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キュレトリアル・スタディズコレクションに見る「手わざ」の美

コレクションに見る「手わざ」の美

期間
平成20年8月26日(火)~11月24日(月)
展示作品
コレクションに見る「手わざ」の美 展示目録

第I期  9月9日(火)~10月19日(日)

「没後10年 下村良之介展」は、当コレクション・ギャラリーにも晩年の大作を集めて開催いたしましたが(8月31日まで開催)、その下村良之介独自の個性をもっとも特徴づけているのが、当館所蔵の代表作《鳥不動》をはじめとする、一連の「紙粘土」を用いた作品群です。市販の木工用ボンドに紙粘土を混ぜて画面の下地をつくり、様々のかたちを刻み込んだ木型を押しつけ、油絵のペインティング・ナイフや壁土や漆喰を塗るときに用いる左官用のコテなどを用いて丁寧に成形してゆくその技法には、従来の「日本画」とはまったく異なる、修練を経たひとつの「手わざ」の美が示されています。下村はこの技法を1960年代初頭にはわが物とし、1998年制作の絶筆《赫日》にいたるまで、執拗に追求しました。

そして、このたび開催される「生活と芸術——アーツ&クラフツ展」は、まさに「手仕事の良さを見直し、自然や伝統から美を再発見し、シンプルなライフスタイルを提案」したもので、ウィリアム・モリスを中心とする作家たちの作品にも、随所に「手わざ」の感性が息づいています。その意味で、今回コレクション・ギャラリーに展示している「工芸」部門の富本憲吉、河井寬次郎らの陶芸品や、下村良之介をはじめ、様々な画家たちの作品に、あらためて「手仕事としての制作」という視点から光をあて、見つめ直していただく機会になればと思います。

一般に「手わざ」という言葉から、私たちはすぐに、すぐれた「工芸品」というイメージを思いおこします。しかしながら、下村良之介の作品をはじめ、たとえば小牧源太郎が描く大作のマチエールなどにも、一種「工芸的」な表現の痕跡が示されているでしょう。また、明治時代の京都洋画の黎明期に活躍した田村宗立、あるいは櫻井忠剛の作品には、徹底した「写実」を目指し、「真物に見ゆる画」(田村宗立)を描こうとした「手わざ」による表現技巧がつくされています。いわば油彩画の誕生期も、こうした「手わざ」によって、いかに「写実力」を高めてゆくかという、その一点に絞られていたといって過言ではありません。

さらに時代は移りゆき、現代の油絵においても、岡鹿之助などは自らの堅実な「手わざ」を信じるように、独自の「点描」表現によって、実に緻密な造型性を獲得しています。そして、「筆触」をまったく残さないエアブラッシュによるアクリル画の三尾公三。具体美術協会に属していた元永定正や菅野聖子、前川 強なども、同じくアクリルを用いたり、綿布による丹念な画面処理を施したりと、「手わざ」の美が実現されています。

当コレクション・ギャラリーでは、《月明を翔く》の連作をはじめ、晩年の「紙粘土」を用いた下村良之介作品を、継続して展示するとともに、とりわけ「工芸」と「洋画」のジャンルで、こうした「手わざ」の美が示されている作品を集めてみました。

第II期  10月21日(火)~11月24日(月・祝)

「生活と芸術——アーツ&クラフツ展」(11月9日まで開催)は、19世紀後半にイギリスで提唱されたデザイン運動で、「手仕事の良さを見直し、自然や伝統に美を再発見し、シンプルなライフスタイルを提案」(本展チラシ文)しました。そしてウィリアム・モリスを中心とする作家たちの作品には、随所に「手わざ」の感性が息づいています。

今回コレクション・ギャラリーでも、「工芸」部門の富本憲吉、河井寬次郎らの陶芸作品をはじめとして、様々な画家たちの作品にも、あらためて「手仕事としての制作」という視点から光をあて、「手わざ」の美を紹介する場といたしました。

一般に「手わざ」という言葉から、私たちはすぐに、すぐれた「工芸品」というイメージを思いおこします。しかしながら、今回紹介している「洋画」作品のなかにも、たとえば小牧源太郎が描く大作には、そのマチエール(表面の「地肌」)に、一種「工芸的」な表現処理を感じとることができるでしょう。また、明治時代の京都洋画の黎明期に活躍した田村宗立、あるいは櫻井忠剛の作品には、徹底した「写実」を目指し、「真物に見ゆる画」(田村宗立)を描こうとした「手わざ」による表現技巧がつくされています。いわば油彩画の誕生期には、こうした「手わざ」によって、いかに「写実力」を高めてゆくかということが目標であったといって過言ではありません。

さらに時代は移りゆき、現代の油絵においても、岡鹿之助などは自らの堅実な「手わざ」を信じるように、独自の「点描」表現によって、実に緻密な造型性を獲得しています。そして、「筆触」をまったく残さないエアブラッシュによるアクリル画の三尾公三。具体美術協会に属していた元永定正や菅野聖子、前川 強なども、同じくアクリルを用いたり、綿布による丹念な画面処理を施したりと、「手わざ」の美が実現されています。

今回の小企画で、工芸・絵画における「手わざ」について、あらためて思いをはせていただければ幸いです。


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