手だけが知ってる美術館 第1回 茶道具 実施報告

「手だけが知ってる美術館 第1回 茶道具」
「手だけが知ってる美術館 第1回 茶道具」
「手だけが知ってる美術館 第1回 茶道具」
「手だけが知ってる美術館 第1回 茶道具」
「手だけが知ってる美術館 第1回 茶道具」
「手だけが知ってる美術館 第1回 茶道具」
開催日
11月11日(日)①10:00~12:00 ②14:00~16:00
会場
京都国立近代美術館
参加者
①午前の部 16名(うち 視覚障害 有:3名、無:13名)
②午後の部 15名(うち 視覚障害 有:1名、無:14名)
イベント詳細
手だけが知ってる美術館 第1回 茶道具

【実施報告】

 京都国立近代美術館所蔵の茶道具をテーマに、視覚以外の感覚、特に「さわる」ことによってその新たな魅力を発見するとともに、障害の有無を越えて作品をともに体感するプログラムを実施した。当日は「自己紹介」「茶道の歴史について」「茶道具に触れる」「視覚を使わない鑑賞」の4つのパートで進行した。
 参加者どうしの対話が生まれやすい雰囲気をつくるため、まずは参加者全員で自己紹介を行った。あわせて、日頃お茶を飲む時に使う器(湯呑みやコップ)を持参してもらい、その器にまつわる思い出や普段どんな場面で使っているかなども紹介してもらった。
 続いて、当館の研究員が、茶道の歴史と茶道具について簡単なレクチャーを行った。あわせて、茶道具を鑑賞する上でのマナー(指輪等は外す、両手で丁寧に触れる、作品を持ち上げすぎない等)も確認した。
 レクチャーの後は、2つのグループに分かれて茶道具を鑑賞した。今回用意したのは、茶碗、花入、棗と茶入れ、香炉、香合、水指、茶釜、合計21点である(作品の一覧はこちら)。各机には研究員がつき、作家や技法について解説したり質問に答えながら鑑賞を進めていった。
 それぞれのグループには視覚に障害のある方が参加されていたため、目で見た時と手で触れた時の作品の印象の違いなどにも話題が及び、参加者同士の対話も深まったようだ。
 最後は4人ずつに分かれ、アイマスクを付けて視覚以外の感覚を使いながら茶碗1点を鑑賞した。作品に触れて感じたことやイメージしたことを語りあい、全員が一通り体験し終えたところでアイマスクを外し、自由に感想を通わせた。
 晴眼者からの気づきとしては、見ながら触っていた際は色や形といった視覚情報を頼りにイメージを浮かべていたのに対し、視覚を使わない場合は、掌の中に茶碗が収まる感覚や重さなどに意識が集中したといった発見であった。視覚に障害のある方にとっても、各自の経験や知識を使いながらイメージを広げて語るというこの活動は、同じ作品から様々な感想が生まれるという点で新鮮に感じられたようだ。

 今回は、さわることによって理解が一層深まるものとして茶道具を取り上げた。研究員の説明を聞きながら手に取ってじっくり鑑賞することで、作品の質感や重さなど身体感覚を伴って体験できる機会ということで、参加者の満足度は比較的高かったことがアンケートから示された。
 一方で、所蔵作品を用いた鑑賞プログラムを行う際には、本物の作品に触れることで得られるある種の"満足感"だけで体験を終わらせないような工夫が必要ということも感じた。これは今後の課題と捉えている。本事業では、多様な感覚を用いた鑑賞を通して作品について新しい発見をしたり、対話によって他者の感じ方に触れて気づきを得ることを大切にしている。今回は視覚障害のある方との対話の中から、晴眼者が当たり前と思っていた価値観が揺さぶられ、さわることの意義や視覚情報の曖昧さなどについての議論が生まれていた。今後も引き続き彼らとの協働を核として、既成概念に捉われない鑑賞活動を試していきたい。加えて、鑑賞の多様性や美術館での新しい過ごし方を考えるという体験まで至るための、効果的なプログラムやファシリテーションの仕方についても、引き続き検討していきたい。

(文責:松山沙樹)

<参加者アンケートから>

(十五代樂吉左衞門《焼締花入 France Loubignacに於いて造る花器》について)、触っても四角に感じられる模様が付けられているためなのか、それともまた違った理由があるのか、ことばで説明してもらっただけでは十分に理解ができなかったのですが、目が見える人がざっと見ると、四角い花器に見えることがあるとのことなのです。けれども、じっくり触ってみると、この花器は円筒形に近い形のように思われましたし、目が見える参加者の方も、触ると丸い形だということが分かると口々におっしゃっていたようでした。目で見てこの花器は四角い形なのではと感じた人は、この花器を触ることで初めて、この花器が丸いあるいは円筒形に近い形だということを、感じ取ったり認識したりするのだとすれば、この作品は、目が見える人も、視覚的に見ることに留まらず、触ることで、よりそのものの本来の姿というかあり様というか、本質のようなものに近づけることがあるということを、証明してくれているのかもしれないなあと強く感じた次第です。
(50代・男性・視覚障害あり)

作品に触れることで、作者と同じものに触れている体感を共有している気持ちになれた。視覚障害の方の話も、その感じ方の違いが知れて楽しかった。花入れの形状について、手で触れて感じる「円筒」形と目でみて認識する「四角」の違いに気づかされた。とても新鮮な気づきで、ガラスケース越しでは決して知ることのできないことだった。
(50代・男性)

とてもいい経験をさせていただき、ありがとうございました。普通では触れることのできないような雲の上の存在のような道具を実際にまぢかで見て、触り、お話を聞いて、とても豊かなひとときでした。目かくしをして道具に触った時に、自分の手の感覚が思っていたよりも実際見た印象とちがっていたことに驚いたし、言葉で表現することの難しさを痛感しました。
(40代・女性)

茶道具という普段余り縁のないもののお話を聞けて良かったです。手で鑑賞することを十分に理解できていると思っていましたが、アイマスクをしての鑑賞では、普段目に頼りすぎていることで感じることに自信が持てない部分があり、大変気付きになりました。見えない方にも、見えていると思っていることで逆に見えなくなっている部分があると言われ、目からウロコでした。この体験をこれからの毎日に役立てていけたらと思います。
(30代・女性)

茶道具などを美術館で観るとき、いつも「手に持ってみたらどんな感じなんだろう」と思っていたので、今日、貴重な機会をいただき、とても感謝しております。さわってみると、予想もしなかったような感覚にはっとする作品もあり、逆にアイマスクをして見えない状態だと、見ていたときには気づかなかったこともあり、いろいろと気づきがありました。視覚も触覚も、先入観にまどわされやすいものだなと思うとともに、同じ作品をさまざまな角度で鑑賞できる楽しさも感じました。
(50代・女性)


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