コレクション・ギャラリー

コレクション・ギャラリー 平成20年度 第4回展示 (計160点)

期間
平成20年6月10日(火)〜7月6日(日)


主なテーマ
【ルノワール+ルノワール展 関連展示】オーギュスト・ルノワールとパリ・モード
【洋 画】 新収蔵作品——洋画
【西洋美術】海外の近代美術
【日本画】 初夏
【版 画】 池田満寿夫の版画
【写 真】 写真における印象派と映画
【工 芸】 陶芸、染織の名品
【小企画】 日本の印象派

展示作品
平成20年度 第4回コレクション・ギャラリー 展示目録



デイ・ドレス 1875年頃
京都服飾文化研究財団所蔵/福永一夫撮影


写真における印象派と映画
ヨーロッパで印象主義の絵画が登場した19世紀後半は、1839年のダゲレオタイプの発明から始まる近代の写真術が急速な進歩を遂げた時期と重なります。写真機やレンズの改良、ゼラチン乾板の導入(1871年)などにより、写真術は飛躍的に簡便なものとなり、写真撮影はスタジオから屋外へ、専門家から一般市民のものへと広がっていきます。撮影される被写体も、スタジオの中での「特別な設定」から、日常生活のスナップや自然や都市のなにげない風景が多くなっていきます。またこの時代は、エドウィアード・マイブリッジらによる動態撮影への挑戦(1872年)などに見られるように、写真によって運動を記録しようとする熱望が生まれた時代でもあります。19世紀後半の写真と印象主義の絵画は相互に多大な影響を与え合いながら展開し、やがて映画という20世紀の特徴的なメディアへと収斂していったと言うことできるかもしれません(映画は、一般的には1895年にリュミエール兄弟によって発明されたと言われています)。
今回の展示は、現在当館で開催中の「ルノワール+ルノワール展」に関連して、1860年代の初期写真から1910年前後の近代写真の確立期までの風景や肖像写真、動態写真を紹介し、ポスト印象主義をも含む当時の絵画と映画との関係を、コレクションの写真を手がかりに探る試みです。

写真と映画という新しいメディアは、一方で伝統的な絵画や演劇を参照しながら制作され、他方で、そのような伝統的な世界を乗り越える可能性も次々に探究しました。この可能性はその主題と、フレーミングの多様性や時間経過による画面の変化などによって開かれました。
主題の観点からは印象派の絵画は、19世紀前半までの神話的・宗教的主題を扱った啓蒙の手段や権力の象徴としての芸術から脱却し、当時の中産階級の日常生活やレジャーを主題にしたことが指摘されます。印象主義の絵画には、俯瞰視点や近景の大胆な介入、そして一点透視図法ではない平面的な構図などの日本絵画からの影響と共に、写真のスナップショットとも符合する画面構成が頻繁に見られます。さらに、画家たちが絵画の対象を屋外へと拡大したことで、多様な構図の選択肢が生じ、その選定には、写真のフレーミングが大きな影響を与えたと言われています。古いメディアと新しいメディアとの相互作用がここにも指摘できるでしょう。また外光の変化や人物の動き、つまり時間経過それ自体を捉えようとした印象主義の試みは、写真の連続としての映画の発明に通底すると考えられます。
映画登場の背景には、通常の人間の視覚では把捉不可能だった一瞬の情景や運動による変化が印象主義の絵画や写真によって知覚の領域に浮上したことにより、人々の視覚自体が変革され、その視覚的欲求を満たす新しいメディアの登場を待ち望む当時の中産階級の人々の強い関心があったと思われます。

特筆すべきは、印象主義の絵画の主題が画家自身の眼前の光景、つまり身近で個人的なモチーフを描いた傾向と、発明当初は戦争や海外旅行や学術調査などの出来事の記録として活用されていた写真メディアが、19世紀後半以降、より私的な主題と撮影方法にシフトした時期とが重なる点です。
視覚芸術の主題が、知識や教養による読解を必要とする歴史的な「大きな物語」から、眼前の個別的で現在形の「小さな物語」へと移行した19世紀後半から20世紀初頭の動向は、その後現在まで継続される近代の作品制作態度への重要な転換期であったと捉えることができます。
(学習支援係・豊田直香)



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