キュレトリアル・スタディズシリーズ:検証「現代美術の動向展」第3回
シリーズ:検証「現代美術の動向展」第3回
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- 期間
- 2012年5月16日(水)~ 7月1日(日)
- 展示作品
- シリーズ:検証「現代美術の動向展」第3回 展示目録
<シリーズ:検証「現代美術の動向展」>の第3回で採りあげる展覧会「現代美術の動向-絵画と彫塑」は、当館開館の翌年1964(昭和39)年の4月4日から5月10日にかけて開催されました。前年に二度にわたって開かれた「動向展」は、現代「絵画」の動向を紹介し、工芸に関する展覧会と同時に開催されました。またその年の後半には、明治・大正期そして昭和期と時代を区切って、二回にわけて「近代日本の洋画と工芸」に関する展覧会が開かれています。明治から昭和にかけて、つまりは「近代」、そしてそこから現代にいたる絵画と工芸の流れを一年間の展覧会で追うことによって、開館当時の当館を取り巻く状況と、それに対する美術館の姿勢を明確にしようとしたのだと言えるでしょう。
「現代美術の動向-絵画と彫塑」展は、開館の年度が終わった次年度の最初の展覧会として企画され、彫塑を含むことにより、「現代絵画の動向」から「現代美術の動向」へとその名称が変更されました。出品点数は、絵画70点、彫塑37点で、出品作家は、絵画が38名、彫塑が23名となっています。図録冒頭に記されているように、「今回の展覧会は、この多彩な現代日本の美術のなかから、最近とくにめだってきている新しい傾向の気鋭の画家および彫刻家たちの仕事に焦点をあて、その近作を展示した」ものでした。アクション・ペインティングやアンフォルメル風の作品、ネオ・ダダや「反芸術」と呼ばれる廃品などを利用した作品、日常消費材を作品に流用したポップ・アート的作品など、それらの作風は様々ですが、彼らには、「過去の形式や技術の因習から解放されようとする、発想の自由への要求と大胆な表現」があります。それを実現するために、絵画を構成する様々な物質や動きに注目した彼らの絵画は、木村重信が朝日新聞に掲載した本展の展評で指摘したように、もはや伝統的な絵画が担った役割、つまり「イメージ」を表現・伝達するものではなくなり、絵画という「出来事」ないし「記号」へと還元されていると言えるでしょう。このような問題意識は、伝統的な日本美術には存在しなかったジャンルである「彫刻」において、より一層顕著かもしれません。注目すべきは、絵画で三上誠や下村良之介、そして彫塑で宮永理吉や寺尾恍示といった、主に日本画や陶芸の分野で活躍している作家が選ばれていることです。この点に、第1回動向展のテーマであった「セクショニズムの超過」が、当館の活動指針として息づいていることが見てとれます。
当館では、本展出品作家のうち、絵画では14名、彫塑では5名の作家の本展出品作を含む作品を収蔵しています。絵画については、関根勢之助や高瀬善明のように、絵画画面のマチエールや記号性に注目した作家の作品が主に収蔵されました。一方、様々なジャンルの作品を収集している当館において、収蔵能力などの実際的問題から比較的収蔵点数が少ない彫刻については、寺尾恍示《プラスの世界》のように、工芸分野との境界の狭間に位置するような作品が本展以後も積極的に収蔵されています。
この年以降、開館の年のような「絵画・彫塑」と「工芸」の二つの展覧会の同時開催はなくなります。が、一年を通して様々なジャンルを扱う展覧会を開催し、「芸術」を媒介として現在の世界やそれと向き合う自らの姿勢について多角的に考える「場」を提供するという美術館の根本的な姿勢は、今に受け継がれています。
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