実施報告
日本画の画材に親しみながら、東山魁夷の作品への理解を深めるワークショップを開催しました。今回は、日本画家の三橋卓さんと景聴園(けいちょうえん)の作家の皆さんに講師としてご協力いただき、参加者はデカルコマニーの技法を用いて作品を製作しました。
まずは、日本画の簡単な歴史と画材についてのレクチャーからスタートです。東山魁夷が多用した「あお」の原料である孔雀石や、白色の原料となる貝殻などを特別にご用意いただき、参加者は手にとって、顔料の色の微妙な違いなどを体験しました。
お話の後は、絵皿の中で顔料と膠を混ぜて指で練りながら、実際に絵具を作っていきます。顔料のざらざらした触感や、だんだんと柔らかくなっていく感覚に、皆さん興味深々。続いて、できあがった絵具に水を含ませてデカルコマニーを行いました。半分に折った紙の片側に自由に色を置いていき、パタンと折って広げます。水の量や紙を広げる時の角度や早さによって現れる色や模様がさまざまで、皆さん枚数を重ねるごとに工夫を凝らしていました。
ここで一旦手を止めて、ふたたび三橋さんのお話に耳を傾けます。前には、水面に映り込んだ風景が印象的な、東山魁夷の《緑響く》がスライドで映されました。そして、「皆さんの作品と東山魁夷の作品に、なにか共通点はありませんか…?」と問いかけが。
自分の作品と東山魁夷の風景画をじっくりと見比べます。すると、不思議な色や形が集まった「何だかよく分からない抽象絵画のよう」と思っていた絵が、まるで水面に映った”魁夷の世界”のように見えてきました。実は、ここが今回のワークショップの肝。ほんの少しのきっかけで自分の作品の見え方がガラッと変わるとともに、魁夷の作品への親近感が一気に湧いた瞬間でした。
ここからの活動は、「見立てる」をテーマに進みました。参加者は、デカルコマニーの作品をじっくり鑑賞し、何かしらの場面や風景になぞらえてみます。そして東山魁夷の作品に倣って、「馬」など思い思いのモチーフを描き込んでいきました。
当館では、展覧会の内容を分かりやすく紹介したり、違う視点から作品を味わうために、ギャラリーツアーやワークショップなど様々な形態で教育普及プログラムを実施しています。「東山魁夷展」には、色の微妙なグラデーションや絵具の塗り重ねなど、間近で鑑賞してこそ味わえる魅力がある作品が多く展示していました。そのため、今回のように画材や顔料を実際に体験することは、表現の幅を広げること以上に、豊かな作品鑑賞を行う上での大きな手助けになったことと思います。ねらいに応じた「切り口」を検討することの重要性が明らかになったワークショップでした。
(当館特定研究員 松山沙樹)