地下アイドル

セレブとセレブリティがちがうように、スターとアイドルも別物だ。かつては銀幕やブラウン管の向こうにいるスターに、一方的に思いを寄せるしかなかったのが、いまでは駅前広場やCDショップの仮設ステージにいて、名を叫べば声が届いて、並べば握手もしてもらえる。スターはファンひとりひとりの顔なんて覚えないだろうが、アイドルは常連ヲタの顔を忘れたりしない。
どんなアイドルにもヲタがいて、ヲタがいるからこそアイドルがいる。アイドルはヲタの欲望や妄想の結晶化だし、ヲタはアイドルの輝きのなかに包まれたファミリーの一員でもある。アイドルとヲタ、それは鏡の両面でお互いを見つめあう幸福な双生児なのだ。
2014年から今年まで、アイドル雑誌で『IDOL STYLE』という連載を丸5年間続けた。2ページの片方には「地下アイドル」と呼ばれる子たちを、もう片ページにはそのトップ・ヲタを、それぞれの自室で撮影し、対比するように掲載した。アイドルという名を持つ普通の女の子の暮らしをかいま見る、それは貴重な機会になった。

上:ヨネコ
元BELLRING少女ハート、MIGMA SHELTERの元メンバー。現在「無所属セルフプロデュースソロアイドル」。2018年

もともとアイドルじゃなくて声優になりたかったんです。中学のころアニヲタで、コスプレイヤーもやったり。それで両親を説得して高1で声優の養成所に入ったんですが、ナルコレプシーという持病があって。突然、耐えられない眠気に襲われて、どこでも寝ちゃうという。それで学校のあと養成所に行って、終電で帰ってくる生活が無理になって、いちど辞めたんです。そのときに友達にオーディションに誘われたのがアイドルになるきっかけでした。

ただ、アイドルのことがまったくわからなかったから、最初はとまどったし、すごいバッシングを受けるようなこともしてしまったり。でもこれに人生を賭けるぞって決めて、部屋に貼ってあったアニメのポスターとかもぜんぶ剥がしてがんばってきたんですね。

それでグループは有名になったけど、いろいろあって辞めて、大学も卒業して、いまはまっさらの状態でソロになったということです。ソロデビューするまでにいろいろ、お話もいただいたし、すごく悩んだけど、やっぱりひとりでやってみようと。

大学は文化服装学院の短大でした。私、一日3回着替えが必要な女だったんですよ(笑)、気分がころころ変わるんで。なので楽しかったし、学んだことはいまのグッズ製作とかにも活かされてるので。ただ、ああいう学校は入ったときから就活みたいな感じで、私はそういうのとはちがう。変な言い方だけど、「私は一般人ではないから」って、ずっと思ってたんです。自分なりにプライドを持って、必死にがんばってきたので、まだぺーペーのくせに、そんな意識がすごく強かったんです。

いまはソロ活動と、中学時代に憧れてた声優の道にもういちど挑戦したくて、オーディションを受けたりしてます。すごい倍率が高いのはわかってるんですけど、でもがんばってみたいなって。病気のほうも、いい薬が見つかったので、いまは薬さえ飲んでればなんとか大丈夫なので。

中:・
「・・・・・・・・・」で「ドッツ」「ドッツトーキョー」などと呼ばせる覆面(サングラス)アイドルグループ。メンバーの氏名は全員「・」(てん)。2018年

ずっとAKBさんとかが好きで、ブロマイドとかめっちゃ集めてヲタクする側だったんですけど、見てるうちにだんだんやってみたいなぁと思って。それで「東京の女の子を作ろう」みたいなプロジェクトがあったので応募したら、受かっちゃったんです。そこはホームページもホームページもめっちゃピンクでかわいくて、青山とか原宿でライブするって言ってて、それに釣られたんですけど、そしたら最初の説明会で、ひょえ~みたいな感じになっちゃって(笑)。言ってることが難しすぎたし、聞いたことない言葉もいっぱいあって。でも普通のアイドルさんじゃない感じがして、それも楽しそうだなと。

最初のころはメンバー全員、「シューゲイザーってなに?」みたいな状態だったけど、取材を何度も受けてるうちに、自分を説明することで自分たちがだんだんわかってきた(笑)。

でも、曲は最初から好きでした。もともとはAKBさんとかアイドルっぽい曲がよかったけど、グループに入ってからはBiSHさんとかヤなことそっとミュートさんとか、そういう感じの曲調が好きになって、いまはけっこう音楽の勉強になってる感じです。お客さんも最初は「こいつら個性ないみたいな」、「みんな同じ顔じゃん」とか、あとは歌ヘタくそとか言われてたんですけど、2年やってきてだんだんパフォーマンスも歌も認められてきたのかなと。

ドッツって、もともとコンセプトが置き換え可能みたいな感じじゃないですか。だからファンのあいだでも「代わりはいない!」というひとたちと、コンセプト重視で代替可能だというひとたちと、いろんな意見があって。最初は私も個性が消されてるなぁと思ったんです。みんな同じ衣装でメンバーカラーもないし。それで運営さんと喧嘩してたりしてたけど、「にじみ出る個性を愛してもらうように」って言われて。たしかに私から見ても、メンバーひとりひとりサングラスで隠されても、みんな個性があると思うし。それぞれいろんなものを持ってるって、だんだん思うようになりました。

とにかく、このサングラスした姿が「素顔」なんで(笑)。電車もこれだし。前もお正月にライブがあって、道を歩けば「うわ~」みたいな感じの目でJKとかに見られたりして、ガチで逃げたこともありますから。だから置き換え可能なのかもしれないけど、「誰が誰かわかんないよ」とか言うひともいれば、ニックネームが変わっても「何々ちゃんだよね?」って覚えてくれてるひともいる。自分の中では本当にメンバーは唯一無二だし、代わりはないって思ってます。

下:カナミル
おやすみホログラム 2015年

もともとバンドやってたんで、アイドルというもの自体をよく知らなかったんです。だから実は、なんとなくなっちゃった(笑)。当時は学生だったんですけど、学校にはほぼ行ってなくて、実家の部屋でずっと引きこもりでゲームやって、みたいな生活だったんで、やることないし、ならやってみようという感じでした。

それで何回かライブをしているうちにメンバーが2人になってしまって、その最初のライブの時に、BiSの研究員たちがおもしろがって集まってくれたんですね。でも最初のうちはお客さんの勢いに飲まれちゃって、もうすべてが全然足りない。お客さんが私たちをからかって、私たちはそれに「あ~」ってなることしかできないっていうのが、ずっと続いてた。ただ歌うだけしかできないみたいな。

私たちのライブって、アイドルを知らなかったお客さんがけっこういるんです。おやホロに来て、初めてアイドルを初めて見たという人が。LOFTでやってるハバナイとかNATURE DANGER GANGのお客さんが来てくれるようになって、アイドルもすごい面白いからライブに来てみたっていう人が増えてきて、そのあたりからめっちゃ変わりました。

けっきょく私自身はアイドルへの憧れがあんまりなかったんで、だからおもしろいのかもしれない。昔からピアノとか、いろんな楽器をやってはいたけど、もともと人前で何かするのは得意じゃなかった。絵も描けないし。なにかを表現したいけど、それができない感じだったんです。で、アイドル活動をしているうちに、いつのまにかフラストレーションがバッバッって解消できてるなって、最近感じるんですね。

昔は自分を表現する方法がなかったけど、今はそれが解放できてるって。あとはバク転ができるようになりたい! この部屋じゃ練習ができないけど、ステージでバク転ができるようになれたらうれしい! それがいまの目標かな(笑)。

右下:BELLRING少女ハート、ライブ会場チェキ列の女ヲタ@渋谷TSUTAYA O-nest、2015年

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