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教育普及・授業サポート 令和3年度 図画工作科・美術科夏季連携講座 実施報告

日時:2021年8月2日(月)13時30分~17時
会場:京都国立近代美術館
参加人数:参加者30名、スタッフ12名
共催:京都市教育委員会、京都市図画工作教育研究会、京都市立中学校教育研究会美術部会
スケジュール:
 13:30  挨拶、オリエンテーション
 14:10  研修の方向づけ
 14:30  展示室にて鑑賞ワークショップ
     (1) テーマ別鑑賞
     (2) 鑑賞授業の構想
 15:40  鑑賞授業の体験
 16:30  まとめ
 17:00  終了


実施報告

 当館では平成24年度から、京都市教育委員会との共催事業として、美術館を活用した鑑賞教育の指導力向上をめざした教員研修会を行っています。昨年度は新型コロナウイルス感染症の影響で実施を見送りましたが、今年度は感染防止対策を講じたうえで2年ぶりに対面で実施しました。当日は京都市内の小中学校の先生方40名あまりが参加し、美術館の空間にどっぷり漬かりながら過ごしていただきました。当日の様子を報告します。

オリエンテーション

 美術館を柔軟に活用するためには、美術館特有のもの・こと・体験について、まずは先生方自身が知ることが大切です。研修の冒頭では、当館の教育普及担当者が「美術館活用のすすめ」と題してレクチャーを行い、美術館では本物の作品とじかに向き合えることや、空間や建築も楽しめること、また作家・作品に関する資料なども資源として活用できることを紹介しました。続いて、当館と市内の中学校が連携した鑑賞活動を示しながら、美術館を活用した授業ができるまでをお話ししました。

夏季連携講座写真1

鑑賞ワークショップ

 ここからは、展示室に移動してグループ別に活動します。4~5名で1グループとなり、研究会所属のマイスター/シニアマイスターの先生がファシリテーターを務めます。
 まずはアイスブレイクも兼ねて、「はじまり」「おめでたいもの」などのテーマに合う作品を各自が選んで発表する「テーマ別鑑賞」を行いました。一つの言葉から広がるイメージは人によって違うこと、同じ作品でも着目する部分が様々であることを学ぶことをねらいとしています。(テーマ別鑑賞について詳細はこちらの動画をご覧ください[YouTubeが開きます])

夏季連携講座写真2 夏季連携講座写真3
「はじまり」「おめでたい」などのテーマがお題として出されました

 続いて、本研修のメインである、作品を用いた鑑賞授業を考える活動に移りました。グループごとに対象学年と活動のねらいを設定し、作品を前にしたときの子どもたちの反応を想像しながら授業を構想していきます。
 10枚のお皿に草花や虫などが1つずつ絵付けされた富本憲吉《染付絵変皿》を選んだグループでは、11枚目を作るとしたらどんな絵柄にしたいかを考える活動を取り入れていました。
 大きな染織作品であるマグダレーナ・アバカノヴィッチ《上衣》を選んだグループは、さまざまな角度から鑑賞したり、意見交換しながら徐々に見方を深めていくという流れを作っていました。
 また今回の会場となった「モダンクラフトクロニクル展」では、同時代の作品や同じ技法による作品がまとまって展示されています。そうした展覧会の特徴をとらえ、一緒に展示されている他の作品と比較しながら、造形的な特徴や表現上の工夫に着目していくための投げかけを考えたグループもありました。

夏季連携講座写真4 夏季連携講座写真5

鑑賞授業体験

 授業の大まかな方向性や主要な問いかけが決まったところで、先生役と生徒役に分かれて他のグループの授業を体験しました。メンバーを変えながら対話を行う「ワールドカフェ」形式を参考に、グループで1人が残って授業を紹介し、残りのメンバーは他グループのところへ旅立ち、子ども役になって鑑賞授業を体験するという方法で行いました。これを2ラウンド行い、最後に自分のグループに戻って各自が体験してきたことや話題になったことなどを共有します。
 指導案が固まる前段階で“まずはやってみる”としたことで、鑑賞者の反応を見ながらその場で軌道修正を加えていけた点が先生方には好評だったようです。実施後のコメントでは「ほかの人と話す中で活動の展開(の可能性)がどんどん増えていった」、「同じ作品でもアプローチの仕方が変わると子どもたちの反応も変わってくるので、どのように見せるかを考えることが大事だと思った」など、現場で実践する際の具体的なイメージをもちながら活動を進められていた先生が多かった印象でした。

まとめ

 最後にふたたび講堂に戻り、ファシリテーターが活動の振り返りや気づきを全体共有した後、京都市教育センター副所長の東良雅人様より閉会のご挨拶をいただきました。
 東良先生からは、鑑賞することも、自分の中に意味や価値をつくりだすという「創造活動」だということ。そして発達段階等を踏まえながら、その時期だからこそ感じ取れる作品を慎重に選び、子どもたちの“引き出し”を豊かにしていくことが重要であるとお話しいただきました。

実施を終えて

 新学習指導要領では“社会に開かれた教育課程”として、これからの社会を生きる子どもたちの学びを学校と社会とが連携して育成していくことが目指されています。美術館としても、今後ますます学校と柔軟な連携関係を作っていくことが必要だと考えています。
 実は今回、定員を超えるお申し込みがありました。感染対策で密集を避けるために残念ながら20名ほどお断りせざるを得なかったのですが、美術館を活用した鑑賞教育への関心の高さの表れではないかなと非常に心強く感じた次第です。
 過去には本研修への参加がきっかけとなり、学年全体を引率して美術館での鑑賞活動を実践された先生もいらっしゃいました。今回参加された先生方も、子どもたちが自分の中に意味や価値をつくりだすための鑑賞教育の実践についてさまざまな種を持ち帰られたと思います。今後の取り組みを通して、ぜひ色とりどりの花を咲かせていただきたいです。

(当館特定研究員 松山沙樹)

講座を振り返って

 2年前の研修は学習指導要領の理解を目的としていましたが、本年度はさらに踏み込み、それを目的に合わせて実際に体験する場を設定しました。
 指導案作成では、作品の中に入り込んで鑑賞したり、比較してすることで1枚の作品をより深く読み取るなど、鑑賞の方法は多様でした。また、近くと遠くで見比べるなど美術館だからこそできる鑑賞など、参加した先生にとって、自身では思いつかない鑑賞のアプローチの発見につながったと思います。
 ワールドカフェ方式での鑑賞授業の体験では、他のグループの鑑賞を体験することで一人ではできない学びもあったかと思われます。授業づくりから実践を通して、自分の授業では絶対扱わないであろう題材も、いざやってみるとできるもの、また授業の幅を広げてくれる教材であることを教えてくれる研修になったと思います。
 研修後の感想からは「思考力を育成できるものだと鑑賞授業にとても可能性を感じている」「学校に戻って同じ内容で校内研修を行う予定だ」、中学校では「自分は絶対扱わないであろう題材を扱うことで新たな発見がたくさんあった」など、小中共に本研修の成果を実感されている声を聞くことができました。
 美術館での研修の魅力は、なんといっても本物を目の前にしてできることです。学校現場では生徒を連れて授業という訳には現実的にハードルが高いですが、先生自身が鑑賞の良さや面白さを実体験されることが、美術の授業でも生かされることは間違いないと思います。GIGA端末機の導入も進み、美術館との連携次第では、高精細画像を提供していただいて学校で鑑賞する、興味を持った生徒が美術館に足を運んで見に行くことにつながることで、生徒が本物の美術作品に触れる機会ができることになると考えます。

(京都市総合教育センター指導主事 桝本徳裕)

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