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コレクション展

2021年度 第2回コレクション展

2021.06.24 thu. - 08.29 sun.

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西洋近代美術作品選 アーシル・ゴーキー《バースデイ・グリーティング》1931年

 当館所蔵•寄託の西洋近代美術の優品を紹介するコーナーです。今回は、2020年度に新たに収蔵した二作品、ソニア・ドローネー=テルクの水彩画《リズム》とアーシル・ゴーキーの素描《バースデイ・グリーティング》を、その関連作品とともにご紹介します。
 ソニア・ドロー ネー=テルクは、1885年に現ウクライナの小村に生まれ、ドイツ西部のカ ールスルーエの美術学校で学んだ後、パリに移りました。当地で、画家ロベール・ドローネーと結婚し、協力して科学者による色彩理論を基に色彩の対比効果に注目した絵画研究を行い、オルフィスム(光・・・動きの統合を目指す非対象絵画)の運動を展開します。その過程で彼らが追求したのは、色のニュアンスや対比と様々なかたちの組み合わせが相互に作用することで豊かな表現が生まれる「Simultane(シミュルタネ:同時性)」という概念でした。暖色と寒色に彩られた大小の円、さまざまな長短の方形、三角形が重層的に配された本作品は、同時性概念をめぐるソニアの試みが明確に表された作例のひとつです。このように、色やかたちといった純粋な造形要素を用いて画面を構成する試みは、当時の前衛的芸術において広く行われていました。ここでは、ソニアと同世代で、同じ頃べルリン・ダダで活動していたハンナ・ヘーヒによる作例を併せて展示しています。
 ソニアは、この「同時性」という概念を、絵画制作のみならず、テキスタイルを中心とした応用芸術分野にまで広げ、ファッション、舞台美術やインテリア・デザイン分野でも活躍しました。2014年にはパリとロンドンで過去最大規模の回顧展が開催され、改めて彼女の仕事の重要性が再評価されています。
 アーシル・ゴーキーは、本名をヴォスダニック・マヌーク・アドヤンといい、1904年にオスマン帝国下のアルメニアに生まれました。オスマン帝国領内でのアルメニア人虐殺時に母を失い、先に渡米していた父を頼って1920年に米国に移住します。ボストンの美術学校に学び、ポスト印象主義やキュビスムからの影響を経て、生命体を思わせる有機的形態をもつ抽象的な独自の作風を開花させました。その過程で、ヨーロッパのモダン・アートを熱心に研究したゴーキーの良き助言者となったのが、ロシア未来派の中心人物で、日本を経てニューヨ ークに亡命したダヴィト・ブルリュークでした。本作品は、そのブルリュークの50歳の誕生日にゴーキーが彼に送ったカ ードです。画面中央にブルリュークの頭文字「B」が描かれ、右側にはブルリュークのポートレ ートと思しき形状が認められます。1927年から1930年代半ばは、ゴーキーのキュビスム的実験の時代と言われますが、本作品ではむしろ後に展開するシュルレアリスム的描線と形態が顕著です。
 私生活での度重なる不幸により、ゴーキーは1948年に44歳の若さで自害しました。しかし、幻視的とも言うべきイメージに彩られた本作品は、ユーモアをも感じさせ、画家同士の温かな交友を示す佳品となっています。


あやしげな絵(前期展示) 西山翠嶂《錦祥女》1921年

 鉛筆一本で描かれた写真のような絵や超絶技巧と称される明治時代の工芸品がそうであるように、細密な描写の美しさやその技量の高さに人は心惹かれるものです。その一方で、あやしい魅力を放つ作品に引き込まれるのもまた事実です。そうした独特な雰囲気を漂わせる作品を紹介する「あやしい絵」展が7月から大阪で開催され、当館からも甲斐庄楠音の作品などを出品しています。本コ ーナーでは、展覧会で取り上げられている作家の作品とともに、一味違った特徴を持つあやしげな作品をご紹介します。
 田村宗立《洋童之図》は、題名から西洋の子どもを描いたものとわかりますが、その姿は「童」という文字から想像する愛らしい子どもという感じではなく、遠くに向けられたまなざしや口元のリアルな描写からは異様な雰囲気を感じさせます。見慣れない洋服のデザインや理解不能なポーズもあやしげな雰囲気に拍車をかけています。宗立は独学で油彩技法を学び、京都の洋画黎明期を支えた重要な画家です。本作は日本画ではありますが、丁寧に陰影を描いており、西洋画法がまだ完全に消化できていない過渡期に描かれたからこそにじみ出る異様さと言えます。
 近藤弘明《霊光》は、手前に描かれた一輪の大きな白い花と一面に広がる赤い花の対比が印象的な作品です。近藤の父と兄は天台宗の僧侶であり、自身も幼少時に僧籍に入っています。そうした経験が反映されているためか、本作も観る者に黄泉の国を想起させます。


いきものの絵(後期展示) 西村五雲《兎》1928年頃

 新型コロナウィルスの影響でおうち時間が増えたことにより、ペットを飼う人が増えたというニュースを目にしました。と同時に、飼育放棄の問題も取り上げられており、心が痛くなりました。古来、いきものは私たちの生活に深く関わってきました。『万葉集』に収載される和歌では、鹿を扱ったものが多いと聞いたことがあります。これは秋に鹿が求愛する姿と、自身の恋心を重ね合わせて詠んだ歌が多いからだそうです。『万葉集』の和歌は画題としても好まれるため、秋草とともに鹿を描いた絵も多くあります。鹿のほかに日本画でよく描かれるいきものに牛がいます。古の人は牛車で荷物を運び、貴族は移動手段として利用しました。また、田んぼを耕して肥料を入れる「田起こし」や表面を平らにする「代掻き」などの農作業でも、牛は活躍しました。今年は牛(丑)年ですが、昔は時刻も十二支で表しており、午前2時から2時半までを「丑三つ時」と言ったり、お昼の12時を「正午」と呼ぶのはこれに由来します。このようにいきものは人々の生活に深く浸透した存在でした。
 京都の画家たちはいきものの絵を多数描いていますが、その制作において、京都市動物園の存在が大きいことはよく知られています。明治36 (1903)年4月に開園したこの動物園には、京都画壇の巨匠として有名な竹内栖鳳も写生のために通っており、門下の士田麦倦や西村五雲、三木翠山にもいきものを描いた絵があります。特に五雲は卓越した筆さばきで、愛らしく生き生きとしたいきものの姿を描き出しています。


長谷川潔の版画 長谷川 潔《アネモネ》1930年

    長谷川潔は1891年に横浜に生まれ、フランスを拠点に活躍した版画家です。20歳頃から黒田清輝にデッサンを、岡田三郎助と藤島武二から油彩画を学び、美術の道を歩み始めるかたわら、文芸同人誌の表紙や挿絵を依頼されたのをきっかけに、木版画や銅版画を制作するようになります。1919年28歳でパリヘ渡り、サロン・ドートンヌやサロンなどパリ画壇で発表を重ね、版画制作にその生涯を捧げました。
 長谷川といえば「マニエール・ノワールの再興」で知られていますが、他にもさまざまな銅版画の技法に取り組みました。銅版画は、直接法(直刻法)と間接法(腐蝕法)の二つの製版に大別されます。直接法とはニードルやビュランと呼ばれる刃物で版面を直接印刻する技法で、ビュラン(エングレーヴィング)、ポワント・セーシュ(ドライポイント)、マニエール・ノワール(メゾチント)などがあります。間接法は描く部分を腐蝕させる技法で、オーフォルト(エッチング)、アクアタント(アクアチント)などがあります。イギリスから来日したバーナード・リーチが白樺派の芸術家たちにエッチングを紹介したことで、1910年代以降の日本では腐食法が普及しましたが、長谷川の創作においては直刻法が大半を占めています。特にビュランでは、刻線の硬質な美しさを際立たせながら、身近な草花を繊細かつ丁寧に表現しています。またビュランよりも自由に手を動かして線を彫ることのできるポワント・セーシュでは、スケッチ感覚の風景画や静物画なども手がけています。今回の展示では、長谷川自身が精選した約180点のコレクションのなかから、初期の木版画や色彩豊かな油彩画を含む、およそ50点を紹介しています。


里見勝蔵と渡仏画家たち 里見勝蔵《女の顔》1976年

 京都生まれの画家、里見勝蔵(1895-1981)は今年で没後40年です。
 その70年近くにも及んだ画業の始まりは大正期のこと。フランスをはじめ西洋から美術の新潮流が続々と流入し、表現のあり方が一変した時代です。多くの美術家たちが西洋へ留学して美術界の新動向に触れ、本場の画技を身に篇けて日本へ凱旋しようとしていましたが、これは容易ではなかったようです。留学中にはできていたことが、帰国後にはできなくなるのです。西洋と日本では風土や文物も違い、人の姿も違うからか、日本で風景を描いても人を描いても、留学中と同じようには描けなくなるという状態に多くの帰国者が悩まされました。里見と同郷の画家である安井曽太郎も、梅原龍三郎も、帰国後にはスランプに陥りました。洋行帰りの画家たちの中には、日本画の手法や材料を油彩画に取り込み、あるいは日本画そのものに取り組み始める者も少なくありませんでしたが、それは恐らくは、自身の生まれ育った文化の中で自分なりの表現を練り直す必要を痛感した結果だったのでしょう。
 そうした中で里見は異色の存在でした。ゴッホに憧れてフランスへ渡った彼は、ヴラマンクと出会い、指導を受けてフォーヴィスムの画家となって以降、その姿勢を終生貫いたからです。もちろん画風の変化はありましたが、根本が揺らぐことはなく、亡くなる直前まで彼は恩師ヴラマンクの教えを守り続けたのです。
 ここでは、里見とその仲間である佐伯祐三を中心に、同時期に渡仏を経験した画家たちの作品を、日本画も含めてご覧いただきます。


会期 2021年6月17日(木)~8月29日(日)
2021年6月24日(木)~8月29日(日)
[前期]
6月24日(木)~7月25日(日)
6月24日(木)~8月1日(日)
[後期]
7月27日(火)~8月29日(日)
8月3日(火)~8月29日(日)

テーマ 西洋近代美術作品選
あやしげな絵(前期展示)
いきものの絵(後期展示)
長谷川潔の版画
里見勝蔵と渡仏画家たち
常設屋外彫刻

展示リスト 2021年度 第2回コレクション展(計131点)(PDF 411KB)
モダンクラフトクロニクル―京都国立近代美術館コレクションより―(PDF 637KB)

音声ガイド 音声ガイドアプリご利用方法(PDF形式)

開館時間 午前9時30分~午後5時
(8月3日(火)から8月22日(日)まで、午前9時30分~午後6時)
*ただし金、土曜日は午後8時まで開館
*いずれも入館は閉館の30分前まで
*新型コロナウィルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があります。来館前に最新情報をご確認ください。

観覧料 一般 :430円(220円)
大学生:130円(70円)
高校生、18歳未満、65歳以上:無料
*( )内は20名以上の団体
国立美術館キャンパスメンバーズは、学生証または職員証の提示により、無料でご観覧いただけます。

コレクション展無料観覧日 2021年6月26日(土)、7月3日(土)
*都合により変更する場合がございます。

展示リスト 2021年度 第2回コレクション展(計131点)(PDF 411KB)
モダンクラフトクロニクル―京都国立近代美術館コレクションより―(PDF 637KB)

音声ガイド 音声ガイドアプリご利用方法(PDF形式)

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