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教育普及・授業サポート 第21回 子ども美術館鑑賞教室 実施報告

日時:2019年11月16日(土)午前9時~11時30分
会場:京都国立近代美術館
参加人数:小学4年生~6年生 28名、スタッフ 12名
共催:京都市図画工作教育研究会


 今年も、京都市図画工作教育研究会(図工研)との共催で「子ども美術館鑑賞教室」を開催しました。
 美術館で作品と出会う楽しさや、みんなで対話をしながら鑑賞を深める面白さを感じ取ってもらえるよう、毎年、図工研所属の先生を中心に美術館も協働しながら、活動の流れや鑑賞作品について検討を重ねています。

 当日は、はじめに国立美術館のアートカードを用いて自己紹介と「名探偵ゲーム」を行いました。最初は緊張した表情を浮かべていた子どもたちでしたが、ゲームを通して少しずつ発言が増え、グループのみんなとの距離が縮まっていきました。

風景

 美術館でのマナーについて説明を聞いたら、いよいよ展示室でファシリテーターの先生と作品鑑賞を行います。まずは4階コレクション・ギャラリーにて、作品の前で対話をしながらじっくりと鑑賞を深めました。

 鳩の群れが表現された《鳩図四曲屏風》では、よく見ると筆で描いているのではなく刺繍で表されていることに気づき、作品への関心が一気に高まったようでした。また、「どの鳩がいちばん賢そうだろう?」という問いかけに、一羽ずつ鳩の表情やしぐさを真剣に観察して考える姿もありました。

風景

 池田遙邨《朧夜》では、絵の中で起こっている物語について対話が盛り上がっていました。中央に描かれた一匹のキツネが気になったという子が多く、「こっち(私たち)の方を見てるみたい。」「手前の花を見てるのかも。」「ちょっと痩せてるように見えるから、お腹が空いているんだと思う。」と、それぞれが豊かに想像を膨らませていました。

風景

 対話による鑑賞はこの日が初体験という子が多かったようですが、他の人の意見を頷きながら聞いたり、発言を受けてあらためて絵を確認してみたりと、よい雰囲気の中で鑑賞が進んでいたように思います。みんなで見ることで作品の細部に気がつくことや、自分の中での見方がどんどん更新されていくことの面白さを実感する機会になったのではないでしょうか。

風景

 後半は企画展「円山応挙から近代京都画壇へ」に移動し、今度は展示室の中を歩き回りながら、気になった作品を見つけたり、作品どうしを比較したりする「歩きながら鑑賞」を行いました。
 前半の活動を通して、絵の中の色彩や形、描かれ方などに着目するといった鑑賞のポイントが身についてきた子どもたち。ここでは、ファシリテーター無しでも自分たちで興味のある作品に近づいていき、気になったモチーフや表現について積極的に話し始めていた様子が印象的でした。また「この虎は何かを守っているんじゃないか」「崖から落ちそうになって堪えているところだろう」と、絵の中で起きていることについて推理しあったりと、主体的に鑑賞を深めている場面もありました。

風景

 参加した子どもたちからは「同じ動物でも作者によって描き方が違って面白かった」といった感想がありました。作品鑑賞というと、1点の作品についてさまざまな角度から理解を深めていくという方法がイメージされがちかもしれません。ですが美術館では、何らかのテーマや時代性といった”まとまり”によって作品がグルーピングされて並んでいます。つまり作品同士を比較してみたり、「なぜこれらの作品が同じ空間に展示されているのだろう?」と考えてみたりすることも、美術館での作品鑑賞の醍醐味といえるでしょう。子どもたちには、この鑑賞教室で学んだ見方を学校生活のなかでも是非生かしてもらえればと思います。

(当館特定研究員 松山沙樹)

実施を振り返って(京都市図画工作教育研究会より)

 子ども美術館鑑賞教室は今年で第 21 回を迎え、今年も例年通り京都市内の小学生、保護者の皆様からたくさんのご応募をいただき、こうして美術館という特別な、そして身近に本物の作品と触れ合える場所で鑑賞教室を開けることとなりました。まず初めにその機会を設けてくださった京都国立近代美術館の研究員、スタッフの皆様、そして京都市の教員の皆様に感謝申し上げます。
 作品鑑賞のテーマは大きく「立ち止まって鑑賞」「歩いて鑑賞」の2本立てとなっています。「立ち止まって鑑賞」では4階コレクション・ギャラリー内にて、一つの作品にじっくりと向き合いながら子どもたちの感性から表れる言葉や表現を基に鑑賞を進めていきます。
 池田遙邨の《朧夜》は、すっかり日の暮れた田園風景の中を一匹の狐がぽつんと佇み、その眼は何かを訴えるようにこちらの方をじっと見ているという、どこか不思議な雰囲気の漂う作品です。子どもたちは作品をしばらく鑑賞した後、口々にまずこの狐の置かれている環境に目を向け、言葉にします。「民家に明かりが灯っている。人の気配がする。」「きっとあの家には餌があると思う。」「田んぼのあぜ道が途中で途切れているのはなぜ?」「菜の花が一輪だけ咲いている。」そして次第に狐の境遇や考えていることは何だろうと興味が移っていくのが見て取れました。「なぜ一匹なんだろう」「花を見ているような気がする。」「いや、作品を見ている僕たちの方を向いてる気がする。」
 鑑賞の答えは一つではありません。作者は何かしらの意図をもって表現しているにしても、見る側は自分の感性や経験に照らし合わせて、自由に作品を鑑賞し、発言してよい、そんな気楽な雰囲気が、子どもたちの緊張を解き、生き生きと発言する姿へとつながっているようでした。
 「歩いて鑑賞」では、開催中の企画展『円山応挙から近代京都画壇へ』の会場へ足を運び、子どもたちと一緒に順路を回って作品を鑑賞しました。こちらの鑑賞では子どもたちの自由な感性に鑑賞を委ねつつも、円山応挙や近代京都画壇における、素晴らしい絵師達の魅力についても子どもたちに触れてもらいたいという思いで企画を進めて参りました。  順路入口に大きく展示された円山応挙の《松に孔雀図》。「この襖絵の墨は実は何種類も使われているんだよ」と鑑賞のきっかけをつくると、松の葉や幹、孔雀など描かれているものによって墨の使われ方が違うことに子ども自身が気づき、発言する様子が見られました。また木島櫻谷の『山水図』は縦 1.7m、横 5.5m の巨大な屏風絵です。距離を取って絵全体を見れば、まるで実際にその風景の前に立ったかのような感覚に捉われる一方で、作品にかなり近づかないとわからないような、馬にまたがる人の姿や建物の繊細な表現も伺えます。果たしてこの作品はどこに立って見るのが良いのだろう?子どもたちに自分が一番お気に入りの場所に立って作品を見てみようと声をかけると、前の方、後ろの方、左の方と、各々がお気に入りの場所で作品を眺めていたのが面白かったです。
 鑑賞後、ホールに戻ると、スタッフの声掛けもありつつ、みんな自然な雰囲気でアートゲームを楽しんでいました。プログラム開始後のアイスブレイキングでゲームをした際にはどこかぎこちなく緊張した面持ちでしたが、鑑賞後にはすっかり打ち解け仲良く遊んでいる姿を見て、本当にうれしくなりました。美術館という場で本物の作品に触れ、非日常な時間と空間を味わうことは、自分自身への新しい気づきや自分の世界を広げてくれるという楽しい側面もありますし、こうして子どもたちと鑑賞を楽しむ中で、人と人とをつなぐ素晴らしさもあるということに、改めて気づかせてもらった気がします。
 聞けば今回初めて美術館に足を運んだという子どもたちも少なからずおられました。美術館ってどういうところだろう、どんな体験が待っているんだろう、そんな子どもたちのわくわくした気持ちに少しでも答えられたなら、これほど嬉しいことはありません。これからも美術館が子どもたちにとってより身近な、気楽に出かけて行ける場であってほしいと願っています。

(京都市立花園小学校 教諭 村中誠士)

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