フィレンツェ・ルネサンス:芸術と修復

本展はこつのテーマをもって企画構成された展覧会である。
 まず、本展は16世紀にルネサンス文化の中心地として栄えたフィレンツェ美術の流れを、13世紀から18世紀の間に制作された美術品80余点により辿ることを狙いとしたものである。ジォット、マンゾリーノ、リッピ、ボッテイチェルリ、ダ・ヴインチ、ミケランジェロ、サルト、ヴァザーリ、ティツイアーノ、ドッシなどのルネサンス期の代表的作家の作品を展示し、中世美術から初期ルネサンス美術への移行、そして盛期ルネサンス美術への展開とその変質を紹介した。また本展は、フィレンツェ輝石・修復研究所とウフィツィ美術飽画紙修復攻防の協力のもとに企画されたものであり、フィレンツェの修復技術とその成果を紹介することがもう一つの目的であった。出品作の技法は、フレスコ画、テンベラ画、油彩画、彫刻、刺繍、素描と多岐にわたるが、いずれも修復を施したものあるいは修復途上の作品であり、これらの作品を修復記録写真等の会場パネルと併せて並べることにより、修復の成果を具体的に紹介した。

 修復には大きくわけてこつの目的がある。ひとつには、変質したり破壊された作品に芸術的な価値を回復させる作業で、これには洗浄、剥落や欠損部分の復元・補彩などがある。もうひとつは保存作業で、今後の変質を予防するために特殊な条件下に作品を保管したり、画面を形成する絵具層などをより耐久性のある支持体へ転置する処置などである。こうした保存修復作業は美術史研究に欠くことのできない領域であり、修復の結果は、しばしば、作品・作家・美術の流れに関する理解を変更きせたり再確認させたりする。欧米の美術館でこの分野の占める位置は高く、その成果が展覧会で披露されることは一般的な習慣となっている。

 写真や映像などの複製技術が氾濫しているため、我が国ではこれまで専門家以外にはあまり意識されたことのなかった事実−−美術作品は放置しておけば消失する運命にある物資であり修復保存という仕事が美術作品の生死に深く関わっている事実−−を本展は確認する機会を提供したといえる。

 もっとも、保存修復の具体的な個々の作業に関して、欧米では賛否両論様々な論争が繰り拡げられ、修復官の間でも修復に対する考え方やこれに伴う技術は、時代や国・地域により異なっているのが現状である。当館発行の美術館ニュース「視る」で本展を機会に、修復に関する記事を日本の美術史家や修復家に依頼したが、ここでも、修復の現場や修復のもたらす具体的成果が紹介されその重要性が主張きれる一方で、修復に村する過剰な信頼に関して批判や警告もなされた。こうして本展は、芸術の生死に関わる保存修復分野をクローズアップし、この分野に関するクリティカルな問題提起の場を提供することとなった。

 本展は、京都展の終了後、世田谷美術館、名古屋市美術館へ巡回した。

共催
イタリア文化財省、フィレェンツェ美術監督庁 NHKエンタープライズ
会期
7月16日〜9月1日
入場者数
総数210,690人(一日平均5,016人)
出品目録
作家名 作品名 制作年 材質・形状 寸法
メリオーレ 聖ペテロと聖パオロの間の 制作年不詳 板絵 95×115
玉座の聖母子、および両聖者伝
トスカーナの工房 行列用十字架(側面に聖母、福音書記者ヨハネ、大天使、また裏面に福音書記者達の象徴 12世紀 フロンズ鋳造、ビュランによる彫装の後に塗金 41×20
トスカーナの工房 行列用十字架(側面に聖母、福音書記者ヨハネ、大天使、また裏面に福音書記者達の象徴 12世紀 ブロンズ鋳造、ビュランによる彫装の後に塗金 33×25
フィレンツェ派 若い祈祷者の頭部 13世紀後半 モザイクのシノピア 46×40
ゲラルド・デイ・ヤコポ・スタルニーナ 聖アンドレアとある聖者の断片 制作年不詳 剥離フレスコ画 121×45
ゲラルド・デイ・ヤコポ・スタルニーナ 洗礼者聖ヨハネ、聖ペテロおよびある聖者の断片 制作年不詳 剥離フレスコ画 146×45
ジョット・デイ・ボンドーネ 羊飼いの頭部 制作年不詳 剥離フレスコ画 253×132
ロレンツォ・ギベルティ ヨセフの物語 制作年不詳 ブロンズ鍍金 79.5×79.5
ロレンツォ・ギベルティ 行列用十字架 制作年不詳   43×26
マゾリーノ・ダ・パニカーレ 聖イヴオと少女達 制作年不詳 剥離フレスコ画 190×76
フランチェスコ・ダントニオ 聖アンサーノ 制作年不詳 剥離フレスコ画とシノピア 227×142
フラ・アンジェリコ 巡礼のキリスト 制作年不詳 剥離フレスコ画 110×135
パオロ・ウッチェロ 修道院食堂の場面 制作年不詳 剥離フレスコ画 276×80
ドナテッロ 聖母子と天使達(ロープの聖母子) 制作年不詳 木心材・陶細片の上に多色金彩ストゥッコ、銀彩にニスがけとガラス材を含む皮革細片 93×78
フィレンツェ派 旧訳聖書伝 15世紀 剥離フレスコ画 408×505
フイリッポ・リッピ 玉座の聖母子と天使達、および聖ミカエル、聖バルトロメオ、聖アルベルト 制作年不詳 板絵 43.7×34.3
デジデリオ・ダ・セソテイニャーノ ベネデット・タ・マイアーノ マグダラのマリア 制作年不詳 賦彩木彫 高さ183
アントニオ・デル・ポッライウォーロ 悔悟の聖ヒエロニムス 制作年不詳 剥離フレスコ画 500×235
アントニオ・デル・ポッライウォーロ 洗礼者の遺体の移送 制作年不詳 絹製多色金刺繍 30.7×22.8
サンドロ・ボッティチェリまたはその工房 若い女性の肖像(美しきシモネッタ) 制作年不詳 板絵 61.3×40.5
サンドロ・ボッティチェリ 聖母子(海の聖母) 制作年不詳 板絵 40.3×28.4
サンドロ・ボッティチェリ 書斎の聖アウタスティヌス 制作年不詳 剥離フレスコ画 185×123
ドメニコ・ギルランダイオ 書斎の聖ヒエロニムス 制作年不詳 剥離フレスコ画 185×120
ロレンツォ・ディ・クレディ ヴィーナス 制作年不詳 カンヴァス画 151×69
ピエトロ・トッリジャーノ 聖女フィーナ 制作年不詳 賦彩大理石 高さ58
フラ・バルトロメオ マグダラのマリア 制作年不詳 瓦にフレスコ画 56×45
ミケランジェロ・ブオナローティ 男性胸像(一説にトリトン或いはサテュロス) 制作年不詳 壁から剥離された素描 94×133.5
アンドレア・デル・サルト 希望 制作年不詳 剥鮭フレスコ画 278×137
ドッソ・ドッシ ニンフとサテュロス 制作年不詳 カンヴァス画 58×84
ティツィアーノとその工房 アレクサンドリアの聖女カテリーナ 制作年不詳 カンヴァス画 102.5×72
ジョルジョ・ヴァザーリ 無原罪の御宿り 制作年不詳 板絵 345×237
ジャンボローニャ 制作年不詳 ブロンズ 50.5×83.2
バルトロメオ・ビンビ 制作年不詳 ブロンズ 50.5×83.2
クリストフォロ・ムナーリ 静物 制作年不詳  カンヴァス画 172×146
パオロ・ウッチェロ(推定) 三人の修道士に説教する聖ベネディクトゥス 制作年不詳 ペン、白地の紙 12.0×16.2
フラ・アンジュリコ(推定) 棒を折る若い男 制作年不詳 銀尖筆・灰色の淡彩、赤みをつけた紙 11.8×7.3
ドメニコ・ヴェネツィアーノ(推定) 座るこ人の若者 制作年不詳 ペン・褐色の淡彩・鉛白、青い紙 26×14.1
フイリッポ・リッピ 女性の頭部 制作年不詳 銀尖筆・鉛白、ペンと赤チョークによる描き起こし、黄褐色をつけた紙 30×20.5
アンドレア・アル・カスターニョ(推定) 弓を持つ女 制作年不詳 ペン・褐色の淡彩、白地の紙 29.3×17.8
ベノッツォ・ゴッツォリ 人物習作 制作年不詳 ペン・褐色の淡彩・鉛白、赤みをつけた紙 18.2×21.2
ドナチソロの追随者 15世紀後半 マントを着た男 制作年不評 ペンまたは筆、白地の紙 19.8×17.6
マーゾ・フィニグエッラ 喇叭を吹く裸体の若い男 制作年不詳 ペン・褐色の淡彩、黒チョーク、白地の紙 49.5×13.0
マーゾ・フィニグエッラ 当時の衣装を着た若い男 制作年不詳 ペン・褐色の淡形、白地の紙 18.6×10.8

作家名 作品名 制作年 材質・形状 寸法
アントニオ・デル・ポッライウォーロ(推定) 座る半裸の男 制作年不詳 銀尖筆・鉛白、赤みをつけた紙 26.4×13.3
サンドロ・ボティチェリ(推定) 信仰 制作年不詳 黒チョーク、ペン・褐色の淡彩・鉛白、一部赤みをつけた白紙の紙 39.4×27.4
サンドロ・ボティチェリ(推定) 女性の習作 制作年不詳 黒チョーク、白地の紙 26.9×15.9
ジュリアーノ・ダ・サンガッロ 紙片を引きちぎるマントの男 制作年不詳 黒チョーク、ペン・褐色の淡彩・鉛白、スポルヴェロで一部赤みをつけた白紙の紙 39.4×27.4
ドメニコ・ギルダンディオ マントを着た女性 制作年不詳 ペン・褐色と薄い赤の淡彩・鉛白、白地の紙 29.0×13.1
レオナルド・ダ・ヴィンチ 習作 制作年不詳 銀尖筆、赤みをつけた紙 30.319.4
フィリッピーノ・リッピ 東方三博士の礼拝 制作年不詳 黒チョーク・ペン・褐色の淡彩・鉛白、黄色みをつけた紙 10.7×35.5
フィリッピーノ・リッピ 二人のマントを着た人物 制作年不詳 金属尖筆・鉛白、灰色の紙 9.0×24.0
ロレンツォ・ディ・クレディ 布をまとった婦人の頭部 制作年不詳 銀尖筆、茶色による淡彩・鉛白、赤みをつけた紙 24.0×17.9
フランチェスコ・グラナッチ キリストの十字架降下 制作年不詳 黒チョーク、白地の紙 22.2×17.9
ミケランジェロ・ブオナローティ 鷲にさらわれるガニュメデス 制作年不詳 赤チョーク・擦筆、白地の紙 30.9×23.3
フラ・バルトロメオ ゲッセマネの祈り 制作年不詳 ペン・鉛白の跡、青色が塗られた白地の紙 23.5×16.2
フラ・バルトロメオ 王座の聖母と諸聖人 制作年不詳 黒チョーク・擦筆・白チョーク・赤チョークの跡、茶に染められた紙 23.0×16.0
フラ・バルトロメオ 習作 制作年不詳 赤チョーク・黒チョークの跡、黒と赤のチョークによる方眼を引いた白地の紙 27.6×18.7
フラ・バルトロメオ 立てる聖パウロ 制作年不詳 黒チョーク・擦筆・白チョーク、灰色がかった色で染わられた上に黒チョークで方眼を引いた紙 27.6×18.7
アンドレア・デル・サルト 立てる洗礼者ヨハネ 制作年不詳 黒チョーク、白地の紙 40.5×17.3
アンドレア・デル・サルト キリストの復活 制作年不 赤チョーク、白地の紙 22.0×18.5
アンドレア・デル・サルト 裸の子供達の習作 制作年不詳 赤チョーク、白地の紙 20.0×27.7
アンドレア・デル・サルト 頭部の習作 制作年不詳 黒チョーク・部分的に淡彩白地の紙 21.8×18.1
ボントルモ 二人の男性裸像 制作年不詳 赤チョーク・白地の紙 39.42×6.6
ボントルモ 枝にまたがる裸の子供 制作年不詳 黒チョーク、黒チョークで方眼を引いた白地の紙 22.7×10.0
ボントルモ ターバンを頭に巻いた男 制作年不詳 赤チョーク・部分的に淡彩、白地の紙 24.7×14.8
ボントルモ 半裸の女性像 制作年不詳 赤と黒のチョーク・白チョーク、赤チョークで方眼を引いた白地の紙 40.2×27.4
バッチョ・バンディネッリ 聖母の誕生 製作年不詳 ペン、白地の紙 20.0×26.0
バッチョ・バンディネッリ コジモ・デ・メディナ公の肖像 制作年不詳 黒チョーク、白地の紙 26.6×20.3
アニョロ・フロンズィーノ 女性の肖像 制作年不詳 赤チョーク・白チョークの跡、白地の紙 39.1×26.7
アニョロ・ブロンズィーノ ひざまずく男 制作年不詳 黒チョーク、黒チョークで方眼を引いた白地の紙 35.5×27.7
ジョルジョ・ヴァザーリ 降誕 制作年不詳 ペン・褐色の淡彩、白地の紙 17.9×11.4
ジョルジョ・ヴァザーリ 扉絵のための習作 制作年不詳 ペン、白地の紙 26.5×19.5
ジョルジョ・ヴァザーリ 座る男性像 制作年不詳 黒チョーク、白地の紙 35.3×25.3
アレッサンドロ・アッローリ 装飾のある額縁 制作年不詳 黒チョーク・ペン、白地の紙 31.4×41.2
サンティ・ディ・ティート 降誕 制作年不詳 黒チョーク・ペン・褐色の淡彩・鉛白、黒チョークで方眼を引いた青い紙 41.6×25.8
ジョヴァン・バッティスタ・ナルアイーニ キリストの十字架降下 制作年不詳 黒チョーク・グレーの淡彩・ペン、白地の紙 34.6×24.0
ヤコポ・リゴッツィ 戦闘場面 制作年不詳 黒チョークの痕跡・ペン・褐色の淡彩・鉛白・金によるハイライト褐色がかったグレーで染められた紙(白チョークによる方眼の跡) 34.8×33.2
ベルナルディーノ・ボッチェッティ 天井装飾の習作 制作年不詳 黒チョーク・ペン・鉛白、栗色に染められた紙 23.5×31.5
アンドレア・ボスコリ 若い女と二人の幼児 制作年不詳 赤チョーク・擦筆、白地の紙 42.9×31.8
ルドヴィゴ・チゴリ 座る若い女性 制作年不詳 赤チョーク、白地の紙 41.8×27.6
ルドヴィゴ・チゴリ 羊飼いの礼拝 制作年不詳 ペン・褐色の淡彩・鉛白・赤チョーク及び黒チョーク痕跡、白地の紙 28.8×21.5
ヤコポ・ダ・エンポリ 男性裸像 制作年不詳 赤チョーク、白地の紙 42.5×24.4
アウレリオ・ローミ 東方三博士の礼拝 制作年不詳 黒チョーク・ペン、白地の紙 40.6×28
グレゴリオ・パガーニ ロトと娘たち 制作年不詳 木炭・青い淡彩・鉛白、淡青色に染められた紙 125.7×20

新聞雑誌関係記事
新聞記事
朝日:7月27日(夕刊)(岡田温司)
日経:8月26日
京都:8月10日(藤 慶之)
産経:7月22日(M)
読売:8月3日(安黒正流)
神戸:7月13日、8月3日(山本忠勝)
信濃毎日:7月19日
岩手日報:7月18日
日本海新聞:7月19日
四国新聞:7月20日
高知新聞:7月21日
愛媛新聞:7月21日
山陽新聞:7月23日
徳島新聞:7月25日
創価新報:8月21日(宮川美法)
雑誌記事
SAGAS:Vol.8 1991年8月28日(室井絵里)美術館ニュース「視る」:289号(池上公平・遠山公一・河口公生)、290号(上平貢・岡田温司・勅使河原純)

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