バルチュス展

 バルチュスは1908年、パリに生まれ、幼年時代をベルリンやスイスのベルンで過した。父、エリック・クロソフスキーはポーランドの旧家の出で画家であり、また美術史家であった。母のバラディーヌも画家という環境のなかで、バルチュスは幼い頃から画才を顕わし、母と親密な関係にあったライナー・マリア・リルケにその才能を認められた。絵は殆んど独学で、ルーヴル美術館でニコラ・プッサンの作品を模写したり、フィレンツェやアレッツォでピエロ・デルラ・フランチェスカの作品を模写するなど、ヨーロッパ絵画の伝統から多大の啓示を受けて、独自の芸術を醸成した。

 1934年パリで初の個展を開いたのち、38年にはニューヨークで個展を開いているが、その当時から一部で、その特異な才能が認められたが、兵役の為一時その活動は停止する。バルチュスの芸術が充分に開花するのは、第二次大戦終了後のことであった。

 バルチュスは子供のように、捉われのない眼で現実のなかに新鮮な驚き、美しさを見出し、それを堅固な構図のうちに表現する。彼の画面は一見、超現実主義との類似を示すが、日常性のなかの神秘的な現実や美を描出する点で超現実主義とは一線を劃しているのである。彼の画面はあくまでも穏やかで、甘美ですらあり、たとえ彼の近年における高い評価が最近の具象絵画の復権と無縁のものではないとしても、今日の新しい表現主義絵画とは全く無縁のものである。今世紀の様々な新美術運動のなかにありながら、それとは全く無関係に独自の芸術を形成させてきたバルチュスのあり方は、貴重な存在として大いに注目されるべきものといえよう。

 本展は1983年11月〜1984年1月、パリ・ポンピドー・センター、1984年2月〜5月、ニューヨーク、メトロポリタン美術館で引続き開かれた。三展は何れも展示内容が一部異るもので、本展では油彩33点、水彩、素描22点を展示したが、代表作として著名な「山(夏)」(メトロポリタン美術館蔵)、「コメルス・サンタンドレ小路」、「部屋」などをはじめ、珠玉のような代表作が含まれていたため、多数の愛好者の来場を得、国内では殆んど知られていないバルチュスの芸術を知る絶好の機会となった。また本展は国内では京都でのみ開かれたため、東京などからの来場者も多く、その状況は「バルチュス詣」の語を生む程であった。

会期
6月17日(日)〜7月22日(日)
入場者数
総数93,562人(一日平均3,018人)
共催
朝日新聞社、ポンピドー・センター 国立近代美術館
出品目録
作品名 制作年 材質・形状 寸法(cm)
河岸 1929 油彩・麻布 73×59.8
山(夏) 1937 245×353
白いスカート 130×162
子供たち 125×130
ホアン・ミロとその娘ドロレス 1937-38 油彩・麻布 130.2×88.9
ラルシャン 1939 130×162
おやつの時間 1940 73×92
客間 1941-43 114×147
シャンプロヴァンの風景 1941-45 油彩・麻布 96×130
美しい日々 1945-46 148×199
ローランス・Bの肖像 1947 80×60
金魚 1948 62×55.5
「コメルス・サンタンドレ小路」のための習作 1950 71×90
コメルス・サンタンドレ小路 1952-54 294×330
部屋 1952-54 270×330
樹木のある大きな風景(三角の畑) 1955 114×162
パシアンス遊び 1954-55 90×88
白い部屋着の少女 1955 116×88.9
夢I 130×163
黄金の午後 1956 198.5×198.5
読書する少女 1957 162×130
青いバスローブの少女 1958 62×97
昼寝 80×65
アトリエの静物 73×60
ランプのある静物 162×130
シャッシーの農家の中庭 1960 89×96
樹のある大きな風景 130×162

作品名 制作年 材質・形状 寸法(cm)
1959-60 カゼイン・テンペラ、麻布 162×130
三人の姉妹 1959-64 油彩・麻布 130×192
モンテ・カルヴェロの風景 1977-80 カゼイン・テンペラ、麻布 130×162
画家とモデル 1980-81 226.5×230.5
スカーフを持つ裸婦 1982-83 油彩・麻布 163×130
鏡を持つ裸婦 1982-83 163×130
『嵐が丘』のための習作 1932-33 ペン・墨 31.8×25.4
アントナン・アルトー 1935 24.1×20.3
『チェンチー族』のためのエスキース 1935 30.5×38.1
樹の習作(シャンプロヴァン) 1939 ペン・淡彩 45×30
Aの肖像 1943 鉛筆 82.5×75
ジャネットの肖像(眠る女) 40×40
自画像 88.3×47.5
「部屋」のための習作 1949 木炭 37.9×54
暖炉の前の裸婦 1954 鉛筆 53.5×40
1956
「モルヴァン」のための習作 1955 水彩 48.7×37.4
「夢I」のための習作 48.7×37.4
静物(マルメロと梨) c.1956 35×51
静物(四つのリンゴ)
「窓辺の少女」のための習作 1957 42.5×52.5
果物のある静物 1963 30×40
少女の習作 鉛筆 57×42
座る少女 1972 100×70
モンテ・カルヴェロの風景 1972 水彩 34.5×50
ミケリーナI 1973 鉛筆・木炭 100×70
ふたつの薔薇 c.1974 39×56
籠のある静物 水彩 77×60

新聞雑誌関係記事
朝日/5月24日、6月1日、6月9日、6月12日(夕)、6月15日、6月18日〜22日(5回連載、吉村良夫)6月17日、6月18日、6月28日(夕)、6月30日(夕)、7月8日、9月4日(夕)渋澤龍彦
読売/6月20日
毎日/6月22日、7月10日(夕)山村 悟
日経/6月22日(滝 悌三)
京都/6月30日、8月9日(池内 紀)
日刊ゲンダイ/7月3日
聖教新聞/7月28日(坂崎乙郎)
新美術新聞/6月21日、7月1日、7月11日(岡田隆彦)
文化庁月報 No.189
Focus No.26
朝日ジャーナル 6月27日号
Le'clebs No.25
美術手帖 No.530(生田耕作)
みずゑ No.930(與謝野文子、阿部良雄、渡辺守章)
芸術新潮 84年6月号、8月号(金子国義)
アール・ヴィヴアン No.12

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