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京都国立近代美術館研究論集 CROSS SECTIONS Vol. 1 (2008) 京都 : 京都国立近代美術館, 2008–ISSN 1883-3403 Vol. 8

序文

 独立行政法人国立美術館・京都国立近代美術館は、第一期5年間の中期計画を終え、その成果を踏まえて、平成18年度より第二期を迎えた。これを機に、私たちはこれまで進めてきた活動を一層実り多いものにするために、独立行政法人国立美術館に属す5館共通の新しい課題の遂行とともに、幾つかの点で本館独自の案を練り実行に移す試みをはじめた。そのうちの一つが、館独自の論集を編み、私たちの活動を毎年研究報告のかたちで公にして議論に供するという案である。この案が一年余りの準備を経て今年漸く実現されることになった。

 この論集によって私たちが試みたいのは、館の研究員を中心に進められている平素の研究・教育活動、館が開催したシンポジウム、講演会、館の進める国際交流等々の活動の成果を報告し、これによって今日の芸術現象を含む文化の諸断面に光を当て、さらなる議論のきっかけにすることである。これは、今進めている「本館の所蔵する近現代美術・工芸・デザイン・写真作品とそれらに関わる資料を中心にしつつも、同時にそれを超えた文化全般に関わる問題に眼を向けた情報発信を通して、活発な議論の場を開く」という本館の基本方針の一環である。このような意図から、論集のタイトルはCROSS SECTIONSとなった。日本語で言えば、「切り口」、「断面(図)」である。タイトルは複数形になっている。それは、芸術を含む文化現象は決して一つの原理に還元できない多くの側面があり、それを今の時点でどう切り取るかによって、過去、現在、未来の世界の理解は変化するからである。英語のタイトルになったのも、それが複数形をはっきり示すことができるという理由による。

 また私たちは、この論集を単なるかたちだけのものにとどめないために、一方では査読制度を設け、それによって若手研究者の研究成果の質を保ち、他方では研究論文のみでなく、美術館においてこそ可能になる研究活動に関する新しい情報の提供、さらには館以外の方々による当館でのシンポジウムや講演会での報告、また私たちがサポートした海外の若手研究者の研究成果等にも門戸を開くことにした。この創刊号でも、論文とともに研究員の研究報告、2006年冬に開催の「ドイツ現代写真展」の際に行った、関西を中心に活動を展開している若手研究者のグループ(「写真研究会」)によるコロキウム報告、海外の若手研究者による日本現代美術に関する修士論文の要旨等が収録される。私たちは、海外研究者を招いての講演会やシンポジウムとともに、内外の若手研究者による近現代芸術に関する研究をサポートすることを重視している。海外交流の点でも、このような細やかな活動こそがむしろ将来性のある交流になると信じるからである。

    〔中略〕

 最後になったが、この創刊号の出版に際して原稿を寄せられた館の外部の方々に心から謝意を表し、また予定されていた出版期日が大幅に遅れたことに対して心からお詫び申し上げたい。

2008年5月
京都国立近代美術館長 岩城 見一

内容

■論文

芸術的精神の現象学——(11)

岩城見一(京都国立近代美術館 館長)

ドイツ表現主義の彫刻家エルンスト・バルラハの陶磁器作品について

池田祐子(京都国立近代美術館 主任研究員)

蒔絵技法から伏彩色螺鈿技法への移行
  一九世紀前半における「長崎青貝細工」の制作について

中尾優衣(京都国立近代美術館 研究員)

■報告

演じられるアイデンティティ/演じられる性差
  やなぎみわの《エレベーターガール》《My Grandmothers》シリーズへの一解釈

クレスティーナ・スカール (Coordinator at DGI-byen in Copenhagen —a venue for cultural and corporate events and sports.)

〔コロキウム:「ドイツ写真の現在」を考える〕

コロキウム構成

佐藤守弘(論文提出時:京都精華大学デザイン学部 専任教師
現在:京都精華大学デザイン学部 准教授)

コロキウム総括

前川 修(神戸大学文学部 准教授)

「ドイツ写真の現在」展を読む……写真作品のかたち

小林美香(論文提出時:京都造形芸術大学他 非常勤講師
現在:サンフランシスコ近代美術館 特別研究員)

ドイツ写真の子どもたち——ルクスの現在形

中村史子(論文提出時:京都大学博士後期課程一年次在籍 現在:愛知県立美術館 学芸員)

シュトゥルートの場所——「ベッヒャー派」という物語

鈴木恒平(論文提出時:神戸大学文学研究科博士後期課程一年次在籍
現在:神戸大学文学研究科博士後期課程一年次在籍)