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キュレトリアル・スタディズコレクションに見る明治

コレクションに見る明治

期間
平成18年11月9日(木)~ 12月24日(日)

展示作品
コレクションに見る明治 展示目録

     11月17日から、本年の当館の特別展として「都路華香展」が開催されます。
     都路華香は、明治3年京都に生まれ、内国勧業博覧会や絵画共進会、そして明治40年に開催された第1回文展などに出品、受賞を重ね、文字通り明治時代の京都・日本画壇を代表する作家のひとりでした。さらに注目すべきは、自らの画塾を主宰するとともに、京都市立絵画専門学校、京都市立美術専門学校で教鞭をとり、次代を担う有力な若手作家を育てた、指導者としての力量も見逃せません。けれども、没年(昭和6年)の翌年に大規模な遺作展が開催されて以降、現代にいたるまで、残念ながらその業績を回顧する展覧会が開かれたことはなく、今回の特別展が、まさに画業再評価の貴重な場となっています。そして都路華香が、「明治の時代」に作家としての評価を定めた事実をふり返ることも、今回の展覧会の見所のひとつといって過言ではありません。
     そこで、今回のコレクション・ギャラリーの小企画は、都路華香と同時代に制作された当館の日本画・洋画そして工芸のコレクションによって、あらためて「明治」という時代に照準を合わせてみました。
     この時代に制作された当館の日本画コレクションでは、たとえば富岡鉄斎の《富士遠望・寒霞渓図》(明治38年)や、竹内栖鳳の《蕭条》(明治37年頃)をはじめ、橋本関雪が第3回文展で褒状を得た《失意》(明治42年)などが、その代表作といえるでしょう。そして、明治の風俗画という視点からも興味深い、秦テルヲの《当世風俗二題(工事場・夜景)》(明治44年)や、明治9年に建仁寺に創設された駆黴院を描いた田村宗立《京都駆黴院図》(明治18年)は、当時の京都の貴重な面影を伝えています。
     また「明治時代」が、いわゆる水彩画全盛の時代だったことも、長谷川良雄や田中善之助ら、いわゆる浅井 忠門下の作家たちの水彩画秀作群が、雄弁に物語っています。周知のように、当館の位置する岡崎公園では、明治28年に平安神宮の鎮座式が行われ、第四回内国勧業博覧会が開催され、平安遷都千百年記念祭、そして時代祭もはじまりました。京都洋画界の先駆者・田村宗立に師事した伊藤快彦の《柳馬場より平安神宮を望む》(明治28年頃)は、まさにこの時代の京都の新風景を活写したものだったのでしょう。風景を描くには、水彩がもっとも適した画材ですが、当時の画家たちは、好んで水彩を用いて、「明治の京都」風景を数多く残しました。
     さらに、開館当初より、当館は工芸作品のコレクションと展示にも重点をおいていますが、明治時代の工芸品には、蒔絵や漆など、その表現技術は、万国博覧会への出品作をとおして、海外でも高い評価が与えられていました。
     ところで今回、特別に加えた明治天皇と昭憲皇太后の愛玩品であった煙管と置物は、須田国太郎の良き理解者でもあった日本画家・神阪松濤に贈呈されたもので、象牙細工による当時の工芸技術の水準の高さを示しています。

(主任研究員・山野英嗣)

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