ヴァチカン美術館特別展 −古代ギリシャからルネッサンス、バロックまで

 本展は、国立西洋美術館との共催展で、「ヴァチカン美術館」のコレクションのなかから、古代ギリシャ・ローマ、中世、ルネサンスそしてバロックまでの優品62点を展示した名品展である。ミケランジェロが絶賛し今日世界的に知られている古代彫刻の傑作<ベルヴェデーレのトルソ>、バロック芸術の立役者のひとりカラヴァッジオの<キリストの埋葬>、ヴェロネーゼ、プッサンなどの極めて質の高い作品、つまり、美術史的価値を括弧に入れても今日の私達の美意識に働きかける力を持ち続ける作品が出品された。

 出品作は、絵画・彫刻・工芸・写本とジャンルは様々だが、本展はまた、古代ギリシャ・ローマからバロックまでの約2500年間の西洋美術の流れを次のような視座に立って辿れるよう、構成されたものである。

 一つは、古代からバロックに至るまでの西洋美術における人体表現の展開を跡づけることである。例えば、幾何学的線描によって物語のエッセンスのみを伝えるギリシャの壺絵の人体、静謐晴朗な様式をみせる古典期から力感と官能美を追求するヘレニズム期へと展開する、ギリシャ・ローマ彫刻の肉体。キリスト教の浸透に伴って誕生する、宗教上の価値観に応じた造形理念に基づいて構成される中世の人体群。ギリシャ・ローマの追求した写実と理想美の再生であるとともに、肉付法・明暗法・解剖学・科学的遠近法を発明するとともに身振り・表情・視線言語を開拓し新たな写実的人体表現を追求したルネサンス。理想化を排し尖鋭な人体言語と強烈な明暗法やダイナミックな配置によって演劇的かつ迫真的人物表現を目指したバロック、さらに優雅・軽妙さあるいは色彩やマティエールの美を追求し人体の可読性を解体していく後期バロックへと、本展は西洋美術における人体表現の変遷を紹介した。

 いまひとつの意図は、こうした人体表現の変遷の背後に横たわる、ギリシャ哲学・キリスト教・科学的合理主義・演劇性などの精神史文化史的土壌を再確認することにあった。展示は、I古代(14点)、II中世(20点)、IIIルネサンス(16点)、IVバロック(12点)という4つのセクションで構成された。

 ヴァチカン美術館は、正式には<教皇の歴史的建造物、博物館、ギャラリー群>と呼ばれ、性格の異なる複数のギャラリーからなる。こうした、美術館の構成・特色・歴史もカタログの論文・パネルで紹介した。また、展覧会の趣旨と作品解説を掲載した小冊子(鑑賞のてびき)も配布した。(永井)

会期
8月1日(火)〜9月10日(日)
入場者数
107,636人(一日平均2,990人)
共催
ヴァチカン美術館、国立西洋美術館、読売テレビ、読売新聞大阪本社
出品目録
作者名 作品名 制作年 材料
ヴァチカン73の画家 黒像式オペル c.前630-615 コリント陶器
アルケシラスの画家 黒像式キュリクス c.前555 ラコニア陶器
ヴァチカンの哀悼者の画家(ヴァチカンの350の画家) 黒像式アンフォラ c.前350 アッテイカ陶器
フィアレの画家 白地蕚形クラテル c.前440-430 アッテイカ陶器
作者不詳 走る少女 紀元前5世紀中頃のブロンズ像に基づくローマ模刻 大理石
作者不詳 騎馬人物の墓碑浮彫 c.前430 石灰岩
作者不詳 ソクラテス像 紀元前4世紀の原作に基づくローマ時代の模刻 大理石
作者不詳 アポロン・サウロクトノス(トカゲを殺すアポロン) 紀元前350年頃のプラクシテレスのブロンズ像原作に基づくローマ時代の模刻 大理石
作者不詳 エウリピデス像 紀元前4世紀後半の原作に基づくローマ時代の模刻 大理石
作者不詳 オトリコリのゼウス 紀元前4世紀のブリュアクシの原作(?)に基づくローマ時代の模刻 大理石
作者不詳 ニオベの娘 紀元前4世紀の原作に基づくローマ時代の模刻(?) 大理石
作者不詳 水浴のアフロディテ(ヴィーナス) 紀元前3世紀のドイダルサスの原作に基づくローマ時代の模刻 大理石
作者不詳 ベルヴェデーレのトルソ 前1世紀 大理石
作者不詳 グラティディア・クリテとグラティディウス・リバヌスの肖像 前1世紀第4四半期 大理石
作者不詳 善き牧者 ローマ、3C末 大理石
作者不詳 「受難伝の石棺」型の石棺 ローマ、c.360 大理石
作者不詳 「律法の授与」が表わされている石棺の前面および類似の装飾が施されている浮彫板2面 石棺前面:ローマ、c.370 浮彫板2面:ローマ、c.400 大理石
作者不詳 カプセルラ・アフリカーナ 5C末-6C初頭
作者不詳 法王ヨハネ7世像 ローマ、705-706 モザイク断片
作者不詳 お告げ コンスタンティノープル、8C-9C初頭 絹、綾織り
作者不詳 プトレマイオスの天文学著作集 コンスタンティノープル、813-820 羊皮紙、95葉
カルロス大帝の宮廷派 「ロルシュ福音書」外装 c.810 象牙彫
カルロス大帝の宮廷派 ロルシュ福音書 c.810 羊皮紙、124葉
ルードヴィヒ1世(敬虔王、在位814-840)の宮廷アトリエ アグリメンソーレス 9C 羊皮紙、137葉
作者不詳 「真の十字架」の聖遺物匣用ケース ローマ、817-824 銀、部分的に鍍金、ニエロ
作者不詳 「真の十字架」の聖遺物匣用ケース ローマ、9C 銀、鍍金
作者不詳 「真の十字架」の聖遺物匣 ローマ、817-824 金、エマーユ・クロワゾネ
作者不詳 ランボーナの二連象牙板 中部イタリア、c.900 象牙彫
マルガリトーネ・ディ・アレッツオ(本名マルガリート・ディ・マニャーノ) アッシージの聖フランチェスコ c.1270-80 テンペラ、板
ジオット 天使像 c.1310 モザイク
シモーネ・マルティーニ 祝福を与えるキリスト c.1320 テンペラ、板
ベルナルド・ダッディ マグニフィカトの聖母 c.1335-37 テンペラ、板
ヴィターレ・ダ・ボローニャ(本名ヴィターレ・デリ・エクイ) 聖母子 c.1350 テンペラ、板
擬アンブロージオ・ディ・バルデーゼ キリスト降誕 1410s テンペラ、板(カンヴァスに移行)
サセッタ(本名ステーファノ・ディ・ジョヴァンニ) 聖トマス・アクィナスの幻視 1423-26 テンペラ、板
ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ 三人の貧しい娘に黄金を授ける聖ニコラウス 1425 テンペラ、板
嵐を鎮める聖ニコラウス 1425 テンペラ、板
マゾリーノ・ダ・パニカーレ(本名トンマーゾ・ディ・クリストーフォロ・フィーニ) 聖母の埋葬 1428 テンペラ、板
フラ・アンジェリコ(本名グイド・ディ・ピエトロ) 皇帝の使者に会う聖ニコラウス/嵐を鎮める聖ニコラウス 1437 テンペラ、板
メロッツオ・ダ・フォルリ(本名メロッツオ・デリ・アンブロージ) 奏楽天使 c.1480 フレスコ
奏楽天使 c.1480 フレスコ
ペルジーノ(本名ピエトロ・ディ・クリストーフォロ・ヴァンヌッチ) 聖女フラヴィア 1495-98 油彩、板
聖プラキドゥス 1495-98 油彩、板
ピントゥリッキオ(本名ベルナルディーノ・ディ・ベット)派 窓辺の聖母 16C初頭 フレスコ(カンヴァスに移行)
使徒ペテロとパウロの審判 1460-64(?) 大理石
ラファエルロ・サンツィオ 信仰/慈愛/希望(バリオーニ家祭壇画の裾絵) 1507 油彩、板
ティツィアーノ・ヴェチェリオ ヴェネツィア総督ニッコロ・マルチェルロの肖像 c.1542 油彩、カンヴァス
ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ) 聖女ヘレナの夢 c.1580 油彩、カンヴァス
ピエリーノ・ダ・ヴィンチ(本名ピエル・フランチェスコ・ディ・バルトロメオ) ピサの保護者としてのコジモ1世 1549以降 カラーラ産大理石
バロッチ(本名フェデリーコ・フィオーリ) エジプト逃避途上の休息 c.1570-73 油彩、カンヴァス
カラヴァッジオ(本名ミケランジェロ・メリージ) キリストの埋葬 1602-04 油彩、カンヴァス
カラツィオ・ジェンティレスキ ユディトと召使い 1611-12 油彩、カンヴァス
グイド・レーニ 聖マタイと天使 c.1620-21 油彩、カンヴァス
グエルチーノ(本名ジョヴァンニ・フランチェスコ・バルビエーリ) マグダラのマリア 1622 油彩、カンヴァス
ニコラ・プッサン 聖エラスムスの殉教 1628-29 油彩、カンヴァス

作者名 作品名 制作年 材料
ジャンロレンツォ・ベルニーニ 慈愛と四人の子供 c.1627-28 テラコッタ
ライオンの洞窟の中のダニエル c.1653-55 テラコッタ
アレッサンドロ・アルガルディ キリストの洗礼 c.1645-46 テラコッタ
カルロ・マラッタ 法王クレメンス九世の肖像 1669 油彩、カンヴァス
ジュゼッペ・マリア・クレスピ 聖家族 c.1735-40 油彩、カンヴァス
フランチェスコ・マンチーネ 聖家族 不詳 油彩、カンヴァス
ポンペオ・バトーニ 聖母子とネポムクの聖ヨハネ c.1743 油彩、カンヴァス

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