉薬そのものに色調がある場合として、三彩や、単色釉の緑釉や黄釉、黒釉などが挙げられます。青磁は鉄分を含んだ釉薬で幅広い色調に発色し、釉の中の微小な気泡によって光が乱反射することで、深みのある色が見られます。釉薬には厚みがあるため、ちょうど水の深さに色の濃淡があるように、その反射光によって目に見える色合いは変化します。さらに、貫入と呼ばれる釉薬のヒビや、結晶化、流動性による焼成時や冷却時の変化は、鑑賞の対象とされてきました。釉薬の表面に絵付をして再度焼成する場合には、上絵付の顔料の色が表面の色となります。
 河井寬次郎は、東京高等工業学校(現在の東京工業大学)を卒業すると、1914(大正3)年に京都市立陶磁器試験場に技手として入所し、釉薬の研究に取り組んでいます。近代的な窯業技術を体系的に学んだ陶芸家としては、河井は最初の世代と言えるでしょう。京都市立陶磁器試験場は、1896(明治29)年に創立された国内初の地方自治体による陶磁器試験機関であり、1920(大正9)年には国立に移管されています。ここでは専門的な知見を公開して、地域の作家たちの依頼試験や試作に応えたことに加え、初代宇野宗甕などが伝習生として学び、1911(明治44)年からは京都市立陶磁器試験場附属伝習所を設けて、河合榮之助や八木一艸、楠部禰式、また清水卯ーなどが在籍しました。
 作家たちは、釉薬の研究を通じて色彩表現への関心を深め、それをひとつの制作のアプローチとしながら、独自の表現を生み出してゆきました。


近代工芸にみる文房具 神坂雪佳《花山院好桐色紙短冊箱》大正後期

 文房具という言葉の起源は南北朝時代の中国に求められるようです。当時、中国の文人が読書や読み書きなどをする書斎を「文房」と呼んでおり、文房で愛で用いる道具を「文房具」と称しました。当初は読み書きに用いる道具以外にも書画、陶器などの美術品、琴などの楽器なども含んでいたようですが、宋時代以降は、特に硯、筆、墨、紙の四品のことを「文房四宝」や「四友」と呼び、これらが文房具の中心となりました。現在では、かつての中国の文人や日本近代に活躍した文人の系譜はほぼ絶えており、また、筆で文字を書く機会も格段に減っています。その意味では、硯、筆、墨、紙を中心とした文房具は今日の生活様式からは大きく隔たっています。しかし、かつても文房具は実用以上に鑑賞用具としての意味合いが強かったといわれますが、近代工芸における文房具は、まさに意匠や形状に作者の創意が窺える「鑑賞」も含めた実用品です。
 赤塚自得の《桜蒔絵料紙硯箱》は蓋裏に菊の御紋が入っていることから皇室への献上品だと考えられますが、全面に薄い銀板を貼りつけ、その上から蒔絵を施すことで非常に堅牢な質感の作品です。迎田秋悦や二十代堆朱楊成の作品は、精緻な蒔絵や堆朱の技術によるもので、竹内碧外の硯箱は異なる木材を組み合わせることで意匠的な華やかさが感じられます。松喰鶴が優雅に飛翔する神坂雪佳の作品には気品があふれ、一方の清水南山の作品は腕相撲という特異なモチーフが余白を活かした構図にまとめられたことで神事を思わせる精神性を醸し出しています。また、河井寛次郎は一時期、陶硯制作に熱中し、それだけで個展を開催したこともありますが、河井の陶硯における多様な釉薬や技法、形態は、実用性と創作性が作る喜びにおいて見事に融合しています。


西洋近代美術作品選

 当館所蔵・寄託の西洋近代美術の優品を紹介するコーナーです。今回は花瓶やコップにいけられた花の表現を集めました。
 西洋美術史において花の静物画が絵画の一分野として独立した地位を獲得するのは、16世紀末から17世紀にかけてのことです。教会内の芸術を否定したプロテスタントの台頭に伴い、教会に代わって芸術支援の新たな担い手となったのは裕福な市民たちでした。日常的な主題を好む彼らの嗜好は静物画の隆盛を促し、その親しみやすい美しさから花は主要なモティーフとなります。ただし、咲けば散る花の在り方ゆえに、それは「生のはかなさ(ヴァニタス)」と呼ばれる教訓的な「寓意画」としても機能していました。しかし19世紀半ばになると、クールベに代表される写実主義の出現と市民階級のさらなる拡がりによって、より身近な対象を描いた静物画や風景画が人気を博し、花の静物画から寓意性は消えていくことになります。さらに絵画の構造そのものに関心を抱く近代の画家にとって描く対象を自らの意志に応じて自由に組み替えることができる静物画は、対象に従属しない純粋な色や形を追求する絵画表現の実験場として格好のテーマともなりました。
 「花の静物画家」として人気を博したファンタン=ラトゥールの作品では、写実的に描かれたカーネーションの花が暗色の背景に浮かび上がる一方、花瓶は背景に溶け込んでしまいその輪郭は曖昧です。光を帯びた花瓶の脚だけが花の輝きに呼応する様は、画面に艶やかな装飾性とは裏腹な緊張感を与えています。甘美で豊満な女性像で知られるルノワールも、数多くの花の静物画を描いています。本作品には勢いのある筆致で画面一杯に満開の薔薇の花束が描かれていますが、その力強い生命力は彼の描く裸婦に通じるものです。事実ルノワールは、花を描くことで得た色彩の試みの成果を人物画に応用すると語っています。
 花を描くことが色彩と形態に関する新たな試みの場であったことは、フォーヴ(野獣派)の中心的画家のひとりで、佐伯祐三や里見勝蔵に影響を与えたヴラマンクの作品にも顕著に認められます。いずれも素朴な味わいの花瓶に生けられた花々が、勢いのある素早い筆致で描かれた作品ですが、背景には何も描かれず、ただ花と花瓶の描写に用いられた色が様々な階調で拡がっています。そのようなヴラマンクの花の絵は、「荒々しいマティエールが、奇跡的な色調の魅惑に包まれている。」と高く評価されました。
 ヴラマンクは、自らの家の敷地内に咲いた野花をいけて数多くの花の絵を制作しましたが、同様に野草を主要なモティーフとしていたのが、パリで活躍した長谷川潔です。静謐で象徴性に富んだマニエール・ノワール作品で名高い長谷川ですが、版画制作と並行して、生涯油彩画も手がけていました。ここでも背景には、テーブルなどの端を示唆する水平線が描かれてはいるものの、花々と同じ色を含む微妙な色調が拡がっているのみです。しかしそれによって、透明感ある明るい色彩で描かれたボルビイリス(朝顔の一種)などの花々と枝葉が示す厳密な対角線構図と正面性が強調され、本作品が近代的な色と形態の実験を目指しつつも、17世紀オランダの花卉画の伝統をも継承していることが明らかになります。


会期 2022年3月18日(金)~5月15日(日)

テーマ 合わせ鏡の対話/不在の間――森村泰昌とドミニク・ゴンザレス=フォルステル
上方と洋画
エデュケーショナル・スタディズ03 眼で聴き、耳で視る|中村裕太が手さぐる河井寬次郎
陶芸の色彩
近代工芸にみる文房具
西洋近代美術作品選
常設屋外彫刻

展示リスト 2022年度 第1回コレクション展 (計85点)(PDF形式)

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開館時間 午前9時30分~午後5時
*ただし金、土曜日は午後8時まで開館
*いずれも入館は閉館の30分前まで
*新型コロナウィルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があります。来館前に最新情報をご確認ください。

観覧料 一般 :430円(220円)
大学生:130円(70円)
高校生、18歳未満、65歳以上:無料
*( )内は20名以上の団体
国立美術館キャンパスメンバーズは、学生証または職員証の提示により、無料でご観覧いただけます。

コレクション展無料観覧日 3月19日(土)、5月14日(土)
*都合により変更する場合がございます。

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