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教育普及平成20年度 京都市立銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 実施報告

学習支援活動

平成20年度 京都市立銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修 実施報告


平成20年度 京都市立銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修
日時:
2008年4月15日(火)  9:20~12:30

場所:
京都国立近代美術館講演室、バックヤード、
3階 企画展示室、4階 コレクション・ギャラリー

スケジュール:
9:20 講演室集合
9:30 講義「美術って何?それを知るために『展覧会』がある」
(当館主任研究員・山野)
10:30 バックヤード見学
11:00–12:20 企画展「生誕100年記念 秋野不矩展」、常設展「コレクションの名品展」鑑賞
12:30 解散


概要
平成20年度 京都市立銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修
毎年度、当館の講演室と展覧会を活用して実施されている、京都市立銅駝美術工芸高等学校の新入生美術入門研修が行われました。研修冒頭の講義では、例年通り同校教諭からのリクエストを加味し、これから専門的に美術を学ぼうとする新入生の皆さんに、展覧会の起源と、一つの展覧会が開催されるまでの工程やその際に役立つ能力などが、具体例をもとに解説されました。完成された展覧会を単に鑑賞するだけではなく、その過程を含めた展覧会の成立を、歴史的観点と現在の具体的な事例から俯瞰することは、今後の作品制作や学習への足がかりとなることと思います。
講義終了後、生徒たちは搬入口や収蔵庫入口などのバックヤードを訪れ、開催中の企画展「秋野不矩展」とコレクションギャラリーを鑑賞しました。現在コレクションギャラリーでは、講義内で紹介された《ゲルニカ》が制作された翌年に描かれた、パブロ・ピカソの《静物―パレット、燭台、ミノタウロスの頭部》(1938)が展示されており、《ゲルニカ》の爆弾を象徴すると言われる電球と《静物》に登場する蝋燭の炎との近似、また両作品に登場するミノタウロスという共通点が見られます。講義の内容を受けて、この作品に関心を示しながら熱心に鑑賞する生徒の姿がしばしば見受けられました。


講義内容について
平成20年度 京都市立銅駝美術工芸高等学校 新入生美術入門研修
まず、現在各地で頻繁に開催されている美術展が、1855年以降継続的に開催されていたパリ万国博覧会に起源を持ち、当時は機械や標本などの様々な珍しい品々が陳列されるなかに、絵画などの美術作品が含まれていた状況が指摘されました。このような展覧会の起源に基けば、美術館や美術の展覧会が何らかの特別な場所であると見なされがちな現状は、再考されるべき重要な課題です。
次いで美術における根源的な諸問題が俎上にあげられ、今一度、美術あるいは広く芸術に対する固定概念に疑問を呈する機会が持たれました。例えば「展覧会とは何か。」という質問に対する応答として、作品が展示紹介されることは、展覧会の起源から、作家など個人の思想を公にアピールする意義を持っており、その鑑賞行為は単なる美的快楽の追求に終始しないという見解が提示されました。
この点については、当館でも所蔵しているパブロ・ピカソ(1881–1973)の作品から、彼の代表作《ゲルニカ》(1937)が取り上げられ、当該作品にはスペインの小都市・ゲルニカへの史上初と言われる都市無差別空爆に対する強い非難が込められ、当時の政治に異議を唱える力を持ち得たことから、美術に確固たる自律した世界があるのではなく、芸術が歴史や社会と密接に関わりながら成立してきた状態が例証されました。
さらに「すばらしい作品とは何か。」という問いでは、作品に他者とは異なる秀でた個性が見出せるかどうかが一つの判断基準であるとした上で、ルネサンスや印象派の時代の代表的な作家の個性こそが時代そのものの「様式」を示し、その強い個性が評価された例として紹介されました。特に後者の時代においては、当館で今年開催予定の「ルノワール+ルノワール展」から、今でこそ美術史上での確立した地位と人気を誇る印象派であるが、その発足当時に開催された第一回印象派展(1874)は、サロンで落選した作家たちの展覧会であると酷評され、ほとんど認知されませんでした。それが回を重ねるごとに徐々に市民権を得て美術史に名を残した状況は、新入生対象の入門研修に適した非常に理解しやすい事例であると思われます。
この問いの応答である個性の観点からは、作家の強烈な個性の発露が、一つの時代様式を形成し、同時にその時代を象徴するという循環と矛盾の生起が指摘され、美術史、あるいは広く世界史などの歴史の問題圏に及ぶ考察に発展し、充実した講義が展開されました。
(学習支援係・豊田直香)


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