教育普及「ポール・スミス展」ワークショップ『ボタン dé ぼたん』 実施報告
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「ポール・スミス展」ワークショップ『ボタン dé ぼたん』 実施報告
- 日時
- 2016年7月9日(土)午後1時~3時30分
- 会場
- 京都国立近代美術館 1階ロビー
- 参加人数
- 16名
- 講師
- 戸矢崎 満雄 氏(神戸芸術工科大学教授)
「ポール・スミス展」の関連イベントとして、ボタンを並べて牡丹の花模様を作るワークショップを開催しました。当日は6歳から60代まで幅広い年齢層の方が、ピンク・黄・赤の牡丹の花の制作に挑戦しました。また、完成した作品は展覧会閉幕(7月18日)まで1階ロビーにて一般公開しました。
今回、展覧会の見どころのひとつである、ボタンを壁一面に隙間なく並べた「ボタンウォール」というコーナーから、ボタンを使ったアートを展開しておられる戸矢崎満雄さんが想起されました。そこで、身近なボタンで作品制作に挑戦することで芸術の楽しさや奥深さを感じる機会を作ろうと、戸矢崎さんを講師としてお招きすることになりました。
ワークショップの内容を考えるにあたって戸矢崎さんが注目されたのは、ポール・スミスのデザインに「伝統と新しさの融合」が見られることでした。具体的には、スーツの裏地に遊び心のある柄を用いたり、シャツに斬新なデザインを取り入れたりと、イギリスの伝統的なファッションの流れを汲みながら新しい感覚を融合している点です。ポール・スミスのこうした姿勢を踏まえて、本ワークショップでは、型染や和菓子の型に見られるような日本の伝統的な「牡丹模様」を、ボタンを使って描くという内容にすることが決まりました。

当日は、「赤」「黄」「ピンク」の3つのグループに分かれて、美術館のロビーに各色3つずつ計9つの牡丹の花を制作しました。使用したのは、大きさも形も柄も異なるピンク、黄、赤、緑、金色のボタン合計1万5千個。多くのボタンは、戸矢崎さんがこれまで収集し数々の作品制作のために使ってこられたものです。それに加えて今回は、「ポール・スミス展」のテーマカラーにちなみ美術館でピンク色のボタンを募集したところ、およそ2カ月間で約900個が寄せられました。

戸矢崎さんは普段、ボタンをひとつひとつ順番に並べて形を作っていかれますが、今回は作品制作が初めての方が多く、また一度に多くの作品を作ることができるよう、牡丹模様をくりぬいた「型」を用いました。
はじめに空洞部分にボタンをばらばらと投げ入れ、その後、重なっているボタンどうしを離したり裏を向いているボタンを表にしたりして微調整を行います。途中、戸矢崎さんから「似たようなボタンはあえて離して置く方が良い」、「型の縁ぎりぎりにボタンを置くと花の輪郭が綺麗に見える」と作品制作のポイントを伝授されると、参加者の皆さんの手つきにさらに熱が入ります。


そして、型の中にボタンがきれいに並んだところで、いよいよ型を外します。グループの仲間と息を合わせながら、ボタンが崩れないように型をそっと持ち上げます。型の下から綺麗な牡丹の花が現れた瞬間、驚きと喜びと達成感に、大人も子どもも歓声をあげずにはいられません。
最後に、中央のおしべの部分に金色のボタンを置いたら、牡丹の花の完成です。

今回焦点を当てたのは、普段の生活の中ではそれ自体を気に留めることが少ない「ボタン」でした。とはいえ、ボタンは年齢や性別に関わらず誰にとっても身近な存在ではないでしょうか。そのため、ワークショップ中は、一つのボタンからそれが付いていた服やその服を着ていた人の人柄、服から取り外されたボタンがその後どんな歴史を辿ってきたのかまで、参加者間でさまざまな会話が弾んでいました。
「母が着ていた服に似たようなボタンが付いていた」
「80年代風のファッションが思い浮かぶなあ…」
「こんなに大きなボタン、一体どんな服についていたのかな?」
ボタンについて語ることでその人の嗜好や経験が垣間見えるからか、だんだんと参加者間の緊張がほぐれ、和やかな雰囲気に包まれていきました。また、参加者の年齢層が幅広かったため、子どもが大人たちの話に興味深くうなずくなど世代間のコミュニケーションが活発に行われたことも印象に残りました。


作品は9日間のみの公開となりましたが、「ポール・スミス展」の来場者の方にも多くご覧いただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。
(当館特定研究員 松山沙樹)
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