ワークショップ「てくてく、くんくん in 岡崎」実施報告 (「明治150年展 明治の日本画と工芸」関連イベント)

開催日
2018年5月13日(日) ①10:00~12:30 ②14:00~16:30
参加者
①午前の部 22名(内 視覚障害 有:5名、無:17名)
②午後の部 18名(内 視覚障害 有:3名、無:15名)
イベント詳細
ワークショップ「てくてく、くんくん in 岡崎」

【実施報告】

 5月13日(日)、当館開催の企画展「明治150年展 明治の日本画と工芸」の関連プログラムとして、感覚をひらくワークショップ「てくてく、くんくん in 岡崎」を開催しました。当日は時おり強い雨が降る中での実施となりましたが、午前・午後あわせて40名が参加しました。

 本ワークショップのねらいは、大きく2つ。1つ目は、「明治150年展」に関連して開催するイベントということで、明治時代、京都の近代化の鍵になった琵琶湖疏水の歴史について、実際に歩きながら理解を深めることです。もう1つは、当館が中核となって進めている「感覚をひらく―新たな美術鑑賞プログラム創造推進事業」の一環として、障害の有無に関わらず、触れる・音を聞く・匂いを嗅ぐという、視覚だけでない身体全身を使った芸術鑑賞を楽しむことです。「感覚をひらく」ではこれまで、「作品をさわって鑑賞する(触覚)」(2017年12月16日実施)「音を頼りに建築を鑑賞する(主に聴覚)」(2018年2月11日実施)といったプログラムを実施してきました。今回は、障害の垣根を越えてともに楽しめる感覚として、"香り(嗅覚)"に着目して企画を組み立てました。

お話に耳を傾ける お話に耳を傾ける

 当日、参加者は蹴上駅に集合。その後、大寧軒に場所を移し、ワークショップをスタートしました。大寧軒は普段は非公開ですが、今回は南禅寺の特別協力のもと、会場として利用させて頂きました。まずは畳に座り、信徒部長の少林浩道氏の話に耳を傾けました。南禅寺の沿革についての紹介に始まり、琵琶湖疏水の建設により、大寧軒をはじめとする多くの邸宅に疏水の水を引くことで、池や滝をそなえた庭の表現が可能となったことなど、明治以降の南禅寺の歴史を紹介。さらに、香りを供えることで、故人に私たちの思いが届くものと信じられていると、寺院でお香を焚く理由についても触れて頂きました。

 続いて、参加者は順番に焼香体験をさせていただきました。参加者のなかには、香炉の形をさわって確かめる方や、香炉のそばへ顔を近づけて香りの変化を感じ取る方など、それぞれに新しい発見があったようです。その後は香りの余韻に浸りながら、外に広がる庭を観賞し、滝の音や鳥のさえずり、雨の滴りなどにも耳を傾けて、思い思いに大寧軒を満喫することができました。

焼香体験焼香体験
大寧軒を満喫大寧軒を満喫

大寧軒でゆったりした時間を過ごした後は、琵琶湖疏水を歩いて美術館を目指しました。本来は、南禅寺の境内での活動なども予定されていたのですが、あいにく雨天のために中止となりました。雨の中でしたが、途中立ち止まって、琵琶湖疏水の歴史にも触れながらの移動となりました。

タブレットを選ぶ タブレットを選ぶ 思い思いの香りを作る 思い思いの香りを作る

 美術館では、香老舗 松栄堂のご協力のもと、「匂い香づくり」を行いました。はじめにデモンストレーターの方から、お香を作る"調合師"の仕事についての紹介があり、今日の活動についての説明を受けました。その後、各自での匂い香づくりを始めました。
 ワークショップで用意を頂いたのは、10円玉ほどの大きさに固められた香りのタブレット。全部で7種類あり、この中から各々が全15個を選んで袋に入れていきました。思い思いに、好きな匂いの組み合わせを見つけることができたら、指でタブレットを潰して混ぜ合わせました。そうして出来た粉末を、巾着袋に入れて完成。

 みなさん、南禅寺での活動ですっかり緊張がほぐれたようで、和気あいあいとした雰囲気の中で活動が進んでいたのが印象的でした。テーブル内で袋を交換して「くんくん」しあい、どんな調合にしたのか教え合うなどしていました。「優しそうな性格が香りに表れていますね」、「凛とした印象の香りですね」と、他の方との交流が飛び交っていました。また、この日は盲学校の中学生が親御さんと一緒に参加されたのですが、手際よく香りを調合するお子さんの隣で、お母さんたちが「将来、香り関係の職業に就くのも良いかも」と嬉しそうに話していた様子も印象に残っています。
 さらに今回は、触ることが可能な教材として、お香の原料となる植物もご用意いただきました。「ラベンダー」や「桂皮」などの親しみのあるお香の原料について、触覚や嗅覚を使って体感することで、香りの世界をより深く知る機会になったのではないでしょうか。

香りの原料になる植物香りの原料になる植物
原料にふれて自然と笑顔に原料にふれて自然と笑顔に

 今回のワークショップは、嗅覚を意識することに加えて、雨天での実施となったことで、思いがけず聴覚もフル活用することになり、五感を使った文化や歴史の楽しみ方について、その可能性を拡げることができる機会になったと考えています。この日は、残念ながらゆっくりと散策することは叶いませんでしたが、岡崎地域を再訪していただくきっかけになれば幸いです。

  また、当日は視覚に障害のある方も参加されましたが、「教える/教えられる」「助ける/助けられる」といった立場の違いは無く、障害の有無を越えたフラットな関係のなかで、「てくてく」「くんくん」という体験を共有できました。「感覚をひらく」の事業では今後も、芸術を介して活動する中でお互いの個性や感性の違いに触れるような、そうしたプログラムを開催していきたいと考えています。

(文責:松山沙樹)

<主な感想>

お香はタブレットひとつのちがいで香りが変化するのがよくわかりました。ただ、視覚障害のある方にとって、鼻だけを手がかりに選別しひとつのにおい香にまとめるのは、とくにお子さんにとっては難しいのかなとも思いました。嗅覚に注目するのは、視覚障害者にとってまだまだ未開拓かも。そういう意味では先駆的なとりくみだったと思います。

あいにくの雨でしたが、日頃、子供とゆっくりとこういう企画に参加することも少ないので、においを感じながらのとてもゆっくりと流れる時間を過ごすことができました。お寺で住職さんのお話、お香の匂いのなかでの雨の音と共に流れる庭の景色はとても良かったです。子供が弱視で少ししか見えていないのですが、匂いを感じながら親子で楽しい時間を過ごせました。

この様にワークショップとしてでないと、なかなかお香と歴史を巡ってという目的で京都を歩く、ということもないので、とても楽しい時間でした。お香の調合は、自分の好きな香りって何だっけ、あれも良いこれも良いと迷いながら、とても楽しくできました。香りには本当に色々なイメージがあるものなのですね。面白いです。楽しい時間をありがとうございました。

「感覚をひらく」コンセプトを意識すると、雨は雨なりの雨のにおいとか音とか冷たさとかあらためて感じることに至り、とても楽しかったです。(中略)ご住職や松栄堂さんが何気なく(か、意識してか)仰った言葉がいくつか印象に残っているのでまた新しい興味につながりました。

残念ながら雨でしたが、とても楽しく参加することができました。特に匂い香づくりはとてもよかったです。このように体験できることで、美術が身近にあることが実感できます。(中略)このワークショップに参加することで、時間の流れ、文化の流れを感じることができました。

(匂い香づくりについて)一点ずつの個性を捉え、どのような組み合わせ(足し引きなど)によってどういう香りに仕立てていくのか、想像以上に奥の深い世界なのだろうと思わせられました。「香を聞(聴)く」という表現に魅かれます。

雨で外を歩いてゆっくり体感できなかったのは残念だった。外を歩いて体感するワークショップは、今後も企画してほしい。(中略)現在の明治の特別展との関連が、もうひとつ感じられなかった。なにか明治の技術・工芸を感じられるものがあれば良かった。