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コレクション展

2022年度 第5回コレクション展

2023.01.28 sat. - 04.16 sun.

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西洋近代美術作品選

 当館所蔵ないし寄託の西洋近代美術の優品を紹介するコーナーです。今回は、3階企画展示室で同時期に開催している「甲斐荘楠音の全貌」展に関連し、ジョルジュ・ルオーの作品をご覧いただきます。
 日本に纏まった作品コレクションがあり、度々展覧会が開催されるほど手堅い人気を持つジョルジュ・ルオー(Georges Rouault, 1871-1958)は、パリ郊外の労働者街であったヴィレットに、指物職人の息子として生まれました。14歳でステンドグラス工房に徒弟に入り、修業の傍ら装飾美術学校の夜間部に通います。彼の作品の大きな特徴である、黒い骨太な輪郭線や内部から輝き出すような色彩は、このときの経験に由来すると言えるでしょう。その後本格的に画家を目指し、エコール・デ・ボザール(国立美術学校)に入学した彼は、象徴主義の画家ギュスターヴ・モローに師事しました。生涯敬愛し続けたこの師から、ルオーは、芸術は自然の模倣ではなく画家の感情を表明する契機であること、色彩についての想像力が重要であることなどを学び、自らの創作の指針とします。そして、同門のマティスらフォーヴィスムの画家たちと親交を持ちつつも、独自の世界を構築していきました。
 ルオーが好んでモティーフとしたのは、サーカスにまつわる人々や娼婦、裁判官、そしてキリストの生涯の出来事でした。なかでも、サーカスに関連する主題は全作品の3分の1を占めています。今回の展示作品でも明らかなように、彼が描く道化師や曲芸師、ダンサーたちからは、舞台上での華やかさよりも、社会の周縁に生きる人間としての不安感が感じられます。しかし同時にルオーは、そんな彼らの内面に、なにものにも縛られない自由をも見て取っていました。
 人間の根底にあるこのようなアンビヴァレントな本質を直視し表現しようとしたルオーの作品は、醜くグロテスクなものとして、しばしば非難と対象となりました。しかし、対象を深く洞察し、力強い線と色彩によって、画面のみならず、時には額にいたるまで精魂込めて描かれた彼の作品は、今もなお観る者の心に深く迫ります。


前衛書 森田子龍《脱》1959年

 明治15年(1882)、小山正太郎が「書ハ美術ナラズ」という文章を発表したことに端を発した岡倉天心との論争が知られているように、明治時代になると書は美術か否かという議論が出てきました。西洋文化が流入し、「美術」という概念が生まれたことで、日本は欧米に倣った美術制度を構築していきました。それまで「書画」と呼ばれていたものが、「書」と「絵画」に分けられ、第3回内国勧業博覧会で絵画は「第二部 美術/第一類 絵画」と最上位に分類され、書は「第二部 美術/第五類 版、写真及書/其三 書」と美術ではあるものの最下位に列せられました。
 このような流れが生まれていく時代において、明治13年(1880)に中国から能書家の楊守敬が碑帖を携えて来日し、巌谷一六や日下部鳴鶴などの日本の書家たちはその碑帖から中国の古典書法を学びました。鳴鶴の門下にはのちに「現代書の父」とも称される比田井天来がいました。天来は師の書風を学びつつも古典の臨書に励み、新たな書法の発見へと至りました。古法研究の成果をまとめた臨書集である『学書筌蹄』を発行し、学書院を開いて学書の方法論を広めました。「書は芸術である」とした天来のもとに集まった意欲的な青年たちは書道芸術社を結成し、機関誌『書道芸術』を発刊しました。書道芸術社には書の造形性に注目して前衛書の流れを作った上田桑鳩、漢字とかなを混ぜた親しみやすい近代詩文書を提唱した金子鷗亭、文字の内容にふさわしい形を表現する象書を創始した手島右卿、前衛書の嚆矢として知られている《心線作品第一「電のヴァリエーション」》を制作した比田井南谷らがいました。
 第二次世界大戦により一時停滞しましたが、戦後になると上田桑鳩門下の森田子龍、井上有一、江口草玄、関谷義道、中村木子によって京都で墨人会が結成され、彼らの活躍によって前衛書は大きく展開しました。墨人会のメンバーは長谷川三郎や吉原治良などの抽象画家との交流を通して書の造形性を追求し、絵画とも密接な関係を築きました。また、彼らの書は国際的にも評価され、数々の国際展にも出品されました。書は文字であり、実用的な側面を有していることが絵画とは異なる部分でもあり、文字を書いているからこそ生まれる緊張感やダイナミックな筆遣いが前衛書の魅力です。しかし、比田井南谷のように、文字に囚われない自由な書を創作している書家もおり、前衛書といっても一言で語るのは難しいのが実情です。


画家の工芸意匠 岩村哲斎 / 神坂祐吉 / 高瀬好山 / 古市卯之助 / 山鹿清華 / 初代山田楽全 / 図案:神坂雪佳《花車》昭和初期

 一人の芸術家の多様な仕事を紹介する「甲斐荘楠音の全貌」展にあわせて、「画家の工芸意匠」をテーマに、当館コレクションの中から画家が意匠を考案した、もしくは画家が絵付けを手がけた工芸作品を紹介します。
 今日では工芸制作における「作家性」が確立したことで、図案から制作までの全工程を工芸家個人で手掛けることは当然だとみなされています。ただし、工芸制作の現場で分業制や共同での制作体制がとられていることは多々あり、それぞれの技術と経験が高いレベルで融合することで優れた作品が生み出されています。
 もっとも、江戸時代の琳派などの例はあるとしても、専門的な「画家」が工芸意匠を本格的に手がけるのは明治期に入ってからのことです。その背景には、殖産興業政策の中で工芸品の輸出を国家として奨励したこと、そこに画家の意匠力を導入することで、新しい時代に即した工芸図案の創出が模索されたことがあります。明治後半から大正期に入ると、洋画家の浅井忠や日本画家の神坂雪佳が、京都の工芸家らと遊陶園や京漆園を組織し、アールヌーヴォーや琳派などの様式を参考とした図案研究および展覧会活動を盛んに展開しました。また、京都の陶芸家の河合卯之助は画家達との共同作業を数多く残していますが、それらは画家の余技ともいえるような絵付けの楽しさに満ちています。染織に目を向けると、画家の意匠が高い技術力で作品化されている例として、ここでは日本を代表する洋画家である藤田嗣治、坂本繁二郎、岡鹿之助が手掛けたタペストリーを紹介します。その他、神坂雪佳の兄である日本画家の神阪松濤の革細工、具体美術協会でも活躍した元永定正が絵付けした陶器も画家の創作性にあふれた作品です。


伊藤快彦・長谷川良雄・霜鳥之彦 長谷川良雄《糺の森》1905年

 日本の近代美術における地域ごとの特色はさまざまに論じられてきましたが、なかなか難しい問題です。洋画(油彩画、水彩画)に京都らしさというものはあるのでしょうか。日本画の場合、近世の円山応挙以来の写生という姿勢と、明治期の竹内栖鳳によるその革新と継承の流れが基盤をなしたといえますが、洋画の場合、明治・大正期に限れば、栖鳳と同じような役割を果たしたといえるのは明治の洋画家、浅井忠(1856-1907)ということになりそうです。彼自身は江戸の佐倉藩邸に生まれた人ですが、晩期5年間を京都で過ごし、京都の画家・工芸家・文人たちと密に交際しながら、絵画・工芸・文学・科学など分野の枠を横断して柔軟な表現活動を展開しました。そしてそれが京都の絵画や工芸図案のその後の展開を方向付けたといえます。
 京都で浅井忠に学んだ大勢の画家たちのうち、京都の熊野若王子神社の宮司家に生まれた伊藤快彦(1867-1942)と、東九条の豪農の家に生まれた長谷川良雄(1884-1942)は昨年で没後80年となりました。東京を中心とする美術界の潮流からは適度な距離を置いて、京都で自由に柔軟に美を探求し続けた点で、いかにも京都らしい画家だったのではないでしょうか。また、昨年で没後40年となった霜鳥之彦(1884-1982)は東京の生まれながらも浅井忠を慕って京都へ移り、京都の美術界を指導し続けました。
 この展示では、伊藤と長谷川の没後80年、霜鳥の没後40年を記念し、彼ら3人の作品を特集しています。浅井忠の作品とともにご覧いただきます。


会期 2023年1月28日(土)~4月16日(日)

テーマ 西洋近代美術作品選
前衛書
いとへんの仕事
画家の工芸意匠
伊藤快彦・長谷川良雄・霜鳥之彦
常設屋外彫刻

展示リスト 2022年度 第5回コレクション展(計90点)(PDF形式)

音声ガイド 音声ガイドアプリご利用方法(PDF形式)

開館時間 午前10時~午後6時
*金曜日は午後8時まで開館
*入館は閉館の30分前まで
*新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があります。来館前に最新情報をご確認ください。

観覧料 一般:430円(220円)
大学生:130円(70円)
高校生、18歳未満、65歳以上:無料
*( )内は20名以上の団体
国立美術館キャンパスメンバーズは、学生証または職員証の提示により、無料でご観覧いただけます。

夜間割引 夜間開館日(金曜日)の午後5時以降、夜間割引を実施します。
一般 430円 → 220円、大学生 130円 → 70円

コレクション展無料観覧日 1月28日(土)、2月4日(土)、4月15日(土)
*都合により変更する場合がございます。

同時開催: 2023年1月28日~4月16日
リュイユ―フィンランドのテキスタイル:トゥオマス・ソパネン・コレクション

展示リスト 2022年度 第5回コレクション展(計90点)(PDF形式)

音声ガイド 音声ガイドアプリご利用方法(PDF形式)

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